プロローグ
文字数 384文字
少女は金色の豊かな髪と、金色の瞳。
素足で波打ち際を歩いていた。素足をくすぐる並みの感触を楽しむかのように、ステップでも踏んでいるかのような軽い足取りで歩いている。
誰もいない夜の海岸を、今日も少女は一人、歩いていた。
月の光で淡く彩られる少女は、人と言うよりも天女といった形容がふさわしい。
羽のように軽い足取りを見ていると、本当に羽か羽衣があるのではないだろうか、と思えてくる。
ただ…
軽い足取りとは別に、その黄金色の目には、楽しさの欠片も無かった。
憂鬱そうな表情を含んだその目で、少女はある一ヶ所を見つめる。
岩に囲まれた小さな入り江。
その奥に洞窟。
少女の目はその洞窟を見つめていた。
洞窟に入ったことは無い。
その、暗くぽっかりと口を開けた入り口を、金色の瞳は見つめていた。
そして目をそらすように、沖へと視線を転じる。
沖には船の影一つ無く、ただ黒くうねっているだけであった……