鈴生りの頭
文字数 1,557文字
墓地に到着したのは、日がどっぷり暮れてからでした。僕の他に人はおりません。夜中の墓地というのは、如何 にも何か 出そうですからネエ……。彼女が化けて出てくれるのならば、僕は大歓迎なのですが……。
都会のビルディングのように林立する墓の森の中に入りますと、奇妙なものが目に飛び込んできました。背 の高い植物のようなものが、墓石の近くにゆらゆら揺れているのです。良く見ると、その植物は一つの墓石に対して一本ずつ生えている様子でした。また、背の高いとお話しましたが、それは、僕が初めに見たものが背が高かっただけで、僕の膝くらいの高さの、小さいものもありました。
どんなに美しい花を咲かせているか、どんなに青々とした葉を開いているか、どんなに芳 しい香りを撒いているか、僕はとても興味がありました。そこで、その植物に歩み寄りますと……。どんな花だったと思いますか。
ハハア、向日葵 ……。背が高い花といえば、向日葵が真っ先に思い浮かびそうなものですからネエ。
……すみません、少し意地悪をしてしまいました。それは花ではなかったのです。そもそも植物に分類して良いのか……。ハア、勿体ぶらずに教えてくれ……。分かりました。俄 には信じ難いと思いますが、僕はこの目で見たものを正直に話しているのですからね。気が違っている、なんて言わないでくださいね……。
頭 。頭を鈴生 りに付けた植物が、生えていたのです。
髑髏 ではございません。肉を持った人間の頭が、茎にぶら下がっていました。野菜の茄子はご存知でしょう。あれの実を、人間の頭に入れ替えたような風体でありました……。
人間の頭は、株によって生っている数が異なりました。背の高い株ほど多くが生っています。多いもので十 、少ないもので一。十もの頭が生った株は、重みに耐え兼ねて頭 を垂れていましたっけ……。
老若男女、色とりどりの顔が下がっておりました。彼らは一様に目を閉じていましたので、多の視線に晒される恐怖というのは味わわずに済みました。
「お兄サン……お兄サァン……」
声が響きました。周囲を見渡しても、「お兄サン」らしき人間は僕しかいません。自分が呼ばれたものと思いましたが、声……少女の声の出どころが分かりませんでした。少女を求めてグルグル回っていると、
「アハアハ……ここよ、お兄サン……」
再び呼ばれました。声の方を向きますと、少女の首が、目を開いて、こちらを眺めています。少女はニコニコ笑って、僕を見ています。胴から離れた首が喋っている事に、初めはビックリしましたが、そういうものなのだと受け入れる事にしました。
「君、名前は何ていうんだい……」
「アタシ、サチ子……お兄サンは……」
「賢一郎 だよ……」
「ヘエエ……賢一郎だから、ケンちゃんなのね……ウフウフ……」
ドキリとしました。亡くなった彼女は、僕を「ケンちゃん」と呼んでいたのです。サチ子は、僕がそう呼ばれているのを何故か知っている様子でした。
「アタシ達のお墓の二つ後ろにいるお姉サンがね……ケンちゃんケンちゃんって、貴方が帰った後に、泣いてるの……」
お姉サンというのは、ユキ子だろうと思いました。ここの墓地には、ユキ子の為だけに来ていましたから……。僕が帰った後に、ユキ子が泣いている……その事実に、胸が痛くなりました。
「お兄サン、お姉サンとお話して……」
「ユキちゃんの痛みを取り除いてあげて……」
「ケンちゃん……」
「お兄サン……僕応援してるから……」
「ファイトォ……」
頭は、皆僕を見ています。老若男女問わず、見ています。気味悪さは、感じませんでした。皆が僕を応援し、ユキ子の涙を止めてやれと言うのですから。胴体の有無が何ですか。彼らは、胴体が有る人間と変わりませんでした。
僕はエールを浴びながら、ユキ子の墓へ向かいました。
都会のビルディングのように林立する墓の森の中に入りますと、奇妙なものが目に飛び込んできました。
どんなに美しい花を咲かせているか、どんなに青々とした葉を開いているか、どんなに
ハハア、
……すみません、少し意地悪をしてしまいました。それは花ではなかったのです。そもそも植物に分類して良いのか……。ハア、勿体ぶらずに教えてくれ……。分かりました。
人間の頭は、株によって生っている数が異なりました。背の高い株ほど多くが生っています。多いもので
老若男女、色とりどりの顔が下がっておりました。彼らは一様に目を閉じていましたので、多の視線に晒される恐怖というのは味わわずに済みました。
「お兄サン……お兄サァン……」
声が響きました。周囲を見渡しても、「お兄サン」らしき人間は僕しかいません。自分が呼ばれたものと思いましたが、声……少女の声の出どころが分かりませんでした。少女を求めてグルグル回っていると、
「アハアハ……ここよ、お兄サン……」
再び呼ばれました。声の方を向きますと、少女の首が、目を開いて、こちらを眺めています。少女はニコニコ笑って、僕を見ています。胴から離れた首が喋っている事に、初めはビックリしましたが、そういうものなのだと受け入れる事にしました。
「君、名前は何ていうんだい……」
「アタシ、サチ子……お兄サンは……」
「
「ヘエエ……賢一郎だから、ケンちゃんなのね……ウフウフ……」
ドキリとしました。亡くなった彼女は、僕を「ケンちゃん」と呼んでいたのです。サチ子は、僕がそう呼ばれているのを何故か知っている様子でした。
「アタシ達のお墓の二つ後ろにいるお姉サンがね……ケンちゃんケンちゃんって、貴方が帰った後に、泣いてるの……」
お姉サンというのは、ユキ子だろうと思いました。ここの墓地には、ユキ子の為だけに来ていましたから……。僕が帰った後に、ユキ子が泣いている……その事実に、胸が痛くなりました。
「お兄サン、お姉サンとお話して……」
「ユキちゃんの痛みを取り除いてあげて……」
「ケンちゃん……」
「お兄サン……僕応援してるから……」
「ファイトォ……」
頭は、皆僕を見ています。老若男女問わず、見ています。気味悪さは、感じませんでした。皆が僕を応援し、ユキ子の涙を止めてやれと言うのですから。胴体の有無が何ですか。彼らは、胴体が有る人間と変わりませんでした。
僕はエールを浴びながら、ユキ子の墓へ向かいました。