沁透圧。滔々、

「寝れないの…？一緒に寝る？」
ネイカはわらを束ねた枕を抱いて彼女に話しかける
「声...出せなかったね...明日はうまくいくかな...？」
ネイカは一日中彼女に話しかけ続けた。それは彼女の声が聞きたかったからか、単にそう言った性格なのか。しかし彼女の感情は以前恐怖ではなく寧ろ好感触である。周りのものと違って恐怖に染まった試しがない。
「...？どうしたの？」
不思議そうにこちらを見つめる。
ネイカは未知への恐怖が芽生えることを知らない。
「ふぁぁ...ん、明日は...もっと...喋ろ...う...ね」
ネイカは眠気が限界に達していた。

「...寝たか」
リュオンが問う。
「...っつってもわかんないか...お前は寝ないのか」
彼女は寝ているネイカに目線をやってから、リュオンの方を向いて首を傾げた
「その様子じゃ何言ってるか分からなさそうだな」
リュオンは椅子に座って話し続ける。
「俺たち人間には睡眠が必要だ。人間だけじゃない。生き物はみんなそうだ、眠らなければ巣を迎えることもない。」
机の上にある冷え切ったスープを飲み始めた。これは彼女の文として割り当てられたスープだった。
「生き物はみな飯を食わなきゃいけない。それもわかっていないとは...まるで生き物とは思えない。どこから活力を得ているんだ？」
質問をしたリュオンはすぐに気がついて頭をかいてため息をつく
「って言ってもわからねぇんだったな...」
スープを飲み干したリュオンは立ち上がる
「あぁそうだ。寝ないなら手伝え」
そう差し招いて家を出た。
彼女はこっちへ来いという意味を汲み取って外に出た。
「...ん？おお、さっきの手招きの意味が通じたか...成長だな」
一日を通してネイカが再三行ってきたムーブであった
手招きをして、棒立ちでいると手を取って走り出す。
行動をパターン化して覚えた記録だ。
そそくさとリュオンの後を追う。
リュオンについていくと、そこは太い切り株がまばらに在る森へ着いた。
「これだ...」
リュオンは太い木の前に止まると木の幹に着いた傷を見せた
大人三人が手を広げて輪になって漸く手をつなぐ事が出来るであろう程の太い幹には大きな傷がえぐれるように木の幹に一本あった。
「この辺の木は硬さにばらつきがあってな、切れそうな硬めの木を選んで使っているんだが、この幹の傷。本来俺達には付けられないものだ。どういう事かわかるか？」

意味は分からないが疑問を投げかけられていることは理解した。
問われたら答える。聞いていた会話を総括して結論付けた行動だが、言語を話せない彼女は返答する術を持たない
キズをなぞっているリュオンに応えるとすれば、同じ傷をつけるか、それ以上のことをすればいいのだと解釈する。

彼女が前に足を踏み出す。リュオンは後ずさりをした。
「お、おい...何するんだ？」

彼女は首をかしげ、傷をなぞった。
この傷は直線的だが彼らの道具では傷の深さが弧を描くように傷がつく。
別の生き物がつけた傷だ。
生き物との住処、テリトリーを分けるためなのか？
よくわからないが再現をしよう。
人差し指の指先を傷の始点にあてて、スッとなぞった
途端、太い木の幹は鋭くきれいな断面で切られ、断面を滑るように落ちた。
斜めに切れた木の幹は落下したエネルギーで地面に再び刺さった。

「...はぁ...楽勝だって当てつけか？それともなんだ...この辺の木は全部切り倒せそうだな」
眼を見開いて驚きながら言ったリュオンの声は震えていた。

リュオンは落ち着きを取り戻すや否や、炭の棒を懐から出して木の幹に何か描いた。
「コレ...行けるか？」
そう言って指をさす先にはさきほどの切った切り株の断面に弧を描くように何か棒が描かれていた。
同じようにすればいいのかと判断し、切って見せた

「はっ...すげぇなこりゃ...悍ましいよ」

そう言って切り出された木の棒を拾って木の棒に何かをまた書き始めた。
これを何回か繰り返しているうちに辺りは明るくなっていた。

「助かった。それでいい。あとは俺で何とかする」
そう言って家に戻ってから彼女はネイカの隣に寝そべらせられた。
「俺はこれから寝るが、お前もそこで目をつぶって居ろ...あー...こうだ」
リュオンは彼女にめをつむって見せた。
「...そうだそのままでいい。あとでまた来るからその時までそうしていろ」

…………