4章 修羅の住む国 マッチングアプリ その弐

文字数 12,713文字

④いいね! の成功率について
 利用者にとって気になるのがいいね! の成功率。男女間で顕著な差異があるのでしょうか。これについても複雑な統計解析をするまでもなく、答えは出せそうです。
 進化心理学的に考えますと、男性からのいいね! は成功率が低く、女性からのいいね! は高確率でマッチングする、となるでしょう。なぜそうなるのでしょうか? これはいいね! をそれぞれの配偶子と考えれば即座に納得がいきます。
 非常に下世話なたとえで申しわけないけれども、いいね! とは結局のところ、電子的な精子と卵子であるといっても過言ではありません。わたしの利用しているアプリではいいね! は初期値で30、オプションをつけるとさらに+20、まだ足りない場合はポイントを購入していいね! に変換するというしくみです(やっている人にはこの解説だけでばれるでしょうね……)。
 みなさんこの初期値30という数についてどう思われるでしょうか。おそらく女性はそんなにいらないと思い、男性は少なすぎると思うのではないでしょうか。この感覚はそのまま配偶子の生産数に直結します。男性は億単位の精子を放出しており、かたや女性は1か月にたった1個の卵子しか排卵しない。精子は安かろう悪かろうの粗悪品なので無秩序にばらまけるいっぽう、卵子は高コストの貴重品なのでした。
 そうです、いいね! もまったく同じ使われかたをしているのですね。女性会員と男性会員でいいね! の獲得平均値が文字通り桁ちがいなのも納得できます。男はどれだけ魅力的でもせいぜい100止まりですが、女は500以上もらっているなんてざらというデータがある。
 ことに男性の無計画ぶりは同性ながら呆れるばかりです。見た目がよくて年齢さえ若ければなんでもよいらしく、すでに500以上いいね! をもらっている会員にもおかまいなしに送りつけている。常識的に考えて、競争倍率が500もあるような試験に通ると思いますか?
 東大卒とかハーバート卒であれば可能性はあるかもしれませんが、マッチングアプリをやっている男なんて大部分が非モテ野郎なんですから(わたし含む)、せいぜい誰も聞いたことのない、名前だけ書けば入れるような五流大卒が関の山なわけでしょ。有象無象が殺到しているところにプラス1したところで、箸にも棒にもかからないはずだとわかりそうなものです。
 おそらく男性はいちいちいいね! の数やプロフィールなんか見ていないのでしょう。かわいかったり若かったりすれば脊髄反射でいいね! ボタンをポチる。可能性やら相性やらなんかいちいち確認している暇があったらほかの娘に粉をかけろ! というわけ。まさに進化論的な行動原理に忠実にしたがっている。
 ですから男性から送ったいいね! のマッチング率は低い。だってちゃんと吟味してないんですもん。女性側のプロフィールにでかでかと「タバコ吸わない人希望」と書いてあるのに喫煙者が送っていたり、アウトドアな趣味の人とつながりたいとあるのにオールシーズンインドア派の陰キャが(分不相応にも)送っていたりするのでしょう。そんなもんマッチングするはずがない。
 わたしも始めたばかりのころは「うっひょひょーい、若い娘いっぱいいるやーん、この世の天国じゃうはははは」などと舞い上がって21歳の女子大生とかに粉をかけたものですが、まったく梨のつぶてばかりなのですぐに現実路線へ切り替えました。
 わたしの現実路線とは、①なるべくいいね! 数が少ない女性を狙う、②21歳とかはさすがに控える、③突出した美人は避ける、④趣味嗜好が似ている女性を狙う、などですね。ここまでやればすぐマッチングしそうなものですけど、実態はさにあらず。
 まあ実らない。とんと実らない。わたしが非モテ野郎なのは認めるけれども、それを考慮したとしてもあまりにも実らなさすぎる。いいですか、吟味してこれなのですよ。適当にめくら撃ちしている連中のマッチング率なんか、おそらくゼロコンマ以下でしょうね。
 出血大サービス、実らなさを数値でお示ししましょう。わたしの成績は以下の通り。2021年10月13日に開始し、送ったいいね! はおよそ110ほどです(初期値30+ログインボーナス総計50+有料会員付与30)。2021年11月27日現在、わたしから送ったいいね! が返ってきてマッチングしたのはたった3件で、うち1件は誤いいね返しだったらしくて音沙汰なし。あとの2件も早々にブロックされ、梨のつぶてであります。マッチング率2パーセント。惨憺たるありさまですね。
 以上の議論から考えると、どうも運営側はわざといいね! の初期値を少なく設定しているふしがある。メイン顧客は大部分の非モテ男性ですので、彼らはどれだけ弾があっても足りない状況なわけです。送っても送っても無視されるんですから。彼らは女性をものにできるのならいくらでも支払う用意と覚悟がある。ここにつけ込む隙があるのですね。
 有料会員やオプション、果てはポイント購入によるいいね! 交換システムなどを構築、徹底的に非モテ男性から搾り取る算段であろうと思われます。実に見事というほかない。よい悪いではなく、進化論的に考えるとこういう運営体制に落ち着かざるをえないのであります。
 ここでのポイントは、女性にとってはこんなにもいらないという事実でありましょう。女性は(頻繁にログインして検索候補の上位にさえ居座っていれば)黙っていてもいいね! の猛爆撃にさらされますので、そのなかからましなのを選べばよい。女性は顧客(非モテ野郎)を釣るためのルアーなので、いいね! 数は彼女らが少なすぎると思わないいっぽう、男性には十分な数を用意してはならない。運営側のお手並みには脱帽です。

