第4話 思い出の首輪
文字数 3,805文字
「ではご主人様。私の首輪に触れて、魔力を流し込んでみて下さい。この奴隷の首輪は、契約者であるアイゼア様しか外せないものなのです。一度外せば奴隷契約が破棄されてしまうのですが……仕方ありません。ちなみに私の予想では、アイゼア様の生まれ変わりであるご主人様は、この首輪を私の首から取り外すことが出来るはずです」
……いや、俺以外の人が魔力を流しても外れるかもしれないじゃん。
疑わしかったので、まずはケイティに自分で首輪を外してみてくれ、と言う。
彼女は力いっぱいに首輪を引っ張ったり、魔力を流し込んで外そうとしていたが……結局外れることはなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……このように……この首輪は頑丈に作られているので……契約者であるアイゼア様か、ご主人様しか外せないのです」
息を切らしながらそう言ってくる。
……まあ、それは信じよう。そこは本当のことだと認める。
だが、それよりもさっきから気になっていたんだが……
「なあ。さっきからご主人様と言ったりアイゼア様と言ったりしているが、どっちがどっちを指しているのか分からなくなるんだが? 俺はアイゼア様と呼ばれているのか? それともご主人様と呼ばれているのか?」
そう、名前が同じだから呼び方で混乱するのだ。それが気になって話が頭にすっと入ってこないし。
「では、昔のアイゼア様を元ご主人様、生まれ変わったアイゼア様をご主人様と呼びますね。また、昔の元ご主人様を公の場などで呼ぶ時は天才魔術師アイゼア様、生まれ変わったアイゼア様をアイゼア様、と呼ぶことにします」
彼女は『うん、いい感じですね』と言って満足そうにする。
……まあ、それならまだ判別できるか。
俺は『分かった』と言って話を元に戻す。
「じゃあ、この首輪に俺が触れて、魔力を流してみることにしよう。でも、ただ俺が魔力を流し込んで結果が分かるのは面白くない。というわけで、賭けをしたい」
「賭け……ですか?」
ケイティが首をかしげた。
俺は頷き、説明を続ける。
「もし首輪が外れなければ俺の勝ち。外れたらケイティの勝ちとし、俺が勝ったら……そうだな……昔は奴隷だったらしいし、俺の性奴隷になれ。こう見えて、俺は性欲の塊でさ。毎日数回のガス抜きをしないとやってられないんだよ。というわけで、俺が勝ったらお前は俺の性奴隷として性処理をしてもらう」
えっへんとポーズをとり、クズみたいなことを言う。
本当にしてもらうわけではない。この勝負に怖気づいて、『今まで話してきたことは嘘でした! 本当のことを話すのでそれだけは許して下さい!』と言ってくるのを期待してのことだったのだが……彼女の反応は俺の期待していたものとは違ったものだった。
「ええ、いいですよ。あなたは天才魔術師アイゼア様の生まれ変わりなのですから、絶対に首輪を外すことが出来るはずです。それに、そんな賭けをせずとも、言ってくだされば喜んでしますよ?」
……お、思った以上に肝が座っているじゃないか……
俺のほうが怖気づいてしまう。
もしかしたらとんでもない人に目をつけられたのかもしれない。
「……で、ケイティが勝ったら何を俺に要求するんだ? 要求してくれないと賭けが成立しないだろ?」
腰が若干引けてしまったが、なんとか気を確かにして彼女に問いかける。
「私は……そうですね……今後一切、『お前のことなんて知らない!』とか『そんなの作り話で嘘だ!』ということをご主人様が言わないという要求でよろしくおねがいします」
ケイティが少し悲しそうな顔をする。
……くっ……
「い、良いだろう……」
ひどいことを言ってしまったのかもしれないという若干の後悔をしながら返事をする。
だが、吠え面をかくのは彼女の方なのだ。ケイティが俺に話してきたことは全部嘘だということを、これで証明してやる!
俺は恐る恐る彼女の首輪に手を触れて……魔力を流し込む。
…………
何も起きない。うんともすんとも言わず、首輪はケイティの首にはまったままだ。
「……どうやらこの賭けは俺の勝ちーー」
――カチッ……ガシャン!
俺が勝ち誇った顔をした瞬間、首輪が見事に外れて床に落ち、粉々に砕けた。
……へ?
