第2話  追加の話 1

文字数 2,193文字

「東京砂漠」で続きって、一体作者は何を考えているのかしら?
私に何の相談も無く。
本当に頭に来ちゃう。
私に更なる砂漠を体験させようとしているの?
意味分かんない。・・・これだから嫌なのよ。自由業の人は。計画的に物事を進める事が出来なくて、思い付きで行動するから。
えっ?自由業じゃない?
派遣社員だって?
まあ・・・その会社、余程人材に困っているのね。
気の毒に・・・。

でもね。大体、「完」として置きながら、また続けるって、それってどうなの?社会のルールを完璧に無視しているわよね。マイペースもここに極まれりって所かしら。
みんなの迷惑も考えて欲しいわ。

終わった話の続編なんか考えていないで、神社の話とか、トラ猫の話を書きなさいよ。

 私は心の中でそんな事を言いながら歩いた。
この異常過ぎる暑さが怒りに拍車を掛ける。地球は温暖化を通り過ぎ、この夏からは沸騰しているらしい。できるだけ日陰を選んで歩くが、この時期は日傘を手放せない。

この暑いのに作者は炎天下に私を送り出し、働かせようとしているのだ!!
自分は涼しい室内でアイスコーヒーなんか飲みながらPCのキーボードをぽちぽち叩いているだけなのに!
どう考えても不当労働だ!

不平不満を垂れ流しながら私はT町の店舗に向かっていた。垂れ流した不満は暑さの為にすぐに蒸発する。「じゅっ!」って焼ける音を立てて。そして熱せられた大気に混ざる。

大体、T町の店舗にどうして私が行かなくちゃならないの。担当はYさんでしょう?
Yさんが休んでいるから、部長は「済まない。ヨシダ君。早めに処理しなくてはならないから宜しく頼むよ」とか言って、私に押し付けたけれど。・・・大体、Yさんは何で休暇をとっているの?
病気?・・それとも怪我?
いや、・・・休む前は元気だったから・・・・まさか一足早い夏休み?!
そう言えば旅行の話をしていたわ・・・。北海道がどうたらって・・。
くそっ!Yの野郎・・・。
許せん!!

利用者のクレーム処理のための事実確認とか、事後処理とか、それでなくても気の滅入る仕事なのに・・・。
それ以上に、T町の店舗のサブマネージャーが・・・

私は立ち止まった。
目の前に「ゆめゆめ学童クラブ」の看板が見える。
私はその看板をつくづく眺める。
もう少しましなネーミングは無かったのかしら・・・?
いつもそう思う。

私はインターホンを鳴らした。
「はい。ゆめゆめ学童グラブです。どのようなご用件でしょうか?」
忘れられない女の声が聞こえて来た。
私は何でよりによってお前が出るんだと思った。思わず舌打ちしそうになる。

私は無表情を装いながら答えた。
「本社学童管理部から参りました。吉田と申します。案件E3についての事実確認と事後処理についての確認に参りました」
「暑い中、ご苦労様で御座います。どうぞ」
愛想の良い声が返って来て、門がかちゃりと開いた。

大手教材開発会社が試験的に運営する学童クラブ。数十人の子供が放課後をここで過ごす。
年齢は小学校1年生から4年生まで。現在50名程の子供達が登録している。
ここでは放課後の時間を有意義に過ごす為に色々なカリキュラムが組まれている。
まず「宿題コーナー」。
宿題のお手伝いをしてくれるスタッフ(大体が大学生のバイト)がいる。

「リトミック」。
音楽に合わせて踊ったり、体操をしたりするコーナー
その他「図画・工作」、「理科実験」、「将棋」「囲碁」「作曲」「俳句、短歌」「プログラミング」「百人一首」の各コーナーがあり、児童はその内の2つを選択する。
それぞれ15時からスタートし、一時間後、途中休憩。おやつを食べてその後16時30分から2コマ目が開始し、終了は17時30分。後はミニ体育館で遊んだり、宿題をしたり、友達とトランプやウノや人生ゲームなどをしたり、閲覧室で本や漫画を読んだりしておうちの人のお迎えが来るのを待つ。ビデオライブラリーでアニメを観ている子供もいる。
お迎えの最終は19時。

中々の人気で費用が月10万円と高額なのにも関わらず、順番待ちが出る位だ。

玄関で受付名簿に記名する。
冷房の効いた室内が天国に感じる。

すでにスリッパを揃えて待っているのは、忘れようにも忘れられない「檜扇 美麗愛子(ひおおぎ みれあこ)」だ。
何なの?この仰々しい名前は。一体何画あるんだよ。
美しく華麗で愛らしい。多重修飾もここまでやると異次元ね。

ミレア子は私を見るとにっこりと笑った。
「ご無沙汰しております。お元気そうですね」
子供を産んで少し太ったらしくふくよかな顔で微笑みながら彼女は言った。(それとも幸せ太りか?)
私は心の中で「けっ!」と思いながらも冷静に返した。
「こちらこそご無沙汰しております。・・・そう言えば、ご出産されたとか・・おめでとう御座います」
ミレア子は「あら?」と言って笑った。
「もう3つになりますのよ。転勤先で生まれましたの」
私は無表情に「そうですか」と返し、スリッパに足を通す。
これ以上この女と余計な話はしたくなかった。
「チーフマネージャーと施設長はいらっしゃいますね?当事者の職員も。資料もご用意頂いたかしら?」
私は仕事モードでてきぱきと話す。
「勿論です。皆さん、恐々としてお待ち申し上げておりますわ」
ミレア子はそう言った。
私は彼女をちらりと見た。ミレア子は笑っていた。でもそれは冷笑そのものだった。
「本社の鉄女(アイアン・レディ)がやって来ると言って」
彼女はぼそりと言った。
私は聞こえない振りをした。



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