名水に映える「更待月」

文字数 386文字

「ね、おいしーい珈琲飲みに行く?」
 あきちゃんはそう言うと、私の返事を待たずに信号を左折しました。車が進路を変えた後で、私は「いいわね」と答えました。
 あきちゃんとはもう何年の付き合いになるのでしょう。短大に入った時からだから、もうすぐ五十年。それぞれの夫が年金暮らしになってから、こうして二人でドライブ旅行をするようになりました。どちらの夫も頼りなくて、留守中はいろいろと困っているようですが、たまには妻のありがたみを知る機会があってもいいわよと誘ってきたのはあきちゃんでした。
 276号線に入ると正面に北海道が誇る名山、羊蹄がそびえています。その裾野の町、京極は羊蹄の雪解け水で知られる名水の町です。良い水のあるところにおいしい珈琲店あり。道南を旅行した帰りに京極へ寄るのは二人旅の定番です。
 五十年来袖摺れの友。ハンドルを握るあきちゃんは羊蹄を見つめて楽しそうです。
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