 お次は女性からのいいね! 送信を考察してみましょう。なぜこれが高確率で成功するのか。まずそもそも女性はいいね! を積極的には送らないと考えられます。卵子が自分から子宮の外へ飛び出していって、男のキンタマ(失礼)で受精しますか? つまりそういうことです。生物学的に女性からのアプローチは不自然なのですね。
 女性からアプローチするのがはしたないとか、がっつく女は低く見られるとか、そうした前時代的なイデオロギーを押しつけようというのではありません。わたしが言いたいのは、男性に比べて女性はあんまり自分からいかないよ(というかいく必要がない)、というだけの話です。
 かてて加えて、女性は(脳に生殖器が生えていそうな男どもと異なり)配偶者候補をかなり綿密に吟味するのでした。おそらく相手のプロフィールや趣味嗜好なども逐一目を通し、自分にふさわしいか判断してからいいね! を押しているはずです。
 そうなりますと男のほうは、ただでさえ女の子からいいね! がきて狂喜乱舞しているところへ、なにやら自分の趣味嗜好と同じような娘じゃないか! ええいまだるっこしい、こいつと結婚じゃあ! となるわけですな。したがって女性からのいいね! ははるかにマッチング率が高いと推測できそうです。
 ただし年齢の壁は大きいものと思われますので、その点はご留意されたほうがよいでしょう。あれだけモテないと愚痴ったけれども、実はわたし、けっこういいね! をもらっていました。一時期は40以上あったりもしましたよ(いいね! 数は累計ではなく1か月経つとリセットされるので、徐々に減少します。いまではすっかりみすぼらしい数字に……)。
 けれどもそのほとんどは僭越ながら、見送らせていただきました。なぜかといえば、みんな30歳オーバーの同年代だったからです。これだけは何度もくり返しますが、男は生物学的に若い娘に誘引されるよう遺伝的に刷り込まれています。ですから彼女らはわたしからすると、ちとお年を召しすぎている。――女性読者のみなさん、著者の素性を暴き出し、暗殺者を差し向けるのはもうちょっとだけ待っていただきたい。そうするにしても、以下のセンテンスを読んでからお決めください。
 この問題についてはまこと悩ましい。わたしは若い女性が好きです。それは遺伝的にそうなっているからというのが大きなファクターを占めるのでしょう。でも科学的結論は回答ではなく手段だったのでは? おまえはちょっと前にそう書いてなかったか?
 そう書いていました。しかしこれは同時に個人の選好の問題でもあります。わたしの若い女性への偏った愛着――そう言いたければロリコンでもかまいません――が生物学的に裏づけられているのであれ、そうでないのであれ、わたしに30代、40代の女性も平等に愛せと強制するのが正しい態度でしょうか? なぜ年齢のことになるとこうも過剰な反発を招くのでしょうか。
 わたしは女性諸氏がイケメン大好き! ブサメンは死ね! と声高に主張していたとしても、なんとも思いません。36歳(わたしの年齢です)のおっさんなんかごめんだよ! と言われても、それはしかたのないことだと諦めます。異性のどんな要素にこだわりがあるかは個人の裁量だからです。
 くどいようですが、科学的結論はあくまで手段にすぎません。それを取り入れるのも一顧だにしないのも個人の自由であります。わたしのロリコン的性向はたまたま、科学的結論と一致していたにすぎません。科学で導き出された知見を必ずしも文化へ敷衍しなくてよいのと同様、それを取り入れるのもまた自由なのであります。これはわたしのロリコン的性向を正当化しているのではなく(まあちょっとだけそうした意図もありますが)、〈自由〉という概念を守るために言っているのです、誤解のなきよう。
 話がそれましたが、そうした年齢のミスマッチさえなければ、女性からのアプローチはてきめんに有効である。これが生物学的な知見をもとにした結論であります。なんのことはない、誰でも知っているようなところへ落着したのでした。