「やっぱり、ご主人様は天才魔術師アイゼア様の生まれ変わりで間違いないようですね」
彼女が嬉しそうな顔を俺に向けてくる。
そんな……ばかな……! なにかの間違いじゃ……
まだ疑おうとしている俺の手をケイティが取ってくる。
「これで私の話を信じてもらえましたか? あなたに嘘など一切ついていません。ご主人様は、記憶が無いだけであのお方の生まれ変わりなのです」
俺の手を握りながら真剣な眼差しで俺の事を見てくる。
……くっ……反論しようとしても、何も出てこない……!
もう認めてしまえよって? バカを言え。彼女の目的が俺の命とかで、それを手に入れるがために嘘を付いてきているとしたらトンデモナイことになるだろうが! 俺は出来損ないだが、命までは取られたくないのだ!
反論できずにいた俺は、せめてもの抵抗として、何故契約者しか外せないと言っていた首輪が外れたのかを聞くことにした。
「なんで首輪は外れたんだよ。意味が分からない」
「何度も申しますが、それはあなたが天才魔術師アイゼア様の生まれ変わりだからです。魔力には型というものがあり、人によって千差万別、唯一無二のものなのですが、輪廻転生した人の魔力の型は、前世の人の型と一致すると聞きました。つまり、奴隷の首輪が外れたということは、元ご主人様の魔力の型とあなたのものが一致しているということであり、あなたがあのお方の生まれ変わりだということを証明しているのです」
ニコニコ顔で俺に説明をしてくる。
……くそっ……! 完全に逃げ道を断つような説明の仕方をしてきやがって! これじゃあ、ケイティの話を信じるほかなくなるじゃないか!
しばらく考えた後。俺は、結局
「断固として信じないからな!」
と負け犬の遠吠えをすることくらいしかできなかった。
で、そんな『もう認めたほうが楽だぞ?』と言われそうな俺だったが……ふと足元を見た時、ある重大な問題を認識する。
そう、思い出の品とか言って大事そうにしていた首輪が壊れちゃっている問題だ。
まあ、壊れたと言うか床に落ちた衝撃で粉々に砕けているのだが。
いくら信じられない話をしているとはいえ、奴隷の首輪を大切にしていたのは事実だろう。
さて、俺はどうフォローするのが正しいのだろうか。
『俺は悪くない。強いて言えば首輪を外してくれと言ってきたケイティが悪いんだ』と言う?
……これは駄目だな。流石にひどすぎる。
じゃあ、『これを期に、昔の男のものは全て捨てて、俺だけを見ろ』とか?
……いや、これはなんかおかしな方向に行きそうだ。
うーん……分からん。こんなときどういう言葉をかければ上手いこと穏便に事が済むのかさっぱり分からん。
居間を歩き回りながら頭を捻ってなんとか考えをまとめる。
……これでいいか。
「ちょっと待っててくれ」
そういってキョトンとしているケイティをおいて、俺は自分の部屋に行って……あるものを取って戻ってくる。
「……はい、これ。奴隷の首輪の完全な代わりにはならないかもしれないが……大事な思い出の品を成り行きとは言え壊してしまったからな。代わりのものとしては……少しあれかもしれないが……」
俺が渡したのは、犬の散歩の時につけるような首輪である。
なんでそんなものが家にあるのかって? 将来SMプレイをするときのために買っておいたのだ。それ以上は聞くな。
突き返してくるかとも思っていたのだが……
「ありがとうございます! 一生大事にしますね!」
といって嬉々として自分の首に俺が渡した首輪を嵌めてしまった。
……別におしゃれな感じの首輪だから、ずっと付けていてもおかしくはないが……
「大切にしていた首輪が壊れてしまったのは……いいのか?」
若干気まずい空気を流しながら聞いてみる。
ケイティは、
「良いのです。ご主人様にはこうして出会えましたし……こうして新しい首輪をくださいましたし……」
と、俺があげた首輪を嬉しそうに撫でながら言ってくる。
くっ……なんか分からんがエッチだ……!
「べ、別に俺はそういう意味であげたわけじゃないというか……」
「そういう意味って?」
クスクスと笑いながら聞き返してくる。
彼女の話は未だに信じられないが、それとは別に、心のなかでは出会ったばかりなのに彼女のことは悪くないと思っていて、『ケイティは俺のもんだ!』という意味を少しだけ、ほんの少しだけ込めて渡してしまったとか、そんなことを言えるわけがないだろ! てか、本当は分かって聞いてんじゃないのか!?
