第6話

文字数 1,482文字

「あー。バカみたい。何それ。そんなのでこの欠損が元に戻るわけないじゃんね。」

目の前にいるのは、ピンク色の髪を全体的に短髪にした、気だるそうな、そして何やら心に抱えていそうな、そんな男。そして、その男は口元に、ガスマスクのような厳ついマスクを身につけていた。
恐らく呼吸器か何かの欠損だろうか、とフェリクスは予測を立てる。
この男の名はルトガー。
エルンストとフェリクスがたどり着いた町で、「捻くれた性格のホームレス」として有名な男。もしかしたら異変かもしれない、と思いルトガーを見に行ってみたところ、エルンストが諺研究所で見たことのある容姿だということから、諺研究所の被害者であることが発覚した。ホームレスになった経緯は単純。諺研究所に入れられる前に住んでいた家とは全くの別方向に放出されてしまったから。単純に家がないだけなのだ。「捻くれた」性格は訳ありっぽい。恐らくこっちは埋め込まれた諺が影響しているのだろうとフェリクスは予想する。

「その、全てを軽蔑したような態度――あなた、糞ですか?」
「はぁ〜??糞ってなんだよ。」
「ちょ、エルンスト?落ち着いて・・・」

ルトガーは明らかに怒ったような様子を見せる。
エルンストの失言をフェリクスが窘めている。

「Op de wereld schijten――世界の上に糞をする。『世の中の全てを軽蔑している』という意味です。」
「あ〜??なんか聞いたことあるかも。研究員が言ってたような気がするわ。たぶん、僕、それかも。」

話を聞いてみたところ、研究所が爆発し放出されてから世界の全部がバカバカしく思えてきてしまったとのことだった。元々そんな性格ではなかったからこそ、この状態が苦痛なんだとか。感動するものをみても、なにも感動できないらしい。

「それで――その研究所が言っていた。全ての諺に関する異変を解決すれば、諺を取り出せる。そして、欠損も治る。」

フェリクスが再度、ルトガーに誘いをかけた。
しかしルトガーの表情は曇ったまま。

「だから・・・それはさっきも言ったけど、そんなんで欠損が元に戻るわけないでしょ?そんなのに労力を使うなんて・・・はぁ、バカバカしい。」

やはり、この男、強敵か。
もはや、「軽蔑している」というより「諦めている」に近いではないか。フェリクスは頭を悩ませる。せっかく同じ状況の被害者に会うことが出来たのに、何も出来ない。2度も断られてしまっては、争いたくないがモットーのフェリクスはもう誘うことができなかった。

「本当に・・・いいんですか?」
「うん。どうでもいいよ〜。」
「私、こう見えて諺に詳しいんです。私達について行けば、欠損も治るでしょうに・・・本当にいいんですね?」
「うん。じゃあね〜。」

ルトガーは軽く返事をしてあっちにいけというジェスチャーをした。でも、まだエルンストは諦めてないんじゃないか、この男の頑固さは並じゃないぞ、とフェリクスはエルンストを見る。しかしエルンストはもう涼しい顔をしていた。

「エルンスト、もうあいつはいいのか?」
「いいわけないでしょう・・・見いだせたんですよ。解決策が。」
「え?」
「あの男・・・重度のショタコンですよ。」
「ええ!?」

なんだなんだ、とフェリクスが話を聞くと、あの男の尻ポケットから、小さな男の子の写真がたくさんはみ出ていたとのことだった。弟とかではないのか?とフェリクスが問うと、全く見た目の違う何人もの男の子、しかも姿が全く似ていない男の子が全員弟だとは考えにくい、とエルンストは分析したようだった。

「でも・・・それがどう解決の糸口になるんだ?」
「そんなの簡単ですよ・・・」
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