⑤マッチングアプリにおける性淘汰の暴走(ランナウェイ)
 性淘汰については1章で論じました。ざっと復習しておきますと、メスによるオスのえり好みのことでした。自然淘汰と異なり、選ばれる形質は必ずしも生存や生殖に有利でなくてもかまわないという点もご説明したかと思います。
 アプリをやっていて思うのですが、われわれ男性はいまや、何千万気圧に達するすさまじい性淘汰の圧力にさらされているようです。順に見ていきましょう。

⑴邦ロックとやら
 若い女性のプロフィールを眺めていると、およそ85%ほどの確率でこの得体のしれない専門用語(ジャーゴン)に出くわします。最初は無視していたのですが、あまりにも頻出するので職場の若い後輩(序文に出てきた芳樹くんです)に聞いてみました。
 邦ロックとは、邦楽におけるロックンロールである由。そのまんまじゃねえか! なんでこんなふうにいちいちもったいぶって呼ぶんでしょうか。ふつうにロックでよくないですか? 

という文字になにかしら神通力でもあるのか? どうにもめかしこんでいる表現が気に入りません(若者文化をかたくなに認めないおじさん症候群の片鱗が垣間見えますね……)。
 なんでもBUMP OF CHIKINとかASIAN KUNG-FU GENERATIONが始祖となったジャンルだそうで。ちょっと奥さん、聞きましたか? バンプやアジカンがもはや始祖扱いなのですよ。たまげたなあ。
 なんにせよこの妙なジャンルを聞かぬ者、人にあらず。それがマッチングアプリ業界の常識と化しつつあるようです。若い娘に粉をかけるのも楽ではありませんね。

⑵APEXとやら
 なにかそういう名前のネットゲームがあるそうで。これも芳樹くんに聞きました。どうも外国発のあまりはやらなかったネットゲームのスピンオフ作品らしく、APEX自体は販促活動に力を入れたためにバカ売れしているのだとか。
 その設定がまた陳腐でして。地球人があらゆる惑星に版図を広げた遠未来、エイリアンの来襲を食い止めるため、人類は抵抗戦線をくり広げ、各地で戦争がおっぱじまっている。
 芳樹くんは興奮して続けます。巨大メカも登場し、優秀な兵士の脳を電子スキャンしたイミテーション(シュミラクラ)を組み込んで操縦させ、生身の兵士の損耗を防いでいる、すげー、かっこいい! うんぬん。
 元ネタが外国産だからか、モロに20世紀の外国SFの影響を受けていますね。とくにシュミラクラあたりはP・K・ディックでしょうなあ。これは思い切り偏見ですけど、わたしはディックはそんなに好きじゃないんですよね。純粋につまんなくないですか、あの人の小説って。そりゃ「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」とか「高い城の男」は別格ですけど、ほとんどは駄作としか思えない。なんであんなに評価高いんでしょうか。
 それはともかく、APEXのSFガジェットがまあ古い。こんな程度の設定でいまのユーザーは喜ぶのですか? 1950年代の水準ですよ。こう言ってはなんですが、APEX程度の内容で満足しているようではたかが知れています。もっとこう、めくるめく白昼夢――byディック。結局ディックやんけ!――を堪能させてくれる外国SF小説を読めよ! と声を大にして言いたい。
 しかし時代は変わったものです。わたし世代なんてネットゲームをやっているやつなんて、根暗の陰キャと相場は決まっていたのに。いまやキャピキャピした若い娘がやってんだもんなあ。ありがたいのやらありがたくないのやら……。

