第1話

文字数 463文字

私の母は、動物の死期がわかった。
母は動物が好きで、老齢で弱っている地域猫を庭の犬小屋で寝起きさせ、餌を与えていた。
ある日母が言った。

「この子もう、明日までやろうな」

私にはいつもと変わらずおとなしく寝ているだけにしか思えなかったが、翌日の夕方、小屋を見に行ったら猫は死んでいた。この猫の場合は寝たきりの老人みたいなものだったので、母の言葉は偶然とも言えるが、我が家で飼っていた雑種犬のチロが死んだ時は少し様子が違った。

8年前の夏だった。チロは当時で6歳。朝からカンカン照りの暑い日、車庫でぐったりしていた。チロは庭で放し飼いにしており、日向の庭と涼しい車庫を自由に行き来できる環境にあった。

これも私にはいつものようにバテているだけにしか見えなかったのだが、母は、チロが危ないと言って、急いで家の中で寝かせた。日射病に罹っていたらしい。その日に病院に入院させたが、母はぽつりと、明日までやな、と言った。

「それはないんじゃない? 元気に帰ってくるって」

と私は言ったが、翌日、チロは冷たくなって帰ってきた。
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