俺は顔を真っ赤にしながら『う、うるさい!』と言ってそっぽを向く。
それを見て、ケイティは『こういうツンデレっぽいご主人様もいいですね』と言って俺の頭をナデナデとしてくる。
……いいように手のひらの上で転がされている感がパない……
……いや、俺以外の人が魔力を流しても外れるかもしれないじゃん。
疑わしかったので、まずはケイティに自分で首輪を外してみてくれ、と言う。
彼女は力いっぱいに首輪を引っ張ったり、魔力を流し込んで外そうとしていたが……結局外れることはなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……このように……この首輪は頑丈に作られているので……契約者であるアイゼア様か、ご主人様しか外せないのです」
息を切らしながらそう言ってくる。
……まあ、それは信じよう。そこは本当のことだと認める。
だが、それよりもさっきから気になっていたんだが……
「なあ。さっきからご主人様と言ったりアイゼア様と言ったりしているが、どっちがどっちを指しているのか分からなくなるんだが? 俺はアイゼア様と呼ばれているのか? それともご主人様と呼ばれているのか?」
そう、名前が同じだから呼び方で混乱するのだ。それが気になって話が頭にすっと入ってこないし。
「では、昔のアイゼア様を元ご主人様、生まれ変わったアイゼア様をご主人様と呼びますね。また、昔の元ご主人様を公の場などで呼ぶ時は天才魔術師アイゼア様、生まれ変わったアイゼア様をアイゼア様、と呼ぶことにします」
彼女は『うん、いい感じですね』と言って満足そうにする。
……まあ、それならまだ判別できるか。
俺は『分かった』と言って話を元に戻す。
「じゃあ、この首輪に俺が触れて、魔力を流してみることにしよう。でも、ただ俺が魔力を流し込んで結果が分かるのは面白くない。というわけで、賭けをしたい」
「賭け……ですか?」
ケイティが首をかしげた。
俺は頷き、説明を続ける。
「もし首輪が外れなければ俺の勝ち。外れたらケイティの勝ちとし、俺が勝ったら……そうだな……昔は奴隷だったらしいし、俺の性奴隷になれ。こう見えて、俺は性欲の塊でさ。毎日数回のガス抜きをしないとやってられないんだよ。というわけで、俺が勝ったらお前は俺の性奴隷として性処理をしてもらう」
えっへんとポーズをとり、クズみたいなことを言う。
本当にしてもらうわけではない。この勝負に怖気づいて、『今まで話してきたことは嘘でした! 本当のことを話すのでそれだけは許して下さい!』と言ってくるのを期待してのことだったのだが……彼女の反応は俺の期待していたものとは違ったものだった。
「ええ、いいですよ。あなたは天才魔術師アイゼア様の生まれ変わりなのですから、絶対に首輪を外すことが出来るはずです。それに、そんな賭けをせずとも、言ってくだされば喜んでしますよ?」
……お、思った以上に肝が座っているじゃないか……
俺のほうが怖気づいてしまう。
もしかしたらとんでもない人に目をつけられたのかもしれない。
「……で、ケイティが勝ったら何を俺に要求するんだ? 要求してくれないと賭けが成立しないだろ?」
腰が若干引けてしまったが、なんとか気を確かにして彼女に問いかける。
「私は……そうですね……今後一切、『お前のことなんて知らない!』とか『そんなの作り話で嘘だ!』ということをご主人様が言わないという要求でよろしくおねがいします」
ケイティが少し悲しそうな顔をする。
……くっ……
「い、良いだろう……」
ひどいことを言ってしまったのかもしれないという若干の後悔をしながら返事をする。
だが、吠え面をかくのは彼女の方なのだ。ケイティが俺に話してきたことは全部嘘だということを、これで証明してやる!
俺は恐る恐る彼女の首輪に手を触れて……魔力を流し込む。
…………
何も起きない。うんともすんとも言わず、首輪はケイティの首にはまったままだ。
「……どうやらこの賭けは俺の勝ちーー」
――カチッ……ガシャン!
俺が勝ち誇った顔をした瞬間、首輪が見事に外れて床に落ち、粉々に砕けた。
……へ?
「やっぱり、ご主人様は天才魔術師アイゼア様の生まれ変わりで間違いないようですね」
彼女が嬉しそうな顔を俺に向けてくる。
そんな……ばかな……! なにかの間違いじゃ……
まだ疑おうとしている俺の手をケイティが取ってくる。
「これで私の話を信じてもらえましたか? あなたに嘘など一切ついていません。ご主人様は、記憶が無いだけであのお方の生まれ変わりなのです」
俺の手を握りながら真剣な眼差しで俺の事を見てくる。
……くっ……反論しようとしても、何も出てこない……!
