第1話 辛すぎる
文字数 1,114文字
朝起きると白湯を一杯飲んで軽くヨガをする。
無理のない程度に。
それから10分程瞑想をする。心を落ち着ける。今日一日何があっても、平常心を失わないように。目を閉じて自分の心だけを見詰める。
シャワーを浴びて髪をブローする。
経済ニュースを見ながら朝食を食べ、念入りに歯ブラシをする。
洋服を選び、化粧を済ませ、バックを持つと全身を鏡に映してチェックした。
「よし。完璧」
デキる女性(中間)管理職。その姿に強く頷いて出勤する。
ヒールの音をこつこつと響かせ、颯爽と歩いて駅に向かう。
今日こそ負けない。絶対に負けるものか。
私は自分自身にそう言った。
8時15分の山手線。
めっちゃくっちゃ混んでいる。
前に並んでいるサラリーマンの背中に続いて電車に乗り込む。後ろから大きなバックを持った女が勢いよく乗り込み、それに突き飛ばされた。
半分こけながら吊革につかまる。
私は斜め上35度に視線を向けた。
車内モニターにCMやクイズが映る。
スプラトゥーンを使ったクイズ。
Ready goで色塗りが始まる。
心の中でA,B,Cを選び、結果を確認する。
そろそろだ・・。私は気を引き締める。
見たことのない、可愛らしい動物が出て来た。おしりの辺りがぼってとした動物。見るからにどんくさそうな生き物。ウサギの耳を短くしてずっしりと太らせた様な。ネズミをふっくらとさせた様な。何故か笑っているみたいな顔。
それが踊って歌い出した。
まるでピンクレディーの様に。
私は目を逸らす。
見ないようにする。
「ぶほっ!!」
思わず噴き出した。
周りの人がぎょっとして私を見る。
私は咳き込んだ振りをして、ごほん、ごほんと空咳をする。
それから顔を伏せて笑いを堪える。本当にマスクが有難い。
声を出さないようにひたすら堪える。
肩が震える。
隣の男がちらちらと私を見ているのが分かる。一歩、私から離れる。
心なしか、周囲にちょっと隙間ができる。こんなに混んでいるのに。
次の駅に着く。
有難い。
私は電車を降りると、椅子に座って一息つく。
水筒の水を含むと、さっきのダンスを思い出して、水を吹き出しそうになり、慌てて飲み込んだ。気管に入ってむせまくる。
サラリーマンのおっちゃんが嫌そうに私を見て行く。
落ち着くと、やれやれ、参った、参ったなどと呟く。
「歌おう!○○ボー。クオッカ編」
みんな、よくあれを無表情で見ているなと思う。
私は最後まで見届ける勇気が無かった。
その前の「カワウソ編」でもえらい目に遭った。慣れるのが大変だった。
満員電車であれを見る。それはそれで辛いものがある。
私は立ち上がる。
「くそっ!!今日も負けてしまった!」
そう思いながら次に来る電車に乗る。そんな事をしているから、いつだって会社にはぎりぎりに着くのだ。
無理のない程度に。
それから10分程瞑想をする。心を落ち着ける。今日一日何があっても、平常心を失わないように。目を閉じて自分の心だけを見詰める。
シャワーを浴びて髪をブローする。
経済ニュースを見ながら朝食を食べ、念入りに歯ブラシをする。
洋服を選び、化粧を済ませ、バックを持つと全身を鏡に映してチェックした。
「よし。完璧」
デキる女性(中間)管理職。その姿に強く頷いて出勤する。
ヒールの音をこつこつと響かせ、颯爽と歩いて駅に向かう。
今日こそ負けない。絶対に負けるものか。
私は自分自身にそう言った。
8時15分の山手線。
めっちゃくっちゃ混んでいる。
前に並んでいるサラリーマンの背中に続いて電車に乗り込む。後ろから大きなバックを持った女が勢いよく乗り込み、それに突き飛ばされた。
半分こけながら吊革につかまる。
私は斜め上35度に視線を向けた。
車内モニターにCMやクイズが映る。
スプラトゥーンを使ったクイズ。
Ready goで色塗りが始まる。
心の中でA,B,Cを選び、結果を確認する。
そろそろだ・・。私は気を引き締める。
見たことのない、可愛らしい動物が出て来た。おしりの辺りがぼってとした動物。見るからにどんくさそうな生き物。ウサギの耳を短くしてずっしりと太らせた様な。ネズミをふっくらとさせた様な。何故か笑っているみたいな顔。
それが踊って歌い出した。
まるでピンクレディーの様に。
私は目を逸らす。
見ないようにする。
「ぶほっ!!」
思わず噴き出した。
周りの人がぎょっとして私を見る。
私は咳き込んだ振りをして、ごほん、ごほんと空咳をする。
それから顔を伏せて笑いを堪える。本当にマスクが有難い。
声を出さないようにひたすら堪える。
肩が震える。
隣の男がちらちらと私を見ているのが分かる。一歩、私から離れる。
心なしか、周囲にちょっと隙間ができる。こんなに混んでいるのに。
次の駅に着く。
有難い。
私は電車を降りると、椅子に座って一息つく。
水筒の水を含むと、さっきのダンスを思い出して、水を吹き出しそうになり、慌てて飲み込んだ。気管に入ってむせまくる。
サラリーマンのおっちゃんが嫌そうに私を見て行く。
落ち着くと、やれやれ、参った、参ったなどと呟く。
「歌おう!○○ボー。クオッカ編」
みんな、よくあれを無表情で見ているなと思う。
私は最後まで見届ける勇気が無かった。
その前の「カワウソ編」でもえらい目に遭った。慣れるのが大変だった。
満員電車であれを見る。それはそれで辛いものがある。
私は立ち上がる。
「くそっ!!今日も負けてしまった!」
そう思いながら次に来る電車に乗る。そんな事をしているから、いつだって会社にはぎりぎりに着くのだ。