交差点のワンちゃんマン

文字数 956文字

 この街には『正義の味方・ワンちゃんマン』がいるらしい。
 そんな輩がいようがいまいが、ニートをしている私には全く関係ないのだが。
 今日も平日の昼間から散歩だ。健康維持のために歩く。ニートたるもの、簡単に病院送りになってしまってはかなわない。風邪などに罹ってしまうと病院代がかさむからな。一日2万くらいは歩かなくてはならない。それと筋トレ。他には木刀の素振りなど、武道にも励む。そして、社会から離れているので、社会情勢を知るためにニュースを見る。このくらいできずに何がニートだ。
 さて、散歩に出てきたのはいいが、何やら街の様子がおかしい。横断歩道を歩く人々が戸惑っている。なんだ? 違和感を察知した私は、信号を見た。ついていない。歩行者信号が。これでは赤なのか青なのか、渡っていいのかいけないのかわからない。一大事だ。それでも人々は、車の信号を見て、歩いていいか悪いか判断して横断していく。確かに問題はないと言えばない……いや、あるだろ。大ありだ! 信号機の故障だとしたら、早急に警察に届けないと大事故につながるだろう! 人々よ、何も考えずに横断していくが、この中から警察に行く人間はいるのか? いや、みんな仕事などで忙しくてそんな場合じゃないだろう。自分のことで手一杯。さらに言うなら警察に届けるなんて面倒ごとに巻き込まれたくない。ここは……私が行くしかない。
 私は交番のドアを引くと、その場にいた警察官に交差点の信号機が止まっていることを説明した。すると……。
「なんですって!? それは一大事じゃないですか。至急現場に急行します」
 おっと、何やら大事になりそうだ。というか、やっぱりこの事態は大事だったのか。私は無言でその場を去ろうとした。

「ご協力感謝します! ワンちゃんマンさん」

 ……ワンちゃんマン……? 今、私をそう呼んだか? おかしい。私はただのニート。ワンちゃんマンという変なヒーローではない。ただ、ちょっと犬の被り物をして近所を徘徊しているだけの、ニートなのだ。

 ああ、そうか。私だけではない。今みたいに何かあったとき、いち早く本当の正義の味方に連絡することのある人間……それがきっと、街を守る『ワンちゃんマン』になるのだろう。
 私は何事もなかったかのように、交番をあとにすると、また散歩を続けた。
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