もう認めてしまえよって? バカを言え。彼女の目的が俺の命とかで、それを手に入れるがために嘘を付いてきているとしたらトンデモナイことになるだろうが! 俺は出来損ないだが、命までは取られたくないのだ!
反論できずにいた俺は、せめてもの抵抗として、何故契約者しか外せないと言っていた首輪が外れたのかを聞くことにした。
「なんで首輪は外れたんだよ。意味が分からない」
「何度も申しますが、それはあなたが天才魔術師アイゼア様の生まれ変わりだからです。魔力には型というものがあり、人によって千差万別、唯一無二のものなのですが、輪廻転生した人の魔力の型は、前世の人の型と一致すると聞きました。つまり、奴隷の首輪が外れたということは、元ご主人様の魔力の型とあなたのものが一致しているということであり、あなたがあのお方の生まれ変わりだということを証明しているのです」
ニコニコ顔で俺に説明をしてくる。
……くそっ……! 完全に逃げ道を断つような説明の仕方をしてきやがって! これじゃあ、ケイティの話を信じるほかなくなるじゃないか!
しばらく考えた後。俺は、結局
「断固として信じないからな!」
と負け犬の遠吠えをすることくらいしかできなかった。
で、そんな『もう認めたほうが楽だぞ?』と言われそうな俺だったが……ふと足元を見た時、ある重大な問題を認識する。
そう、思い出の品とか言って大事そうにしていた首輪が壊れちゃっている問題だ。
まあ、壊れたと言うか床に落ちた衝撃で粉々に砕けているのだが。
いくら信じられない話をしているとはいえ、奴隷の首輪を大切にしていたのは事実だろう。
さて、俺はどうフォローするのが正しいのだろうか。
『俺は悪くない。強いて言えば首輪を外してくれと言ってきたケイティが悪いんだ』と言う?
……これは駄目だな。流石にひどすぎる。
じゃあ、『これを期に、昔の男のものは全て捨てて、俺だけを見ろ』とか?
……いや、これはなんかおかしな方向に行きそうだ。
うーん……分からん。こんなときどういう言葉をかければ上手いこと穏便に事が済むのかさっぱり分からん。
居間を歩き回りながら頭を捻ってなんとか考えをまとめる。
……これでいいか。
「ちょっと待っててくれ」
そういってキョトンとしているケイティをおいて、俺は自分の部屋に行って……あるものを取って戻ってくる。
「……はい、これ。奴隷の首輪の完全な代わりにはならないかもしれないが……大事な思い出の品を成り行きとは言え壊してしまったからな。代わりのものとしては……少しあれかもしれないが……」
俺が渡したのは、犬の散歩の時につけるような首輪である。
なんでそんなものが家にあるのかって? 将来SMプレイをするときのために買っておいたのだ。それ以上は聞くな。
突き返してくるかとも思っていたのだが……
「ありがとうございます! 一生大事にしますね!」
といって嬉々として自分の首に俺が渡した首輪を嵌めてしまった。
……別におしゃれな感じの首輪だから、ずっと付けていてもおかしくはないが……
「大切にしていた首輪が壊れてしまったのは……いいのか?」
若干気まずい空気を流しながら聞いてみる。
ケイティは、
「良いのです。ご主人様にはこうして出会えましたし……こうして新しい首輪をくださいましたし……」
と、俺があげた首輪を嬉しそうに撫でながら言ってくる。
くっ……なんか分からんがエッチだ……!
「べ、別に俺はそういう意味であげたわけじゃないというか……」
「そういう意味って?」
クスクスと笑いながら聞き返してくる。
彼女の話は未だに信じられないが、それとは別に、心のなかでは出会ったばかりなのに彼女のことは悪くないと思っていて、『ケイティは俺のもんだ!』という意味を少しだけ、ほんの少しだけ込めて渡してしまったとか、そんなことを言えるわけがないだろ! てか、本当は分かって聞いてんじゃないのか!?
俺は顔を真っ赤にしながら『う、うるさい!』と言ってそっぽを向く。
それを見て、ケイティは『こういうツンデレっぽいご主人様もいいですね』と言って俺の頭をナデナデとしてくる。
……いいように手のひらの上で転がされている感がパない……