第2話

文字数 1,075文字

もう太陽は沈んだ頃、空には星が輝いている。
葉が生い茂った木はワサワサと音を立てる。風が少しばかり吹いているせいだろうか。

その中をぽつり、ぽつりと歩く男が1人。

ガタガタと点滴のスタンドを転がしながら歩を進めている。
少し汚くなった金髪。その髪で目つきの悪い瞳を片方隠している。伊達メガネならぬ伊達モノクルを掛けた顔は曇っていた。

なぜ、彼の顔は曇っているのか。

その理由は明確だった。彼はずっと歩いてきたのだ。この道を。町はまだ見えない。どこにあるかも分からない。見知らぬ地に放り出されてしまったのだ。

名前はフェリクス。この世界にある『諺(ことわざ)研究所』の爆発により何も知らない土地へと放り出された被害者であった。

そもそも、『諺研究所』とは?という話になるが、『諺研究所』とはこの世界にある研究所の一つである。
諺を研究し、諺を人間に埋め込む技術を開発していた。開発は見事成功。諺を人間に埋め込むことが出来たのだ。フェリクスは、そこで諺を埋め込まれた人間の一人である。しかし、埋め込む実験をし、成功した瞬間研究所が爆発した。理由は未だ不明。フェリクスは知らないうちに諺を自分の体に埋め込まれ、爆発により巻き込まれた本当の被害者である。

そして、その諺を埋め込まれた人間には大きな代償が付与された。その代償とは、体の欠損、もしくは体の異常である。埋め込まれた人間それぞれ、欠損したものは異なる。フェリクスは点滴を定期的に打たないと生きられない体になってしまったのだ。他にも、呼吸器が欠損し呼吸が出来なくなってしまった者、体に発熱する紋章を刻みつけられ、動けなくさせられてしまった者などがいる。

――ちなみに、埋め込められた諺も、人によって異なる。フェリクスに埋め込まれた諺は「De ene bedelaar ziet de ander niet graag voor de deur staan――乞食は他の乞食が戸の外に立っているのを見るのを喜ばない」である。意味は「競争を恐れる」。
フェリクスは諺研究所に入れられる前までは好戦的で何事も人に戦いを挑むような人物であった。
今はもう見る影もない。ビクビクと怯え、気の弱い性格になってしまった。

しかし、そんなフェリクスも諺研究所には怒りを抱いている。諺研究所に入れられ、諺を埋め込まれた者は皆、同意なしに埋め込まれたからである。点滴を打たないと生きられない、こんな体にさせられたのも、同意はしていないのである。
だからこそ、フェリクスは歩いて町を探す傍ら、この埋め込まれた諺を自分の体内から取り出す方法を探している。
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