⑶韓国への異常なまでの傾倒
 いったい韓国は日本にどんな恐るべき洗脳工作を仕掛けたのでしょうか? ついこないだまで韓国を好きな人なんて事実上、0人だったじゃないですか。反日政策をやりすぎて、全国民が総出で日本にあらぬ言いがかりをつけていましたよね。慰安婦とか植民地とかで。
 それがいまや、右を見ても左を見ても韓国、韓国、かあんこくう! ですからねえ。隔世の感がある。どうもK-POPなる音楽ジャンルがあるそうで、そうした連中が日本の若い女性を篭絡している由。
 なかには「韓国人とつながりたい」、「韓国人彼氏希望」などというとんちんかんなプロフィールに出くわすことすらある。これにはたまげました。彼女たちは本当に韓国人が、音楽番組みたいな超絶イケメンばかりだと本気で思っているのでしょうか?
 仮にそうだとしても、韓国が儒教の国であることを理解しているのでしょうか。儒教は親孝行を美徳としたすばらしい学問のように思えますが、その実態は年功序列、男尊女卑のろくでもない思想であります。日本も明治維新の際、いままで中国の文化圏に属していたのを一新、儒教を捨てて近代西洋科学に鞍替えし、それが大成功を修めたのでした。
 韓国人の彼氏なんか作った日には暴力なんか日常茶飯事、それはもう目も当てられないような生活になるのは目に見えている。べつにわたしは韓国人が嫌いなわけではなくて、安易に音楽のフィーリングだけで判断すると文化摩擦で苦労しますよと、こう言いたいだけなのです。まさか彼女らが本気で韓国人と結婚しようとしているとは思えませんが、念のため。
 なにより下手を打って北朝鮮の男と結婚でもしてごらんなさい。ほいほい相手の国へついていって、二度と帰国できない破目に陥る可能性だってありますよ。
 まだ北朝鮮の惨状がきちんと伝えられていなかった1990年代、日本人女性が北朝鮮人と結婚してかの国へ移住したことがありました。おそらく彼女たちはいまでも北朝鮮から一歩も出られない状態でしょう。当時から帰国したいけれども許可が下りない、助けてほしいという窮状が手紙で知らされたりしていたんですけど、叶えられることはなかった。
 共産主義国家というのはこの世の地獄です。南朝鮮だっていつそうなるかわかったものじゃない。韓国人と結婚するつもりなら、それくらいの覚悟が必要でしょう。

⑷テーマパーク
 これはもはや異常としか思えないのですが、いったい若い女性というのは東京ディズニーランドか、あるいはユニバーサルスタジオジャパンのいずれかにいかないとご臨終あそばされるのでしょうか。何者かが彼女らに毒を盛り、双方に解毒剤が置いてあるとしか考えられない。
 TDR、USJ。この文言の踊っていないプロフィールをわたくし、寡聞にして知らないのですよ。記載率は99%以上に達するのではあるまいか? わたしは両者がつまらないと言っているわけではありません。そうではなく、これほどまでに人口に膾炙している理由がわからない。
 なぜ志摩スペイン村やリトルワールドやハウステンボスはやり玉にあがらず、上記2地点のみが取りざたされるのか。両地点にいっていない者、人にあらずは当然として、両地点に一緒にいってくれない彼氏、人にあらずですらある。
 あまりにも趣味が画一的すぎる。個性がどうたら説教するつもりはないけれども、過度に他人の趣味嗜好から外れるのを恐れる精神、もしくは外れている他人を変人扱いする横並び根性の量産型国民を、そろそろやめるべきではないでしょうか。

⑸海外旅行
 テーマパークほどではないけれども、これもまあ多いことよ多いことよ。もちろん海外旅行自体に苦言を呈しているわけではありません。本当に立派な趣味だと思いますよ。
 そうではなくて、画一的な横並び根性が気になるのです。海外旅行が趣味ですとのたまう女性の九分九厘は、おそらくハワイを想定している。もちろんハワイはすばらしい島でしょうよ(いったことないけど)。わたしはその理由が気に食わない。友だちみんながそこにいっているから。どうせこれでしょう。
 もっと主体的に拳銃を撃ってみたいとか、ダイヤモンドヘッドを見たいとか、スキューバダイビングをしてみたいとか、マウナケア山へ登ってみたいとか、ふつうは旅行先でなにをしたいかがまずあって、それから評判を調べるのではないですか。そうでないならば、わざわざ海外までいく意味があるのでしょうか。
 国内旅行も同じですよ。人がどこにいったかだけを基準に旅行をするという神経がわからない。主体性がなさすぎる。なんだかどんどんモテない男が吠えてるだけみたいになってきたので、このへんでやめるけれども。
 ここでも結論は同じです。海外旅行に付き合えない男、人にあらず。

