第2話

文字数 3,217文字

ヨウコとレイカは目的のビルへ歩いて行って、僕はその後ろについて行った。


このへんにもよく来くるので、そのビルのことはボクも知っている。人間が住まなくなった、まるで巨大な虫の脱け殻のような廃墟ビルだ。一階には侵入者を阻むようにステンレス製の網の目のフェンスで囲まれていて、玄関入り口は背の高いベニヤ板で封じてある。

一応フェンスに「立入禁止」という赤文字で書かれた看板が付けられてるけど、括りつけてる一方のワイヤーが落ちてしまって看板は斜めに風に揺れている。実はフェンスの方も金網が一部破れているところがあって、身をねじれば人ひとり入れるほどの隙間がある。


その先にある庇(ひさし)の奥の虚ろな玄関口は、一見ベニアに封じられているように見えるけど、すでに誰かによってこじ開けられてしまってるみたいだ。その上から破れたベニヤの覆い隠すために修理が一応されているみたいだけど、よく見ればそれすらガバガバで開くのも難しくない。

「なんか、思った以上に荒らされてるみたいね」
「近くで見ると怖いね・・・やっぱわたし無理かも」
「怖いってレイカ・・・あんたが来ようって言ったんじゃん。ちゃんとよく見てよ。ただの古いビルだってば」
「じゃあヨウコ入ってみてよ」
「はいはいっそれじゃはいってみますかぁ」
「って、え?マジで入るつもり?」
いちおう道路の左右をキョロキョロしながら人の目がないことを確認してから、ヨウコはどう入ろうかと、立ちはだかる金網フェンスを当たりをつけて調べ始めた。
「本当に入るつもり?」

「うん入るよ」
ヨウコはそう言って、素早くフェンスをチェックして回っているうちに、一箇所割れ目が開いままになっている場所があることに気づいた。
「気をつけて。ここ針金出てるから」
「うん・・・・」

レイカは頷きつつもビクビクしながら後ろを振り返りながらフェンスの割れ目をくぐった。


その先を往くヨウコは腰に手を当てながら目の前のビルを見上げていた。

「よしフェンスクリア! そしたらふぅ~ん、なかなか様になってる廃墟だね!かなり時間立ってるみたいだけど、こういう所って若者のストレス発散のターゲットにされるんよね」
自分のことを棚に上げながら、ヨウコは玄関に貼られたバリケードのベニアを調べ始めた。
「当然これも壊されてるぽいよ。こっちのベニアを動かせば手前側にずれせるみたい。こっから中に入れそうだよ」
「ホントに入るつもりなの・・・? カメラとか付いててケーサツとか来ない?」
[「これ廃墟だよ。電気通ってないし平日の夕方だし別に誰も来やしないって。暗くなる前に出れば大丈夫だってば」
「そうかなぁ・・・なかに誰かいたり、ワンチャン本当に赤い目がみえたらどうするの?」 
「そんなの廃墟探索した時にたまたま誰かいて、ビビって逃げた奴が勘違いしてネットで拡散して、みたいな大抵そんなもんだよ。つまりこれは噂と現実の検証するチャンスだよ」
「まぁ言い出したのは私だしね・・・・」
「行くよ?」
「・・・わかったよ。OK!」
ヨウコがベニアを脇に寄せて先に玄関に入り込む。レイカが後に続いた。


僕もひょっこり後に続く。


廃墟ビルの中は暗くて湿気がこもり空気が悪い。


テナントのためのメインスペースへと続く廊下にはゴミや大小様々な瓦礫が散らばっていて、足元に注意しながら先に進んでいった。壁には電気配線や水道管が露出していて、あちこち湿っているのは、どこか排水が雨漏りしているせいかもしれない。頭上の方から落ちてくる水滴のしたたる音が聞こえてくる。

「スマホのライトつけるか。電池はしばらく持ちそう」
「私のは・・・ちょっとヤバいかも」
「なら節電で後についてきて。でさここって昔は人が住んでたの?」
「住居スペースってよりも色々な店が入ったみたいだよ。前におばさんにここのこと聞いたんだけど、昔は美容院とかあと託児所とかも入ってたらしいよ・・・あと他に会社のオフィスとかなのかな?」

