第4話

文字数 510文字

友人は半狂乱になり、私を小突いた。私は土下座し泣きながらごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返した。3度目に叩こうとした時、父が私に覆い被さった。

「誠に申し訳ありません。猫を外に出したのは私です。娘は外に出さないよう、十分注意して世話していました。お金でお気持ちの済む事ではありませんが、慰謝料をお支払い致します」

「お金の問題じゃないです!」

友人は棺を引ったくるように抱いて、玄関を出て行った。

数日後、彼女から連絡が来た。保管義務違反で訴えるという。途方に暮れている私に、母が言った。

「大丈夫や。取り下げると思うで」
「なんで分かるん?」
「私、数年前から、なんでやろ、なんでやろって思ってたんや。どこも悪ないし。こういう事やったんかもなあ」
「…どういう意味?」
「不謹慎かもしれへんけど、こんな事で負けてたらあかんで。強く生きていかんと」

母はその翌週の土曜日、友人と食事をした帰り、列車の脱線事故に巻き込まれて帰らぬ人となった。友人は告訴を取り下げた。

母は、自分の寿命を勘で察していたのか。
だからあんな妙な事を言ったのか。
けれど、なぜそれを言ってくれなかったのかと、今更ながら強く思う。
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