第4話

文字数 3,693文字

「どっちもやだっての!!」
「どうかゆるしてください!!」
ヨウコとレイカは息を合わせて、かけ出しすと猛ダッシュのまま階段を下っていった。僕もその背中を後を追って一心不乱に一階降り、さらに二階降りてみると、そこにはもう先まわりした赤い目の女が立ちはだかっていた。
「まるでわたしたちあいつに遊ばれてるみたい・・・・」
「もうダメ・・・・ハァハァハァ」
「わたしもわかない・・・・どうすればいいの・・・?」
「誰か助けて〜〜!!!」

「レイカ!届かないよ・・ってワンチャン私も一緒に叫んだら聞こえるかも!?」


「うんそうだよ!!」
「誰かーーー!!!」
「助けてくださーーーーい!!!」

少女たちは外に懸命に声を張り上げて助けを求てみたものの、返事は返ってこなかった。


赤い目の女は薄く微笑を浮かべ、まるでこれを楽しんでいるかのようだった。そしてゆっくりとした歩み少女たちとの距離を詰めていくのだった。

「やっぱりこのまま叫んでてもダメだ!!あいつに掴まれたらもう終わりだよ。もう一回上に逃げるしかない!!」
「うん!!行こう!」

少女たちは上の階へ向かって駆け上っていった。それに合わせて赤い女の姿は嘘のように一瞬でその場からいなくなっていた。


そのとき意外な方向から僕の猫耳に何者かの声が聞こえてきた。

「あの女の人は、いっつも窓から外を見てるんだよ」

突然聞こえてきたその声にしばらく反応できずにいたが、振り返るとそこに一人の少年がひとりしゃがみこんでいた。部屋の隅に向かってガラスが割れた窓から夕焼け色の斜光が差し込んでその少年を照らしていた。僕はすぐに猫の直感でそれが人間でないことがわかった。


僕は少年に尋ねてみた。


「それって赤い目の女こと?」

「うんそうだよ。あの人に話話をしてもダメなんだ。僕とは話してくれないし、とにかくいつも怒ってるんだ。今日はとくにめちゃくちゃに怒ってるみたいだけど・・・・」
「うん確かにそうみたいだね。で、きみはここに住んでいるの?」
「うん、僕は3階に住んでるんだ。でも今日は起きたら上のほうがめちゃくちゃうるさいからさぁ、気になって登ってきちゃったんだよ」
「確かにあの女の人はめちゃくちゃ怒ってるみたいだね。ところ君の名前なんて言うんだい?」
「僕はユウタだよ」
「そうか・・・それじゃユウタくん。ここは出てこないで引っ込んでたほうがいいよ。これからさぁ、ここでもっと物騒なことになるかもれないんだ」
「そうなの?」
「うん、たぶん」
「そっかぁ・・・・わかったよ。それじゃぁ猫さんまた来たら話しかけるね・・・・」

そういうと小さな少年は踵を返してしばらくするとその姿は何処かへと消えてしまった。


この廃墟ビルティングに一体どれだけ怪異があるのか僕にもわかっていない。もしかして各フロアごとになにかあるのかもしれない・・・・。


さて置いて、ヨウコとレイカの後を追うことにした。
「ぎゃああああ!!!!」

上のほうで悲鳴が響き渡る。


レイカの悲鳴の聞こえてくる方を頼りに僕はそっちに向かって階段を駆け上がった。結局最上階まで上がっていくと、そこには赤い目の女が二人をジリジリと窓際へ追い詰めていくところだった。


にわかに遠くから今度は複数のサイレンの音が聞こえてきた。また誰かが通報したのだろうか?今度は救急車と警察車両の両方のサイレンの音がこちらへ近づいてくるようだ。

「もしかして誰かが声が気づいたかな!?」
「だとしても、こいつをどう止めれば・・・・・」
僕は窓枠に飛び乗って、ガラスが破れた窓サッシの上から下を見下ろしてみると、路上にはどこからか集うやじうまの黒だかりかま騒いでいた。そのうちの何人かが僕たちのいる階を見上げている。もしかして悲鳴を上げた二人の少女に気づいたのかもしれない。
「あっ救急車にパトカーも来てる!!もしかして誰か通報てくれたかな!?」

「いや、警官が落ちたからじゃない?」
今度は上空からヘリコプターの音が聞こえてくる。そしてその音はだんだんと近づいてくるようだ。
「ヘリコプター!?」

「もしかして救助ヘリが!?」
少女たちは窓から身を乗り出し、上空で旋回するヘリコプターに向かって手を振った。
「ここに居ます!!助けてくださーーーい!!!」
ヘリコプターに搭乗していたベテラン隊員が二人の姿を見つけて無線連絡する。
「こちらレスキューヘリ。最上階に救助要する二名がいる模様。ロープをおくり救助します」
するとその連絡を受けた地上の救急隊員三名が、すみやかに動き出してフェンスをくぐり玄関口を通って廃墟ビルへと突入していった。
「やっぱりあたしたちを助けに来てくれたのかも!」
「うんでも、あいつがまた・・・・」

