第1話

文字数 2,302文字

うーん、まずは書いてみることだ、と、この文章を書き始めた。
私はなぜか考えごとをしがちだ。時には循環論に陥って、気分転換に外へ出たりする。
ふと、これはよくわからない、と、それなりにまとも(それも怪しいもんだけど)な疑問が浮かんだら、いつもお世話になっている福祉施設の職員さんに聞いてみる。
なぜだろう?と疑念のあったところの穴っぽこに施設長が言っていた言葉がすとんと落ち
、わかったり(その場では)する。

特に職員のKさんは、論理的思考がしっかり身についた人で、私がわからなかったことを、よく概念化してもらっている。この概念化、が私のように頭の働きが鈍い人間には難しいのだ。いつも、漠とした概念をKさんへ持って行って、形に変えてもらっている。
ある日は、例えばソープランドへ行って五万使うのと、本を五万円分買うのはどう違うのか?と、これまたわけわからん疑問を持って行ったら、女性の前では、はばかられる話題なので、隅へ行って、こそーっと教えてもらった。
Kさん言うに、ソープへ行くことは、本能から出る欲求を満たすことで、本(レコードなんかでもいい)を買うことは、その欲求が満たされて出来ることで、そもそも両者は全く質の違うもの、ということだった。欲求を満たすことは、一次的なこと、それから、二次的に、本を読もう、買おうと人間はする、と。これは何も風俗へ行かなくて、例えば(これまた女性には、はばかられる)自慰、で満たして、本を読んでもいい。とにかく、三大欲求が満たされないことには、学問も芸術もスポーツもないのだ。これはちょっと言っていることが変わるけれど、衣食足りて礼節を知る、のようなものだ。着るもんもない、食うもんもない、では、礼節もくそもない。
福祉施設の図書室で、ふと中学生に教えるような性教育の本をめくってみると、性的欲動と、芸術、スポーツへの昇華の欲動は全く別物である、とあった。つまり、本能である性的欲動は一次的、芸術、スポーツなどへの昇華の欲動は二次的なのだ。なるほど、そうそう人間、ストイックには出来ていない。聖人、なんて人は存在しないはずである。聖人ですら、一人のただの人間なのだから。
これだけ、Kさんが概念化してくださったおかげで、べらべらしゃべれる(笑)。そんなのつまんなーい、という人にはどこまでもつまんない話だけど。

こないだは、私は生活保護を受けて暮らしているので(これ、全然、有閑階級なんてものじゃないんですよ。どこまでもやりくり、やりくり、の世界です。千円すらなかなか出ない。結構コンビニとかスーパーで千円出してんじゃん、て人、その時だけです。)、やるには、生活保護を切らなければいけない(つまり、生活基盤を全く失う)ので諦めたのだが、他の職員さんが通われているとのことで、大学院へ行ってみたい、と思い、試しに九州大学大学院哲学科の過去問を解いてみた。多分、お話にならないお粗末な答えしか私には書けていなかったが、故・池田晶子さんの文章が問題に出てきて、池田さんの文章を読んで、思うところを述べよ、といった問題だったが、Kさんは、この問題を貴重なお時間を割いて、Kさんなりに解いてきてくださった。それが、哲学に少しかぶれている私には思いつきもしなかった答えだった。池田さんの文章では、私、の存在の危うさを説いてあったが、私は、なるほど、と思うばかりで、論駁すら思いもよらなかったが、Kさんの場合、池田さんの話に順接した答え、論駁した答え、と二つ用意されて、私には、論駁した方の答えを読ませてくださった。それには、私、の存在が危ういのなら、あなた、の存在も危うくなる、なぜなら、あなたにとって、私はあなた、だからである、とあった。あ、なるほど!と思う。そして自分の頭の悪さも嘆く(笑)。私、とあなた、は必ず相互関係で存在しており、私、の否定は、あなた、の否定、つまり否定したら二者共いなくなってしまうのだ。これは嬉しかった。長年の疑問も解けたからだ。若い頃、中島義道さんの本を読んで、デカルトの我思う、故に我あり、は、第一前提に、思うものはすべてある、第二前提に、我思う=故に我あり、で思うものはすべてある、という第一前提が確かでなければいけないから、成立しない、とあった。しかし、Kさんの私、とあなた、の認識から考えると、私がいなかったらあなた、もいない、だから、二者共いない、となるから、私、もあなたも確かに居る、と解る。(ちょっと甘いかも(笑)。すみません、僕はただの素人なので(笑)。)だから、思っている、私、は存在すると考えていい。だからこそ、あなた、も存在する。これでやっと我思う、の意味がわかった、と思ったけど、ちゃんと方法序説を読んでみて、前後の文脈からわからないと、理解したことにならない。とはいえ、曲がりなりにもKさんのおかげで証明が出来た。

こんな風に、へっぽこながら、いっつもなんかしら疑問を呈しては、一緒に考えてもらっています。全部が全部手伝ってもらうわけにはいきません。Kさんの受け持った他の山積みの仕事、Kさんのプライベート、などを浸食しないように、と配慮(しているつもりだが、結構浸食しているかもしれない。うーむ。いかんな。)しながら、思いつき、思いつき、お時間が許せば聞いてみています。Kさんも全知全能の神ではありませんから、わからないことはわからない、これはあまりやりたくない、または時間がない、こともあります。しかし、全知全能の神は、ギリシャ神話だったら、浮気性で恐妻家なんだから、なんだか、すごく人間らしくて、ユーモラスですね(笑)。        
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