肆話✶挨拶ゴトから
文字数 1,240文字
現在学園内を謎のアホに案内されている
所で、突然彼女は立ち止まり何かを
思い出したかのような顔をする。
ここまで一体幾つの階段や廊下を歩いたのか
もう検討も付かないほど俺は疲れきっていた。
「貴方の寮って……エリンジゥムと、
アークトゥルスどっちかな?」
首を傾けて訊いてくる。そういえば先程
渡された鍵の札に何かが彫られていた。
もしかしたら其処に書かれているかも
しれない、と思い懐から取り出す。
そこそこ重量のある其は硝子製らしい。
群青色の透き通った札には金文字で、
“Eryngium(エリンジゥム)”と彫られている。
札を覗き見た彼女は目をまた輝かせた。
「わぁ、私と同じだね!」
「お前もなのか……。」
どうも西洋の言葉はわからない。
いったいエリンジゥムとは何なのだろう。
寮とかいう単語があったからその名前
なのだろうか。まるでエリンギみたいな…。
そんな心象が相手にまるまるバレたのか、
彼女は笑顔で丁寧に解説してくれる。
「エリンジゥムってのはね。不思議な形を
したお花の名前何だよ。花言葉は、
“光を求める”。素敵な言葉だよね!
あ、あと因みにね、アークトゥルスってのは
今後天文の授業でやるかも知れないけど、
とあるお星さまの名前なんだって!」
成る程。というかさっきからこの少女は
知識が無駄に多い気がする。
最初に会った時の言葉を思い出す。
“私、小さい頃からよく来てたから誰かの
助けになれないかなーって朝からずっと
ここにいたんだ!”
……………ん?
小さい頃から、という言葉が妙に引っ掛かる。
学園は関係者以外普段は立ち入り禁止の
筈なのに。
「一つ、聞いて良いか」
「なあにー?」
「上に兄姉でもいるのか?お前」
一瞬彼女は沈黙する。そしてゆっくりとした
動作で首を横に振った。NOらしい。
では何故?その答えを聞こうとする前に
相手は進み始めようとしていた。
「ほらほら!さっさと行かないと!
今夜のご飯食べるのに遅れちゃうよー!!」
「へぁっ!?ちょ、待て……!」
能天気にあはは、と笑いながら見た目からは
想像できない早さで廊下を走り出す。
荷物を持っている自分は圧倒的に不利だし
これでは見失ってしまう。其だけは
絶対避けなければ振り出しに戻ってしまう。
「はーやーくー!」
「わかったから!………後さ。名前、
何て呼べば良いんだ?」
「あー、」
先程からドタバタして聞いていなかった
ので今聞いてみる。お前、とかだけだと
何か呼びにくさがあったのだ。
彼女は一度立ち止まって振り返り、
こう告げてきた。
「私の名前は、ルーリアレナ・ロフェニカ
ドール。長いからルーリアでいいよ!
貴方のお名前は?」
「俺は……胡鐘 如月だ。」
「キサラギ…宜しくね!」
ふわふわとしたわたあめみたいな笑顔を
向けたルーリアに、俺は少し違和感を抱いた。
その、名前に何処かで聞き覚えがあった──