第8話 私は絶対卒業したい

文字数 1,205文字

 通信制高校探しはほぼ親に頼ることになってしまった。私には考える力も気力も残っていなかったからだ。
 私の症状は人が怖くなることや、自分を攻撃する声が聞こえるだけではなかった。周りを気にしすぎるせいで精神的ストレスが増え、ごはんが喉を通らなくなりやせ細っていた。毎日食べては吐いていた。また、ごはんが食べられないことで体を動かすエネルギーも思考力も落ちますます病状は悪化していた。
 そんな中で母や父は様々な行けそうな通信制高校を絞ってくれた。その中で、私に行けそうな希望を持てる学校がひとつだけあった。
 体調がしんどくても、私は学校を卒業するという選択肢を無くさないために急いで両親と手続きを取ることにした。
 父や母が協力して学校と連絡を取ってくれ、連絡した数週間後には学校見学と面接を同時にできることになった。本当は何校か見に行かなければいけないかもしれないし、比較する必要もあったが、私の時代に通信制高校が少なく自分がいける条件の学校がそこしか無かったのと、私自身そんなに行動力は残っていなかったので仕方なかった。
 とにかく急いで楽になりたかった。
 だからすぐに対応してくれる場所を探した。

 そして、通信制高校への見学と入学面接をする当日。私は朝、父か母と一緒に学校へ向かった。当時の記憶は体が弱っていたせいでちゃんと覚えていない。でも両親のどちらかが連れて行ってくれた。両親が必要な書類を用意してくれたので、私はついて行くだけで済んだから助かった。
 学校へ着くと、私が想像していたのとは違う小さく綺麗な校舎で驚いた。学校というのは校庭やグラウンドがあって立派な校舎があるイメージだが、私が初めて見た通信制高校は普通の小さなビルだった。でも中は綺麗で過ごしやすい環境なのがわかった。
 担当の先生が学校に着いた私たちを見つけて中を案内しながら、小さな教室に案内すると、私に今の状況を聞いてくれた。
 私はありのまま話した。今起こっていることと、今悩んでいること。
 そして、最後に強くこう言った。

「でもいつか大学に行きたいんです。だから、私は絶対高校を卒業したい」

 すると、担当の先生は優しい笑顔で言ってくれた。

「今までよく頑張ったね、この学校でならきっと大丈夫だよ。サポートするからね」

 そして、私はその通信制高校に通うことになった。
 私は通信制高校のその担当の先生の言葉に強く救われた。ちゃんと私にはまだ希望があるのだと安心できた。
 その先生とは卒業した今でも学校へ行けば会える。私はふとした節目や学校の前を通る時があるとちらりと覗いてその先生と話せるときがある。
「いや~頑張っているねえ~偉いねえ~すごい!」
 そういつも褒めてくれる。
 いつもアポなしで急に行くというのに、いつもいつも……時間を作って優しい笑顔で話を聞いてくれる。
 もう数年行けていないが、今でもいるだろうか。気が向いたら会いに行こうと思う。
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