八 襲来

文字数 602文字

海は凪いている。校舎は、朝早く校庭で部活をしていた生徒たちも帰宅したようで、沈んだように静かだった。
穏やかで平らな青い水面に、ふわりと白い炎が浮かぶ。
「なーんだ、あれ。」
多分、ああいうのは勝てないやつな気がする。
僕はベランダの灼けた柵に腰掛けて、口笛を吹いた。
「もっと丁度いい面白いのがいいんだよな。」
眼下に目を遣ると、アパートの敷地を囲む藪の中に人影が見えた。四人の若い男女が茂みを掻き分けてこちらに向かってくる。
「丁度いいの来たじゃん。」
ニヤリと笑うと、階下のベランダから飛び出した弱者の青年が庭を駆け抜けていく。
「何してんの?どうせ見えないんだから。」
あれの弱さだと姿も気配も見えない。何をしようとしてるのか。
「綾……!やっと会えた。」
青年は走りながら叫んだ。叫んで叫んで、藪の手前まで辿り着いて、立ち尽くした。
四人組は、一人の少女と三人の男だった。
活発そうな少女は金髪の男性と手を繋いで歩いている。
青年は棒のように立っていた。僕は弾けるように吹き出した。
「馬鹿!見えてないんだから。」
しかも、懇ろな男がいることを見せつけられて。
僕は高笑いしながら下に飛び降りた。
青年の顔を見てやろう。その後、彼ら四人組は恐らく一階から廃墟を見て回るだろうから、一階に潜んで脅かしてやろう。
庭に踏み入れた瞬間、海上の炎はそこに来ていた。
青年の立ち尽くす先に炎は留まり、それは巨大な異形に変わる。
少女が悲鳴を上げた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み