第4話
文字数 3,693文字
少女たちは外に懸命に声を張り上げて助けを求てみたものの、返事は返ってこなかった。
赤い目の女は薄く微笑を浮かべ、まるでこれを楽しんでいるかのようだった。そしてゆっくりとした歩み少女たちとの距離を詰めていくのだった。
突然聞こえてきたその声にしばらく反応できずにいたが、振り返るとそこに一人の少年がひとりしゃがみこんでいた。部屋の隅に向かってガラスが割れた窓から夕焼け色の斜光が差し込んでその少年を照らしていた。僕はすぐに猫の直感でそれが人間でないことがわかった。
僕は少年に尋ねてみた。
「それって赤い目の女こと?」
そういうと小さな少年は踵を返してしばらくするとその姿は何処かへと消えてしまった。
この廃墟ビルティングに一体どれだけ怪異があるのか僕にもわかっていない。もしかして各フロアごとになにかあるのかもしれない・・・・。
上のほうで悲鳴が響き渡る。
レイカの悲鳴の聞こえてくる方を頼りに僕はそっちに向かって階段を駆け上がった。結局最上階まで上がっていくと、そこには赤い目の女が二人をジリジリと窓際へ追い詰めていくところだった。
にわかに遠くから今度は複数のサイレンの音が聞こえてきた。また誰かが通報したのだろうか?今度は救急車と警察車両の両方のサイレンの音がこちらへ近づいてくるようだ。
ヨウコがそう言いいいながら振りって見ると、そこにさっきまでいた、赤い目の女の姿はなかった。
レイカが階段の方へ視点を移し探してみた。しかしそこにも誰もおらず、階下から上がってくる気配もなかった。
ほどなくして今度は外から誰か大人が泣き叫んでいるような大きな悲鳴が聞こえてきた。
再び外を見みると、下には人だかりが出来ていて、その中心にまるで波紋のような空白が広がっていって、そこに出来たむき出しのアスファルトの地面に浅黒い赤い血だまりが広がっていくのが見えた。そこには誰かがぎこちない姿で倒れていて、それは白い制服を着ている救急隊員のようだ。
それはおそらく初速189Kmで飛んでいって向かいで現役で稼働している綺麗なオフィスビルのカラス窓を突き破って一瞬でそれは建物の中へと消えていってしまった。
そしてその奥でものすごい大きな鈍い音がしてそれはこちらの廃墟ビルディングの屋内にも反響してきた。
向こうのビルの割れた窓ガラスが路上に散らばり、路上に溜まっていた群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げてゆき、同時に怒号が巻き起こった。
それは不運にも、電信柱の上部の方に打ち付けられてしまったようで、鈍い音を鳴らすと背中があらぬ角度でネジ曲がってって、そのまま頑強な電信柱を滑り落ちるように頭から落下していって、頭蓋の割れた乾いた音が路上に響いた。白いユニフォームとアスファルトに鮮血が滲んで広がっていった。
しばらくの沈黙があり、その後周りにいた人々の悲鳴が涌き上がって伝染していった。
二人の少女はその声に促され周りを見渡した。
最上階から屋上に上がる階段はこれ以上ないが、フロアの一角の壁に、伸長式のハシゴが設置されているをみつけた。そしてその真上の辺りの天井にハッチが設けられている。
ハッチはすでに、誰かが開けたのか、開けっ放しになっていてその穴から上弦の月が浮かぶ空が覗けた。
少女たちは背後から迫る存在をひたひたと感じながらハシゴを登っていった。
そして屋上から身をのり出すと、床のコンクリートは風雨で劣化してしていておぼつかない感じだったが、もうためらっている暇はなかった。思い切って二人は屋上に飛びのると、上空のヘリコプターに向かって手を振った。
僕もジャンプすると更に途中のハシゴで跳ねてなんとか屋上に這い上がることが出来た。
時刻はすでに日の入りを過ぎていて、地平にわずかな黄昏の余韻が残っているだけだった。あたりはすっかり闇に包まれていた。
上空に薄い光をたたえた上弦の月をバックにヘリコプターが旋回を続けていて、そのローターの轟音と風圧が屋上全体を覆っていた。
ヘリコプターからロープがするすると落ちてきた。ロープに安全帯がついていて、それに紐付けた一人のレスキュー隊員が一緒に降下してきた。
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