六 勝手な独白

文字数 466文字

「勝てるかな。」
僕は能面に向かって突っ込んでいった。
表面が削られる感覚。初めて感じる。
裂けた口に吸い込まれる。
このまま、僕は散り続けたとしたら、何が待っているのか。
「いや、負けたくないかな。」
僕は思い切り、巨大な女を切り裂く。真ん中から縦に分裂した女はそのまま回復せずにふわりと散った。
「勝っちゃったよ。」
削られ、霧散したものが僕に吸収されていく。
アパートは静かに戻った。否、ずっと静かだったんだろうけど。

「あの、ありがとう。」
泣きそうな声が聞こえた。
ふわふわとした輪郭の人影。
「あ、生きてた。」
「助けてくれて、ありがとう。」
青年は泣き出した。弱い。何もかも弱い。
「俺、思い出した。綾を守りたいから、俺は消えられないんだ。」
「誰だよそれ。」
青年は形を取り戻し始めた。
「俺の好きな人。この街に住んでる。ずっと、ずっと好きで、でも、好きになっては貰えなかったから、せめて、ずっと守りたい。何かあって、俺はもう消えてもいい存在だから。」
「へー。怖いね。」
気持ち悪い。と言うと、青年は、わかってる、でも、本当にありがとう。と情けなく笑った。
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