⑹カフェ巡りとやら
 カフェでゆっくり読書をたしなむ。こういうのはわかる。わたしが首をかしげざるをえないのは、

という行為のほう。
 この趣味自体を否定するつもりは毛頭ありませんよ。そうではなくて、これを男性と一緒に遂行できる、ないしは男性はこれを女性と一緒に遂行すべきだという主張は、さすがに過剰要求ではなかろうかという問題提起をしたいだけなのです。常識的に考えて、男がそれに喜び勇んで付き合うと思いますか?
 そもそもカフェという商売自体が男性を排除する方向で運営されているのは明らかですよね。男性はオシャレな内装を入り口からちらりと垣間見るだけでもう、げんなりしてしまう。とてもじゃないが俺たちの居場所じゃないという敗北感を抱いてしまう。
 これはカフェに限った話ではないのですが、事実上の男人禁制のお店が増えている気がします。プリクラなんて息の長い娯楽ですけど、わたしが中学生の時分はふつうに男友だちだけで撮影していました。けれどもいつの間にか男性は原則入室禁止、女性同伴時のみ例外容認という官僚機構の規制文句のごときシステムに変貌してしまった。

 話はそれるけれども、日本の官僚規制についてどう思われますか。彼らの規制のやりかたがわたくし、どうしても気に入らない。アングロサクソン系の法規制の解釈は、「条文で禁止されていなければ、原則なにをやってもよい」であります。これは不文律や慣習法(コモン・ロー)といった、明文化されていない裏の法律で人びとを縛らず、自由な社会を目指した法思想といえましょう。
 いっぽうねちっこい日本は不文律や慣習法に満ち満ちており、企業がなにかやろうと思っても、いちいち規制当局にお伺いを立てねば小便もろくすっぽできない。わたしの業界でもこんな話がありました。
 バーゼル法という国際条約があります。国境を越えた廃棄物の輸出を規制するというのがその要旨でして、先進国は第三国へごみを押しつけないようにしましょうねというわけです(国内で処理しきれなくなったごみを途上国へ輸出することで、ごみの移転をやっちまおうという安易な解決法が一時期はやったため)。
 そのためごみのように見える貨物は輸出規制が厳しくなって、税関からの審査がそれはもうねちっこくなりました。廃プラスチックなんかは典型例です。廃プラとはペットボトルとかフィルムのくずなどのことでして、それらを集めてきて途上国へリサイクル消費の名目で輸出するのですね。これがけっこうお金になるようで、何十年も続いている分野でもある。
 バーゼル法に日本が批准してからは、輸出品がごみでないことを環境省の出先機関に確認してもらうという手間が発生しました。これを事前相談と呼びます。廃プラは事前相談で環境省のお墨付きをもらっていないと輸出できない、ともいえましょう。
 さてわたしが担当した輸出案件では、この事前相談をちゃんとクリアしており、環境省の誰それからバーゼル法非該当である旨の連絡をもらっていたのですね。ですからなんの文句も言われる筋合いはないはずだった。
 さてきたる輸出申告において、この貨物は現物検査になりました。税関職員が現場にやってきて、中身を微に入り細を穿って検めるわけです。そのまま滞りなく検査は進み、輸出許可書が発行されました。問題はここからです。
 輸出許可書が発行された

に、税関から疑義が呈されたのですね。どうも検査に立ち会っていなかったべつの職員が、廃プラのなかに若干の金属が混じっていたのを貨物写真から見つけてきて、これはバーゼル法違反ではないのかと執拗に文句をつけてきた。
 これのなにが問題なのかというと、バーゼル法は環境省職掌でして、税関には原則審査権がない、という点です。税関は財務省管轄ですので、バーゼル法は管轄外の法令になる。これを他法令と呼びます。そしてこのケースでは、あらかじめ環境省に事前相談をして他法令をクリアしていた。ですから税関が文句をつけるべき相手は荷主ではなく、環境省の担当者であるはずです。そうできるようこっちは担当者名を明記した書類を提出しているのですから。
 しかもこの職員が文句をつけてきたのは、輸出許可を出した

