第17話 本当の名前は……

文字数 619文字

「スターシア? 何それ」
「あなたの名前でしょ」
「誰がそんなこと言ってるの」
 わたしは傍らで、また大きないびきをかき始めた男に首を向けた。
「パパが? あたしのことをスター何とかって言ったの?」
 少女と男は親子のようには見えない。否、男も少女も崩れた外人のように見えるという共通点はある。
「スターシアよ。あなたのパパなの、この人?」
「スターシアか。いい名前じゃない。ロシア人っぽい」
 少女はわたしの質問には答えず言った。
「イスカンダル人だって」
「イスカンダル人? 何それ」
「知らない。あなたのことスターシアって呼んでいいの?」
「あたしはスターシアじゃないけど。そう呼びたいのなら呼んでもいいよ。でもちょっと照れる」
「じゃあ本当の名前は」
「ふふふ」
「この人、自分のこと一文字隼人って言ってるんだけど。じゃあそれも嘘なんでしょ」
「一文字隼人!?」
 少女はいきなり興奮した猿のように、ギャーギャーと笑い出した。笑いが止まるまで、たっぷり三十秒はかかったように思う。
「何よそれ……」
 少女はハアハア息を弾ませながら、苦しそうな声で言った。アイラインを引いている時のような上目になり、薬指で溢れる涙を拾う。
「かっこいい名前よね」
 わたしが言うと、またキャーハハハッとお腹を抱えて笑いだす。わたしはだんだん眠くなってきた。
「もういいわよ。ありがとう。あとはあたし一人でできるから」
 少女が笑い泣きしながら言った。わたしは自分の部屋に戻りぐっすりと眠った。
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