第16話 イスカンダルのスターシア

文字数 1,077文字

 翌日は昼近くまで寝ていた。
 わたしはキヨノの話を聞きながら、いつしか眠ってしまったらしい。程よくアルコールの効いたアイスティーのせいだったのだろう。少女は十二時頃やってきて、わたしをお風呂に入れ、また天丼を食べさせた。その晩、一文字隼人は八時ごろ部屋を訪れたが、昨日よりも格段に酔っ払っているようだった。彼はわたしに機関銃のようにいろいろな質問した。訊かれたのは、わたしの家族構成、おとうさんの職業、おかあさんの年齢、好きなタイプの男性、担任教師の性別、好きな科目、将来の夢、結婚式はハワイとパリではどちらがいいか、クスクスを食べたことがあるか、北朝鮮と戦争になったら従軍看護婦に志願するか、ブラジャーは何カップか、下着の色は何か、自民党と民主党ではどちらが好きか、制服のスカートはひざ上何センチか、月にいってみたいと思ったことはあるか、ハイビスカスとベコニアではどちらが好きか、便秘か、ポーカーはやったことがあるか、幽霊を見たことがあるか、プロレスは好きか、どこのメーカーのナプキンを使っているか、などといったことだった。全部答えるのは難しかったが、そこそこ返事をしているうちに、一文字隼人はベッドに倒れ、ガーガーといびきをかき始めた。わたしはその形のいい頭をしばらく眺めた後、部屋の扉をどんどんとたたいた。
 少女はすぐに現れた。思えばこの家で、少女と一文字隼人を一緒に見るのは初めてだった。
「向こうの部屋へ運ぶから手伝って」
 彼女――本当にスターシアという名前なのだろうか――は慣れた感じで、男の右腕を取り、その華奢な肩に乗せた。
「あなたは背中を起こして」
 言われるままに、ベッドにのぼり、一文字隼人の両肩に手をかける。
「行くわよ。せえの」
 彼女が一本背負いのように、身体を縮め、わたしが爆睡している男の背中を押すと、うまい具合にベッドから半身が起きあがった。少女が押しつぶれされそうになったので、あわてて左腕を肩に載せた。一文字隼人は案外軽量だった。ふたりでこの酔っ払いを引きずりながら、部屋を出て、廊下の反対側にある部屋に向かう。その部屋は夫婦の寝室のようだった。高価そうなダブルベッドとシングルベッドが、くっついて置いてある。麦わら色の絨毯。白いモノトーンの壁紙。三人で並んでベッドの縁に立ち、そのまま後ろにひっくり返って仲良くバウンドした。こうして一文字隼人を寝かせることに成功したわたしたちは、起き上がり、顔を見合わせ、同時に微笑んだ。急に少女との距離が縮まったような気がして、わたしは彼女に話しかけた。
「あなた。スターシアっていうの?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み