貳話✶光から逃げる者
文字数 939文字
“何でこんな簡単な事ができないの!?”
“役に立たない娘ね!!”
嫌だ。見捨てないで……。
ごめんなさい、私が悪い子だから。
私が、失敗作だから。
私が────────────。
キィィン,と嫌な金属が擦れる音が頭に響き、
私は思わずベッドから飛び起きた。
天幕を避けた場所にある時計は午前6時を
そろそろ指そうという所だった。
「そろそろ起きないと」
と小さく誰に聞かせるわけでもなく呟いて
身支度をする。髪を解かして、寝間着から
普段のワンピースドレスに着替える。
いつからか、私は王族にも関わらず身支度は
大体一人で済ませるようになっていた。
理由は本当に些細な事だ。いや、本当は
もっと大きな事なのかもしれないけど。
幼い頃までは優しい実母と父王の元で
楽しく暮らしていた。召使い達も優しくて、
時々庶民がよく食べるというお菓子なんかを
くれたりして、凄く幸せだった。
………でも。優しかった母上はもういなくて
今は父上の後妻の大嫌いな義母と同じ塔で
毎日びくびくしながら暮らしてるんだ。
毎日暴言を聞かされて、時々意地悪もされて。
大好きだった父上も、昔から厳しい一面は
あったけれど更に酷くなっている気がする。
「ココナッツ、私、きっと大丈夫だよね」
『勿論だよ。だって君は強いからね。』
お気に入りのテディベアの姿をした妖、
ココナッツという名は実母がつけたものだ。
最期に私に残されたたった一つの心の拠り所。
この前父上が学園長を勤めている魔法学園への
入学を勧められた時もこの子が言ってくれた。
“ルーリアならきっと、沢山の友達を作って
父親だって見返せる位の魔法使いになれるよ”
その言葉で私は、学園に入学することを
希望した。本当は初等部から始めるんだけど、
人によっては才能…魔力が確認されるのが
遅い人もいるから中等部から入る人に紛れて
入る事になった。今や私は、毎日その事
ばかりを夢見ている。この
の中から抜け出すのを。
「姫様ー、朝ですよ~!」
「はい、今行くねー!」
何もかもきっと、上手くいきますように。
私は心の中でそっと、母上にささやかな祈りを
一人で捧げた────。