第2話 梅雨の季節は

文字数 2,332文字

 サイド 瑞樹

 今日はたかちゃんとデートなの。日曜日だけどサークルもないし、天気もいいし、絶好のデート日和。
でも昨日の夜に降った雨で道がぬかるんでいるのが玉にきず。
 
 たかちゃんはどんな服が好きかな。あたしはクローゼットをあけて一番のお気に入りワンピースを出してみた。
 今は六月、梅雨の時期だ。だから半そででも寒くないし、薄手のワンピースはいいかも。
 青い小さな花柄模様のワンピースを鏡の前で身体にあててみた。うん、いい感じ。
 
 それを着てパンプスを履いて外に出る。
 うん、今日はあたし、決まってる!

 るんるんした気分で大学の寮から出る。たかちゃんを待たせちゃ悪いから十五分前には待ち合わせ場所の寮の入口、門の前に行かないとね。 
 よーし、今日はいいことがありそうだ。って一歩踏み出したら。

 バシャン

 水たまりにハマった。

 青色の花柄模様のワンピースにおもいっきり泥が跳ねた。
 あたしは泣きそうになった。
 せっかくたかちゃんの為におしゃれしてきたのが台無し!

「こんなかっこでデートになんかいけないよう……」

 どうしよう。着替える時間あるかな。あたしは悩んだ。
 そして少し遅れることをたかちゃんにメールした。

『いろいろなことがあって少し遅れます』

 よし、送信! たかちゃん、まってて!

 あたしは猛烈ダッシュしてまた寮の三階の自宅に戻った。今度は黒のジーパンと白のシャツに着替える。黒のジーパンだったら泥が跳ねても目立たないしね! あたしって頭いい! 靴はレインブーツだ! これで文句はあるまい。

 そして急いでたかちゃんの待っている寮の入口に向かって走る。ちなみに男子寮と女子寮は分かれていて、おおきな二棟のマンションみたいな建物になってる。それが大学の敷地の隅にあって、寮の入口っていうのは、この寮の敷地の門のことだ。寮の玄関口のことじゃない。

 走っていたら携帯がブーって鳴った。足をとめて確認するとたかちゃんからだ。

『急がなくてもいい。気をつけろよ』 

 ああ、たかちゃんはやっぱり優しいなあ。
 あたしは走っていた足を止めて歩いてたかちゃんのもとへ急いだ。

 すぐにたかちゃんが見えてくる。たかちゃんは寮の敷地から出て公道の歩道にいた。

「たかちゃん!」

 あたしも寮の門を出て歩道にでたとき。

 ガーピー

 大きな音をたててトラックが通りすぎた。そのとたんに、道路の脇にたまっていた水がタイヤで吹き飛ばされて、もろ全身にあたしにかかった。
 それはもうぐっしょりと、シャワーをあびたみたいにびしょぬれだ。

「瑞樹……大丈夫か?」
「へ、へへ、だいじょうぶ!」

 本当は泣きたかった。
 たかちゃんはあたしをじっと見ている。
 なんだかカッコよく決めているたかちゃんと、びしょぬれのあたしは、貴族と庶民ほどの違いがあるような気がして思わずこう言ってしまった。

「なんだかあたしたちロミオとジュリエットみたいね」
「……意味がわからん」

 あれ? ロミオとジュリエットは身分違いの恋の話じゃなかったっけ?
 違ったかな。



サイド  鷹志

 今日は瑞樹とデートだ。俺は朝からデレデレと鼻の下を伸ばしている。瑞樹はどんな格好をしてくるだろうか。元から可愛い顔をしているし、スタイルも悪くないから何を着ても似合うだろう。

 だから俺も負けてはいられない。瑞樹とつりあうようにちょっと格好つけよう。
 頭は整髪料できっちりと決めた。 
 ビンテージのジーンズにちょっと値のはったTシャツを着て、スニーカーを履く。
 鏡を見て文句なくおしゃれをして瑞樹との待合場所にいく。
 待合場所は寮の入口だ。
 俺は女子寮を隣に見て、瑞樹はどうしているかな、と思いながら寮の敷地の外で待った。

 そうしたらマナ―モードにしてある携帯が音をたてている。
 確かめたら瑞樹からだ。

『いろいろなことがあって少し遅れます』

 ……色々ってなんだ。しかし瑞樹のことだ、何かアホな失敗をして遅れているのかもしれない。それに女の支度は遅いっていうしな。まあ、多少待つくらいならいいだろう。
 待つことよりも焦った瑞樹が怪我でもするかと思うと気がきではない。
 だから俺はこうメールの返事を打った。
 
『急がなくてもいい。気をつけろよ』

 なんだか心配だな。でもいくら瑞樹でも寮から出もしないで、トラブルに巻き込まれることはないだろう。

 しばらくすると瑞樹が早歩きでやってきた。競歩みたいな歩き方だな。急ぐなっていうさっきのメールを守ってるんだろう。いちいち可愛いヤツだ。

「たかちゃん」

 彼女はそう言って俺の元にくる。
 と、そのとき――

 一瞬で彼女はびしょぬれになった。トラックが道路の脇の水たまりを跳ねあげたのだ。

「瑞樹……大丈夫か?」
「へ、へへ、だいじょうぶ!」

 うそだろ? そんな泣きそうな顔して。俺に心配をかけないように、力強く「大丈夫」だと言った瑞樹。そんな彼女を抱きしめたくなるほど愛おしいと思った。
 俺は瑞樹にかける言葉が見つからなくて、無言で彼女を見つめる。
 するとふにゃりと顔をゆがめて彼女は笑った。

「なんだかあたしたちロミオとジュリエットみたいね」
「……意味がわからん」

 突然、瑞樹が意味不明のことを言いだした。
 ロミオとジュリエットは周りに反対されながらも愛を貫き、心中してしまう話だ。
 なんでここでそれが出てくるんだ。瑞樹、お前、一応大学生だよな。それも国立大の。
 それでよく試験が通ったな。

 俺はそんなアホな瑞樹をぎゅっと抱きしめた。

「たかちゃん! 濡れちゃうよ!」
「いいんだ。もう今日は出かけるの止めよう。俺の部屋でお茶でも飲もう」

 俺の服にもしみわたる水たまりの水。
 二人でびしょぬれになりながら、俺たちは寮へと戻ることにした。


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