「ふーん・・・今じゃ想像もうできないね。この雨漏りの音は諸行無常の響きって感じ?」
「ヨウコは怖くないの?」
「ジメジメ暗くて私もちょっとは怖いけどさ、中は朽ちてるけど荒らされてないしさ、案外ここそこまで危なくなさそうだよ。誰かがいても大声出してダッシュすれば大丈夫だよ。あっ、この右奥に階段あったわ!」
「え!?どこまでいくの?上はマジで危ないんじゃない?罠とかあったらどうするの?」
「それDBDのやり過ぎだろ!? こんなところに罠なんてありえんてば!てかボケかましてないで、スマホのライトあるでしょ。上にいけるでしょ、気をつけながらね」
「あっ!こっちにはエレベーターがある。でももう動くはずないよね・・・・」
「もうたぶん壊れてるよ。階段行こう」
二人は階段を上り始めた。階段部分のコンクリートも老朽化してきているものの、まだ耐久性は十分ありそうだった。

二人は慎重に階段を登って言った。途中の階の各フロアも見てみるつもりだったが、フロアに入る廊下の入り口にバリケードがなんども再度貼り直したりして頑丈に塞いでいて入れないように隙間なく閉ざされていた。
「つうか途中のフロアはちゃんと封じてるんだね?なんか階段を上にはいけるみたいだけど・・・・」
「や、やっぱりさ・・・・やめない?」
「何言ってるの、ここまで来たら行くでしょ」
「そりゃそう言うよね。やっぱガチのオカルトマニアにはかなわないわ」
「いいから黙って足元をちゃんと照らせって」
途中のどのフロアもバリケードが貼られていて入れないまま、やがて最上階に着いた。というのもそれ以上のぼる階段がなかったらだ。

最上階は他の階と違ってバリケードがなくて、フロアが大きく開け放されていた。部屋の奥の方の窓から、落ちる前の太陽がオレンジ色の光を差し込んでいた。
「ここ何階だろ?」
「たぶん七階か八階くらいじゃない?」
「うわっ!見てよ窓の向こう・・・」
「うわ!すごい・・・」
 二人は思わずその光景につられて窓際に駆け寄って外を見た。外には街の景色が一変したみたいに遠くまで見渡すことが出来た。背の高いビルがなく建物自体も少なくて、遠く彼方に山や緑を一望することができた。目立つのは高い煙突で、その先端から白煙をたなびかせて、その煙を夕日が赤く染めていた。それは彼女たちの初めて見る昭和の次代にあった郷愁を引く美しい光景だった。
「きれい・・・」
「本当だね・・・ってかさでもさ、村山台の駅なくない?」

「え?まさか! あれ、あれじゃない?でもあんなに小さいわけないか。いや建物を突き抜けて一応線路通ってるぽいけどねぇ」

「だね・・・。ここって武蔵野の町中だし、もっと栄えてるはずでしょ?ってわかりきったこと言ったけど、これじゃでも、まるで昔の田舎の風景って感じじゃない?」
「うん、でもなんか懐かしいよね。なんでだろ?あたしなんだかこの感じ好きかも」
「いやちょっと待って・・・。よくわかんないけどこれって何かマズいこと起きてるんじゃない?‥‥」

レイカはこの景色に魅せられたように見入って一方ヨウコは当惑しながら二人ともそのまましばらく窓のそとのその光景から目を離せずにいた。


そのとき僕は横からすごく嫌な視線を感じて、反射的にそっちの方へと首を回した。するとそこに驚くべき存在が立っていた。

「・・・・・・・・・・」
「あっ!!」
「ん!?・・・え?・・・なに!?」

 ヨウコとレイカもほぼ同時にその存在に気づいたようで、知らぬ間に立っていたその人物を信じられないといったようすで見つめた。しかし彼女たちからたった三メートルほど離れた場所に、たしかに赤い目を光らせる女がいる。


 二人はまるでその目に魅入られてしまったように、いや痺れてかのように動けずにいた。存在するはずがないと思っていた存在に見つめられ、その視線を外せずにその現実を理解するまでに少しの時間が要るといった風に。


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫。ナレーションができる猫である。

赤い目の女。

イケメン警官

ヘリコプターのパイロット

レンジャー部隊のホープ。職務に忠実な若者。

赤い目の女の悪霊

謎の少年

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