ですからね。この点は何度強調してもしすぎることはないでしょう。こんなまねがまかり通るのなら、何年も経ったあとに「やっぱりあの輸出はこうこうこういう疑義がある」とか言っちゃえるじゃないですか(ちなみに事実、言えちゃいます。事後調査という名目で査察が入るのですよ。日本は管理国家である!)。
 結局当該廃プラは船に乗せられず、再度環境省に若干の金属が混じっているけれども本当に大丈夫かどうかを確認させられる破目となりました。結果はどうなったかといえば、もちろんOKです。事前相談の時点でゴーサインが出ていたんですから、税関の横やりがあったって変わるはずがない。
 当の税関職員は自分が専門分野でない法律にくちばしをつっこみ、荷主に負う必要のなかった負担を負わせ、さんざんかき回しておいて謝罪ひとつありません。「あ、そ。大丈夫だったの、よかったね」。彼は公務員の存在意義を完全に失念しているといえましょう。国民に奉仕する立場を忘れ、与えられた権限に酔いしれて条文にないことを禁止事項だといちゃもんをつける。
 これこそが日本の行政組織のやりかたです。

。法律に書いてなくてもやってはならない行動が無数にあり、国民は法律はもちろんのこと、そうした各省庁の暗黙の了解をも推測し、不文律と慣習法のはざまでビクビクしていなければならない。まるでKGBに怯える旧ソ連国民みたいではないですか。
 これが先進国の社会制度でしょうか。禁止事項が多すぎるので、イノベーションも発揮されないのではないですか。法律が明確なアングロサクソン系の国家――要するにアメリカですが、フェイスブックやYOUTUBEなどの超特大ヒットがかの国からのみ出てくるのは、法思想の相違が関係している気がしてなりません。
 例によって大幅に話がそれたけれども、わたしが言いたいのはカフェやプリクラは男性を差別することなく、平等に扱ったほうが収益が伸びますよと、この1点だけです。そして女性はカフェ巡りを彼氏に求めるのであれば、男の子も気後れしないよう積極的に社会の風潮へ働きかけていくべきである。わたしはそう思います。

⑺アルコールへの耐性
 若い娘さんたちはまことお酒が大好きなようでして、かなりの高確率でアルコールを一緒にたしなみたい旨、記述があります。
 わたしはアルコールが体質的に受け付けず、1~2杯程度のチューハイでダウンするタイプ。ですからもともとアルコールに対する嗜好はまったくありません(し、これからもぜんぜん興味は湧かないでしょう)。
 ここ数年お酒を一滴も飲んでいない人間からすると、あんなもんを飲みたいと思う神経がわからない。バーベキューのときなんかはいつもわたしが車を出しているけれども、酒飲みは率直に言って醜態をさらしていますね。いい年こいた大人が大声で叫んだりして、恥ずかしくないのでしょうか。
 大麻が禁止なら、なぜアルコールは禁止されないのでしょう。これのせいでいったいどれだけの人間が不幸になっているか、考えたことがありますでしょうか。若者の急性アルコール中毒、飲みすぎによる慢性的なアル中、デートレイプ、飲酒運転事故など、枚挙にいとまがない。
 わたしはリバタリアン(完全自由主義者)ですので、アルコールを禁止しろとは絶対に主張しません。お酒が万人に多大なる害をおよぼしているとしても、それが好きな人はいるわけですから、彼らの嗜好を妨害するのは許されざる自由への容喙です。リバタリアンはとにかく自由に最上級の価値を見出すのであります。
 もうひとつ例を挙げましょう。わたしは筋金入りの嫌煙家でして、タバコの煙が漂ってくると発狂しそうになります。だからといってタバコの税金を青天井で上げてよいとか、飲食店から喫煙スペースを完全排除しろとかいう主張にはいっさい与しません。
 苦いだけの煙を吸うことに選好を持つ個人がひとりでもいるならば、それは尊重されるべきなのです(副流煙を垂れ流してよいということにはならない点に留意。他人に害をおよぼす行為はなんであれ、リバタリアンは私有財産権への侵害とみなして徹底的に攻撃します)。誰がなにをしようと自由な社会。それがわれわれリバタリアンの思い描く理想の社会なのですから。

