第11話 父と過ごす生活

文字数 1,016文字

 高校卒業後は、私と父と弟三人の暮らしに変化した。
 父は離婚してからは早く家に帰って家事をするようになった。父の作る料理はボリューミーで食べたことのない美味しい味がした。それが美味しくてたまらなくて弟とふたりでバクバク食べた。
 弟はこんな家庭状況の中でもくもくと勉強し、しっかりと部活で活躍し、無理なく進学していた。この家で心も体も健康だったのは弟だけかもしれない。もちろん、弟が小学生の時は混乱する家庭状況に苦しくなり食事が喉を通らず悩んでいたこともあったが、家族の中では一番健康に生きられていた。気が付けば父の料理で栄養を蓄えたのか一年で三十センチを身長が伸びた。あまりにも急に伸びたもんだから、本人が一番驚いていた。
 私はというと、卒業後は何もできないままただ家にいた。両親が離婚したことによるショックとこの先の将来への不安で前よりも精神的不安定になり、外が怖くなりますます家で過ごすようになった。
 このままではいけないと思いながらも、心が外を受け付けてくれなかった。人が怖く外に出たくなくなった。
 しかし、父は毎週末私をある場所へ誘った。
「一緒に釣りに行こうよ」
 私は釣りになんて興味が無くて、「嫌だ」と断っていたのだが、あまりにも父がしつこく誘うもんだから気が付けば海釣りに週末は出かけるようになった。
 また、この時期に私の主治医に言われたことがあった。
「あなたはいつか夢を叶えられます。でもその為には努力しないといけないことがあります。それは食べる・寝る・運動です」
 主治医はしっかり食事をとることと、決まった時間に寝て起きること、一日のどこかで体を動かすことをしなければ、焦っても将来へは進めないと言った。でも、それさえできれば大きく変わるから時間はかかるけれどやってほしいと言ってくれた。
 それはきっと人間が健康に生きる為にする当たり前のことだ。でも、精神的に落ち込んできた体力のない寝たきりの私はそれさえできていなかった。
 私は引きこもり生活の自分に強い不安を感じていた。生きているのさえ、将来が見えないことで怖くなった。明日が来るのが絶望的だった。明るい朝を迎えることが無かった。死にたいと思った。
 でも、主治医の言葉には希望が持てた。そこにしか希望をもう持てなかったのもあるけれど、ちゃんとその言葉を受け止め実践することにした。もう、母といた頃のように自分を認めず反抗する私とはこのへんからおさらばできたのだ。
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