第6話 おれは別に乳フェチじゃない

文字数 836文字

「おれの名は一文字隼人。よろしく」
 男がいきなり右手を差し出したので、ベッドに腰掛けていたわたしは、はじけるように後ずさった。
「何もきみのおっぱいを触ろうと思ったんじゃない」
 そろそろろれつが回らなくなってきている。
「きみのおっぱいは面白くないからな、うん。おっぱいというのはほとんど乳首だけでできているか、もしくはマリのようにパンパンじゃなきゃ魅力的じゃない。まあ欲をいえば、乳首だけのペチャパイだったら、そら豆ぐらいの大きさの乳首が欲しい。デカパイの場合乳首はあまり関係ないが、乳輪は必要だな。これはエンゼルパイぐらいあったら最高だ。いやおれは別に乳フェチじゃないんだけどな。きみが今、飛び退いたからな。何にもしないのにさ。すんごく今おれ、気分害したしな。きみの乳はまったく普通の大きさで、つまらないんだよ、ホント」
 わたしは枕を両腕でしっかりと抱いた。背筋に、何かのホルモンらしきものが、つつつっと流れる。
「いやっ!」
 やっと悲鳴らしきものが出た。でもまだキャーッとまではいかない。
「それからな。きみは毛深いな。日本人のあそこはみんな結構毛先が長くてな。剃れとは言わんが、まあお手入れはしたほうがいい。刈り上げなんかにすると、すっきりするかもな。でも確かに毛がこわいと、下着を突き破って出てくるリスクもある。これはあまりかっこいいもんじゃない。というよりはっきりマヌケだな」
「見たのね!」
「見ちゃいないさ。勘だ。勘。男の勘だよ。さあもう眠くなってきた。寝よう」
 襲われるのかと思い、あわてて逃れようとすると、男――一文字隼人は大きくあくびをして、「おやすみ」といいながら、部屋を出て行った。ドアのところで振り返り、ものすごく眠そうな目をこちらに向けた。
「ワイルドスワンの作者と同じ鼻なんだよ、きみは。ちょっともったいないなあ。じゃあおやすみ。逃げるなんて考えるなよ。逃げたりしたら大変な目に遭うぞ。わかったな」
「待って」
 わたしは言った。
「寝る前にトイレに行きたい」
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