 とはいえひとつ断っておきますが、自由は責任と表裏一体の概念である点だけは押さえておいてください。お酒でなにかトラブルがあったとしたら、それは飲んだ個人が責任を負わねばならない。だって彼または彼女が好きで飲んだんでしょ。お酒の飲みすぎで前後不覚に陥ったあと、男性に性的なちょっかいを出されたなどと主張する女性がいるようですが、あんなもんまっっっっったく容認しがたい典型的なダブルスタンダードです。
 

。実に甘ったれたたわごとですよ! こんな主張を許したら、飲酒運転の死亡事故だって正当化されてしまう。なんであれ飲酒後の行動はすべて自己責任。これが自由に酒を飲んで騒いでもよいという言葉の意味です。
 タバコも同じ論法です。吸うのは個人の勝手ですけれども、晩年に肺がんになったからといって、堂々と医療保険を使って治療を受けるのは恥知らずもいいところです。考えなしの行動の後始末をみんなの税金でごまかそうとする。まるっきり泥棒のやりかたではないでしょうか。
 ダメ押しで最後にひとつ。登山を例にとって自由という文言の意味を明確化しておきます。登山はとかく自己責任を問われやすいスポーツですよね。わたしも10年以上やっているので、それはもうひどい目に遭ってきました。死の危険を感じたことも一度や二度ではありません。
 毎年夏や冬になると遭難者のニュースがメディアを賑わし、その都度無責任な登山者に対するバッシングがくり返されます。登山に携わっている者として断言します。このような批判は

です。遭難したやつなんか助けなくてよいのです。好きで山に入った人間がその後どうなろうが、なんで世の中が気にしなければならないのですか? 死のうが生きようが本人の責任に決まってるじゃないですか。
 わたしはいままで数々の危険に直面してきました。陽の落ちた雪原を吹雪のなか4時間もさまよったり、ルートミスでバリエーションのクライミングルートに迷い込み、安全器具なしのフリーソロで20メートルの崖を降りたこともあります。そのどちらも助けを呼ぼうとすら思いませんでした。これは自慢ではなく当たり前の話として紹介しているのです。こういう態度こそが自己責任で登山をやるという言葉の意味なのです。要求水準が高すぎると思うのなら、始めから山なんかやらなければよいし、そもそもやる資格もない。
 ダメ押しのダメ押し、遭難をお酒がらみのデートレイプを主張する女性の論調で表現してみましょうか。「俺は好きで山へ登ったけども、山のやつがわかりにくいルートを用意しやがったから遭難しちまった。くそ、全部山が悪い、俺は山に対して慰謝料を請求する!」。読者が少しでも自由の真の意味を理解いただけたのなら幸甚です。

 例によって大幅に脱線したけれども、アルコールという名の麻薬を昨今の娘さんたちはご所望である由。遺伝的な耐性の欠如などおかまいなしに、それは求められる。この流れはもしかしたら強力な性淘汰となって、近いうちにアルコール非耐性男性の遺伝子が駆逐される日がくるかもしれません。

⑻総括
 きりがないのでこのへんでやめておきましょう。おおむね上述した7点が昨今のマッチングアプリ利用女性が求める男性の選好――すなわち性淘汰圧力であるということです。
 総合すると、男性が若い娘に粉をかけたいのなら、

1、邦ロックの最前線を追いかけており、
2、APEXをプレイしており、
3、韓国の音楽、料理などに詳しく、
4、日本2大テーマパークに通暁しており、
5、海外であればどこでも身ひとつで渡れてしまい、
6、オシャレなカフェへどこへなりともはせ参じ、
7、アルコールには滅法強い

という、およそ現実には存在しそうもない特殊能力を持ち合わせていなければならない、という結論になりました。もちろんこれは女性の総意ですから、たったひとりが盛りだくさんの要望を出しているわけではありません(まあそうしたご仁もいますけどね……)。
 思い出していただきたいのは、性淘汰はある小グループのメスが尾っぽが長いほうがいかしてる! と思っただけでクジャクのオスに無用な負担を強いたという逸話。
 上記7大圧力がこのまま普遍化していけば、男性はこの七戒(セブン・コマンドメンツ)を奉じなければ生殖に参加できなくなる可能性がある。男性族の未来はすぐそこで顔を撫でられてもわからないほどに暗い。不吉な予言を残し、本章の締めといたします。
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