第3話 提案

文字数 2,072文字

「ただいまー」

 玄関で靴を脱ぎながら誰もいない家に向かっていつもどおりの言葉を投げて、家に上がる。
 しかし、今日はいつもと違う。
 そう、帰り道に出会ったケイティが今日から俺の家に住むことになったのだ。まあ、俺は彼女の話は一切信じていないがな。あそこで放置するのも何だったから、仕方なく、仕方なーく連れて帰っただけだ。
 俺の後ろにいたケイティも俺と同じように靴を脱ぎ、家に上がる。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

 彼女は『ただいま』へのお返しも忘れない。
 ……いや、マジで今日は先生に怒られるし厄日だと思っていたけど、ケイティと出会えたことで全部チャラだわ。というか、お釣りがたんまり出てくるレベルだぞ。
 俺はウキウキ気分になりながら居間がある部屋へと入ったのだが……

「これは……なんというか……昔、私が奴隷として初めてご主人様の家に上がったときのような散らかり具合ですね……」

 居間は散らかり放題で物で溢れていた。
 ……そういえば、こういう状態だったな。でも、片付けるのって面倒くさいんだよなぁ。
 何処に何があるかは把握できているし、自分ひとりであればこの状態でも問題ないんだが……ケイティがこれから住むことになるとなれば、片付ける必要がありそうだ。
 というか、俺の家ってボロアパートの一番部屋数と面積が小さいところだから、このままだと彼女の寝る場所が無い。

「あー……ちょっと待っててくれ。今片付けをーー」
「――待って下さい!」

 『片付けをするから』と言おうとしたら、ケイティが食い気味に言葉を重ねてきた。
 ……?

「ご主人様は何もなさらないで、座って待っていて下さい。昔のご主人様は、片付けると言いながら余計に散らかすという理解不能な行動に出たことがあるのです。それ以降、ご主人様には片付けをさせていません」

 ……なるほど。確かに、俺も片付けようとすると余計にとっ散らかるという自分自身でも意味不明な現象が起きるからな。彼女の主人は俺と同類の人なのだろう。
 俺は『じゃあ宜しく』と言って、近くにある椅子に座って彼女の片付け風景を見守ることにする。

 パタパタパタ……トントントン……パタパタパタ……キュッキュッキュッ……

 みるみるうちに居間がきれいになっていく。
 ケイティは、動きやすいようにフードが付いた上着を脱いで、露出度が高い服であちこち動き回っているのだが……思春期真っ只中の高校生には少し刺激が強すぎると思うのだ。エッチ過ぎますよ。
 見てはいけないと思いながらも彼女のことをチラチラ見ていると、ケイティの首にはまっている首輪が目に入ってきた。
 ……おしゃれアイテムか? それにしては無骨すぎるし、材質は鉄か何かで出来ているんだろうが、錆びてボロボロになっているし……気になるな。
 
「ケイティ。その首輪は何なんだ?」

 自分の首を触りながら、彼女に聞いてみる。
 ケイティは、片付けをする手を一旦止めて、俺に近づいてきた。
 ……あ、ああ……! エッチな服を着たケイティが……俺の目の前に……!
 あまりの刺激におどおどしていると、彼女は俺の手を取ってきて……首輪に触れさせてくる。
 ザラザラしていて、なんというか年代物というような感じがした。

「これは、ご主人様と私の思い出の品です。記憶が無いから分からないでしょうが、これはご主人様が私と奴隷契約を結んだ時につけてくださった首輪なのです。それ以降、私はこの首輪を大事にしてきました。ご主人様と離れ離れになったときも、この首輪と、左手の薬指につけている指輪を見て、会えない寂しさを紛らわしていたのです」

 彼女は首輪と指輪を優しく撫でながら教えてくれる。
 またその話か。よく出来た話ではあるが……
 俺は彼女の首輪から手を離し、

「俺はそんな作り話には騙されないからな! ケイティは演技の才能はあるんだろうが、いかんせん設定に無理がありすぎる。俺を嘘で嵌めて、金とかをむしり取ろうとしているのかもしれないが、残念だったな! ウチは貧乏だからお金はないんですぅ!」

 自分でも『それはどうかと思う』と言いたくなるようなひどい言葉を返す。
 ケイティが、男を一発でノックアウトしそうな顔で『一緒に暮らしたい』と言ってきたから、流れで彼女を家に連れてきて、流れで一緒に暮らすことになったけど、それでも俺はケイティの昔話と生まれ変わりの話は信じていないのだ! というか、何をどうしたらあんな話を信じられるというんだよ。

 プイッとそっぽを向いていると、

「ではご主人様。私の首輪に触れて、魔力を流し込んでみて下さい。この奴隷の首輪は、契約者であるアイゼア様しか外せないものなのです。一度外せば奴隷契約が破棄されてしまうのですが……仕方ありません。ちなみに私の予想では、アイゼア様の生まれ変わりであるご主人様は、この首輪を私の首から取り外すことが出来るはずです」

 そんな提案をケイティがしてきた。
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