ヨウコがそう言いいいながら振りって見ると、そこにさっきまでいた、赤い目の女の姿はなかった。


レイカが階段の方へ視点を移し探してみた。しかしそこにも誰もおらず、階下から上がってくる気配もなかった。

ほどなくして今度は外から誰か大人が泣き叫んでいるような大きな悲鳴が聞こえてきた。


「ああっ!!」
「どうしたの!?」

再び外を見みると、下には人だかりが出来ていて、その中心にまるで波紋のような空白が広がっていって、そこに出来たむき出しのアスファルトの地面に浅黒い赤い血だまりが広がっていくのが見えた。そこには誰かがぎこちない姿で倒れていて、それは白い制服を着ている救急隊員のようだ。


「ヤバイ!!ここに来ちゃだめなんだよ!!!」
「来ちゃダメ・・・?」
次の息をする間もなく、大きなパチンコ玉のように二三階階下のフロアの窓から何かが激しく弾き出された。

それはおそらく初速189Kmで飛んでいって向かいで現役で稼働している綺麗なオフィスビルのカラス窓を突き破って一瞬でそれは建物の中へと消えていってしまった。


そしてその奥でものすごい大きな鈍い音がしてそれはこちらの廃墟ビルディングの屋内にも反響してきた。


向こうのビルの割れた窓ガラスが路上に散らばり、路上に溜まっていた群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げてゆき、同時に怒号が巻き起こった。


「もう無理かも・・・・」
群衆の怒号が静まる間もなく、つづいてもう一人が廃墟ビルからはじき出された。まるでロケット人間のように三発目が発射されたのだ。

それは不運にも、電信柱の上部の方に打ち付けられてしまったようで、鈍い音を鳴らすと背中があらぬ角度でネジ曲がってって、そのまま頑強な電信柱を滑り落ちるように頭から落下していって、頭蓋の割れた乾いた音が路上に響いた。白いユニフォームとアスファルトに鮮血が滲んで広がっていった。


しばらくの沈黙があり、その後周りにいた人々の悲鳴が涌き上がって伝染していった。


「なに?なんなの?どうしてなの・・・?」
「ホントにどうすれば・・・・」
「これって本当に現実なの!?」
「もう私にもわかんないよ・・・・」
そんな時、ヘリコプターがビルに距離を詰めてきた。

その風圧を受けて我に返った少女二人にむかってスピーカーから大きな掛け声が頭上から聞こえてきた。
「屋上にあがれるか!?」

二人の少女はその声に促され周りを見渡した。


最上階から屋上に上がる階段はこれ以上ないが、フロアの一角の壁に、伸長式のハシゴが設置されているをみつけた。そしてその真上の辺りの天井にハッチが設けられている。


ハッチはすでに、誰かが開けたのか、開けっ放しになっていてその穴から上弦の月が浮かぶ空が覗けた。
「レイカ!ワンチャン助かるかも!!」
「で、でも・・・もう・・・・」
「ダメだよ!諦めないで!!ラストチャンスかもだけど行こう!!!」
「わかった・・・・わたったよ!」

少女たちは背後から迫る存在をひたひたと感じながらハシゴを登っていった。


そして屋上から身をのり出すと、床のコンクリートは風雨で劣化してしていておぼつかない感じだったが、もうためらっている暇はなかった。思い切って二人は屋上に飛びのると、上空のヘリコプターに向かって手を振った。

「助けて!!!」
「ここにいるの!!!」

僕もジャンプすると更に途中のハシゴで跳ねてなんとか屋上に這い上がることが出来た。


時刻はすでに日の入りを過ぎていて、地平にわずかな黄昏の余韻が残っているだけだった。あたりはすっかり闇に包まれていた。


上空に薄い光をたたえた上弦の月をバックにヘリコプターが旋回を続けていて、そのローターの轟音と風圧が屋上全体を覆っていた。


ヘリコプターからロープがするすると落ちてきた。ロープに安全帯がついていて、それに紐付けた一人のレスキュー隊員が一緒に降下してきた。

「ひとりずつ吊りあげるので落ち着いてください!」
若いレスキュー隊員が屋上に着地するのを待っていたかのように、

女が再び現れた。
《・・・・・・・・》

完全に日が落ち暗闇に支配された屋上に、赤い目の女が立っていた。


漆黒の衣をまとい、その長い黒髪がヘリコプターの風によってまき上げられ、まるで怒りを表すかのように激しく逆立っていた。決して消えない憎悪の火を燃えたぎらせる赤い目は怪しく光りまくり、彼らの方へ近づいてゆく。


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫。ナレーションができる猫である。

赤い目の女。

イケメン警官

ヘリコプターのパイロット

レンジャー部隊のホープ。職務に忠実な若者。

赤い目の女の悪霊

謎の少年

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