第4話 憎悪の道化師

文字数 1,231文字

醜く歪み、まるで視界が回転するかの様に廻る
吐き気がする程に、そして、ただの廊下が意識の中でただひたすらに
急激に回り出す
ふと、遙か遠くから音楽と機械音声が聞こえてきた

「ロ~ンド橋♪落ちる♫落ちる、落ちる」
「ローンド橋落ちた♪マイフェア、レディー」
こ、この曲ってもしかして・・

「腕足落ちる♪落ちる♪落とす」
「逃~げないと首が~♪」
陽気なのにひどく冷たい声が聞こえてくる

「血が滴り落ちる♪落ちる落ちる」
「バ~ラバラにされる」
「マイフェアレディ」

頭痛で頭を抱え込みながら酷くドス黒い気配に振り返る
音はオルゴールなはずが、大音量で音が歪み、ギシギシと軋んだ音になっていく


「なんなんだよもぅ」 
舌打ちを打って遠くの人物を見やる



おぞましい仮面
白と黒の仮面 
笑顔の裏に忍ばせた狂気の仮面
手には生々しい血の跡が大量についていた
何かをさばいた後なのか?
ビクビクと赤く鈍い生の色を脈動させたなにかの臓器が
まだドス黒い斧に食い込んでいた

ま、まさかこいつがあの子の首を?
いや、少女は生きてる
頭を振って遙か後ろに問いかける

「おまえは誰だ!なにをする気だ!」
くそ、吐き気が凄い

そいつは今度は悲しく、だが小さくさっきの唄を口ずさんでいる
ブツブツ、ブツブツと陰気そうに

「ギャハハハハハハ!?」
急にピエロはけたたましく大声で笑い出した
耳が千切れるかという程にひとしきり叫んだ後、ピエロは走り出した

や、やばい
本能的に俺も駆け出す
だけどどういう訳か、ピエロは足が速くてすぐに追い付きそうな勢いで
人間離れした怪力で 斧を打ち付けながら迫ってくる

「くそっ!なんなんだよちくしょう!」
死にたくは無い まだ死ねないという気持ちが自分にはあったのだ
止まらない頭痛と生き苦しさをはね除けて、一心不乱に転びながら廊下を走り続けた

「死ね死ね死ね死ねギヒヒヒヒ死ね死ね死ね早く死ね」
「喰わせろ喰わせろアノヒトへノ貢ぎ物カナシミでしか癒やせない」
「パーティが始まるよ、ダレニモトメラレナイスベテガ灰になる」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いオマエ蛾ニクイニク二死なきゃ早くナオサナキャ」
「殺せ殺せ殺す殺す永劫に殺してもミチナイオワッタセカイイキジゴクダケノセカイタノシイナ」
「来異故意恋濃意請異次ノセカイオマエを殺せば楽死異名」

うるさいくらいに変な事をわめき散らかす
一瞬戦うべきかと思うが、あの巨大な体躯に立ち向かうのはただの自殺行為だと知る

ピエロは凶器を投げてくる
冗談じゃ無い。あんな大きな斧が肩をかすめただけでも命取りだ
くそ

散々に走り回りながら、いよいよ足がもつれて倒れてしまう
「くっ、駄目だ。もぅ、走れな・・」
ここで終わりかぁ。変なの。まぁ、もぅいっか
どうせ誰も・・



落ちて


え?


その時頭の中に誰かの声が聞こえた気がした
その声は何故かひどく懐かしい声で



ハッと気がついた先に影が迫った


ピエロだ
その狂気の面の下からとてつもない殺気がこみあげているのがわかった
本当に、この世の怨みの全てを込めるかの様に
無情な斧は振り落とされた
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