第5話 少女と絵画

文字数 2,599文字

黒いセカイだった
物心ついたときから私の景色は


お父さんは忙しい人で、小学生の時に会ったのが最後だと思う
それに何故か、どういう訳か父の顔も私は思い出せない
それはこの身体にある日黒い染みが浮かんでからなのか、そこも記憶はぼやけて曖昧だ
別にこの黒い染みが怖いとは思わなかった
どんどん身体に広がった時は多少怖さがあったけど、いつしか慣れてしまった
慣れたというか、この黒い染みがまるで心の中を埋めてくれるように
何故か暖かい気持ちになったのを覚えている


それに、シャドウ病に初めてなった時、凄く孤独で寂しかった恐怖も覚えている
その時もお父さんはいなかった。娘が大病になった。周りの人達は気味悪がったり
すごく怖い気持ちを隠して、私によそよそしくも変だった
よくはわからないけど、その時は凄く荒れてて、私はシャドウ病が進行する前から
声が出せなくなっていた


そんな私をまわりの人は操りやすかったのだろう
お父さんがいないのをいいことに、あれこれと指示して、私が病気だからと
小さな部屋に閉じ込められた
そこはまるで、綺麗な虫籠で、唯一小窓から外を眺めるしか出来なかった
私は日に日に弱り、孤独の中で、ベッドでお絵かきだけをして遊んでいた事を思い出す
絵だけが私の唯一の友達だった


そんな時だった


「可愛い私のお嬢様、今日から私がお父様の代わりにあなたのお世話になった・・」



クレマ?
私は呼びかけて、後ろを振り返った
でも、そこには何もなかった
さっきまであったはず
この曲がり角の先は何度も試して辿り着かなくなった迷路
せっかく出来たお兄ちゃんも、まだ来ていない

「・・ぁっ」
私は消え入りそうな声で来た道を戻ろうとする
だけど、道が無いのだ。呼びかけは虚しく消えた

どうしよう?
おかしな事がおこっているのはわかる
でも、元々小さな頃から外のセカイもしらず、自分にはクレマから教えて貰えた
知識しかない。
それに私はシャドウ病を煩ってから、「おかしなこと」ばかり遭遇するようになっていた
そう、本当は今日、私はこの場なんかにいる訳がない
なぜなら

私は隔離されたあの虫籠に眠っていたのだから


だから、最初私は夢だと思っていた
体の重苦しさも無い。シャドウ病は消えなかったけど、夢にみた美術館に来れた
この美術館は、お父さんが最後に手がけた作品だったから、一度見てみたかった

私は、物を触ってる感覚も無い シャドウ病だからなのか
でもクレマが来てから、怖い人達も見なくなって、楽しい事も増えた

美術館の大きな絵の前に最初いた時は怖かったが、美術館を歩けて嬉しかった


昼下がりの森の香り、輝いてた青空と爽やかな風 屋敷の人以外見た事もなかった人混み


私は声が出せなくても、いや、出せないからこそその新鮮さを沢山感じられた
そんな時だった

また、怖い「魔物」に出会ったのは
それはピカソというへんてこな絵の辺りに来た時だった
ずっと後ろから追いかけてきていた魔物達が、私を囲んだんだ

「○×△□○△×?○×□□△○□×□×△△○□」
「□○××ー△、×○□□△△?□○△△××□○○○□△□」
「□□×××○×□?」
「□×××○×□。×□△□×△、
△□、□○△△□○×」

その魔物達が何か叫びながら、私の腕を強く掴んだ
その瞬間、私は痛みからなのか、小さい悲鳴を上げた
「キャッ」そうしてバランスを崩すところを何やら嫌な笑みを浮かべた
魔物が私を連れ去ろうとした
嫌・・きっとまた怖い所へ連れて行かれる

「おい、俺の○に何してんの?警備員も今呼んだから、大人しくして
その子を離せよ」
なんだろう。この鼓膜がざわざわする音は
今まで聞いた事もないはずのクレマ以外の誰かの「声」

見るとバッグを背負った男の人だった
けわしい目つきで怪物達を見やる
私は急に投げ飛ばされながら、瞬間怪物達がその人に襲いかかった

私はただ、見ている事しか出来なかった
ただ何故か心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と切実に謝る思いが溢れ出した

怪物が一人倒れ込む
だけどその後、鈍い光が彼を襲った
私は目を閉じるしか出来なかった
でも、目を閉じる瞬間、彼の顔が寂しい笑顔を一瞬見せた

私は切なくなりながら目を閉じた
その時、誰かが割って入った
「あなた達!何してるんですか?静かになさい!・・ん?そこの少女は」
なんだろう、急にざわざわとし出す

そうして、久しぶりにクレマに出会った
昔あったクレマはこんなだっけ?と思ったが、コーヒーという「匂い」は覚えていた
あの苦い黒い飲み物。私は苦手だからこそ覚えていた
最初クレマは凄く驚いていた なんだかちょっと嬉しかった
クレマはちょっと怒ってる様だったけど


その後はびっくりする事だらけだった
沢山の絵画もだけど、綺麗なお花の庭園に連れてきて貰えた
しかも、色々な匂いに溢れていた
クレマが好きなコーヒーが甘いという匂いなのも今日知った
それと、私を気にかけてくれた、不思議なお兄ちゃん

「お兄ちゃん」
心の中で呟いた気がした
声には出せないけど、何故か胸が苦しくなって私はその場から離れた

いくあてもなく、走り回った
ただ寂しかった
また、みんないなくなっちゃったんだと思った


あのお兄ちゃん、私がシャドウ病だって見せた時、最初だけ驚いて見せたけど
すぐ私の首や胸に空いた「穴」を、優しい目で見つめてた


私がなんとなく描けた絵も、上手って言ってくれた
お父さんやクレマ以外では、きっと初めて


みんな怖がるのに


嫌だ


嫌だ


あの人も、クレマもいなくなっちゃうのは



そういって立ち止まった時、瞳から涙が落ちた


大嫌い


嫌い


弱虫な自分



ずっとこう


何を思っても、何も描けやしない


誰の役にも助けにもなれない


また


また、ひとりぼっち



ーガタッー

ーバチバチバチー

私は身を固くした
クレマもいない。お兄ちゃん達がいたところからもかなり離れた気がする


戻ろっ
ーバチンー
急に明かりが全て消えた


私は怖くなって、その場に暫く蹲る


クレマ
タスケテクレマ

そういった瞬間、どこからかオルゴールの音
そしてどこか遠くから誰かの悲鳴と轟音が響いた

「ッ・・」私は声が出せなくなる
どうしようどうしようどうしようどうしたら
周りは真っ暗な闇
外だってまだここまで暗い帳が落ちる頃じゃない
やっぱり何かがおかしいんだ
きっと私が来たせいなんだ

そうして堪らなくなって私は初めて声に出せない泣き声を出した
瞼がこんなにも腫れて、寂しくて辛くて恥ずかしくて
声に出せない泣き声が、きゅぅぎゅぅと私の心を痛い程締め付けた

ークスクスー
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