シークエンス6「物事は時間が解決する場合もあって」

文字数 8,024文字

 アザミと私は新幹線に乗っている。

 あの後、緊急連絡先から里中の家へエスの居場所を聞くために電話した。場所がわかったらしいアザミは、奥から持ってきたノートパソコンを立ち上げると、件の会社を検索してサイトへ飛んだ。そして、会社概要をクリックして、「ふうん、本社はやっぱり東京なのね」と呟く。次に新しいウィンドウを出し、新幹線の時刻表を調べだした。
「うん。今から家を出れば、間に合うわね」
 そう言うとアザミはセーラー服の上からスカジャンを羽織る。
「んじゃ、真弓。行ってくるわ」
 そう言って、リュックサックの中にいくつか荷物を入れ、担いだ。
「どこへ? まさか、東京? なぜ?」
 私はめんたまが飛び出た。
「うん、今から。アズサはわざわざ東京からあたしに会いに来たみたいでさ。で、今からあいつを追いかけようと思う」
 まるで今から楽しい家族旅行へ行く感じの表情を私に見せる。
「まさか! 一人で行くの?」
 私は驚きのあまり、叫ぶ。
「だって、アズサは東京の本社の近くに住んでいるんだもの。追いかけなきゃ」
 そう言ってアザミは玄関先に出る。
 私はどうしたらいいのか、一瞬悩む。そして意を決して、
「ねえ、私も東京へ行くわ!」
 高らかに宣言した。
「え? どういうこと?」
 アザミの目は点になっている。
「ええ。私も東京へ行く。頼りないかもしれないけど、私もアザミの弟のことが気になるもの」
「そんな! 第一、お金は? あたし、さすがに二人分の新幹線代はないわよ?」
「大丈夫。学校鞄の底にちょっとお金を忍ばせてあるから! お母さんがなんかあったときに使いなさいってね。今が何かあったときよ。だから、私も行く」
 アザミは口元を押さえると、
「何かあっても、知らないからね?」
 と笑った。

 新幹線の自由席に飛び乗り、一組だけ隣どうしがあいている席に座った。
 窓側の席のアザミは外を見ながら、
「ねえ、真弓。ちょっと昔話……っていっても、四年前のことなんだけど、聞いてくれない?」
 窓に映ったアザミの瑠璃の瞳は、窓の外ではなく、遙か遠い過去を見ていた。
「うん。なあに?」
 私は乗る前に買ったボトルのホットココアを握りしめる。
「あたしがどうして絵を画くようになったか、って予想できる?」
 窓を見ながら、軽い感じで私に訊いてきた。私はもちろんわからないと答える。
「あたしたちの本当の両親は割と裕福な家の出身だったらしいんだけど、駆け落ちしたらしくってね。古いわよね、ホント」
 アザミはペットボトルの水を口に含むと、
「それでね、何があったかはよくわからないけど、生まれたてのあたしたちを残して二人とも失踪しちゃってね。で、義理の両親……當山家に引き取られたの。って六歳の時にカミングアウトされたわ」
 とか細い声で話す。
「義理の両親は、今思えば良い親だったわ。ネグレクトの親とか見ていると、ホント良かったと思っているの」
 アザミの目は再び赤くなり始めていた。
「で、本題よ。義理の母から絵を教えてもらってたの。養母さんは言っていたわ。わたしよりもあなたたち姉弟の方が絵が上手いってね。あたしからしたら、養母さんの方が上手だと今でも思っているけどさ」
 アザミはもう一口水を飲むと、窓から視線を外し、私の方を見る。
「でも、その義両親も四年前にお星様になってさ。交通事故。あっという間に死んじゃったわ」
 アザミの声はだんだんと鼻声になっていく。
「どこも双子なんて引き取る酔狂な親戚はいなくてさ。あたしたち姉弟は離れて暮らすようになったの。あたしは、義理の両親の親戚とを転々としたわ。誰もあたしと積極的に関わろうとはしなかったけど。そりゃそうよね。血も繋がっていない赤の他人で気性の荒い女の子ってイヤでしょ? あたしだってイヤだもの」
 自分自身を嘲笑うようになってきたアザミの背中をあたしはそっとさする。
「それでも二年前までは、アズサと頻繁に連絡をとっていたのよ。あいつ、なかなか絵を画かせてもらえないって大泣きしてたわね。でも」
 アザミは完全な鼻声で、
「でも、そう二年前にアズサから一方的に、もう連絡はするなって言われてさ。もう……。祖母ちゃんのところに来るまで、あたしの味方はどこにもいないと思ってた」
 そう静かに吐き出した。
「だから、真弓、ありがとう。あなたがいたおかげで、あたし自分の居場所が見つかったわ」
 と、目は真っ赤にはれ上がっていたが、今までにない一番の笑顔を作った。
 アザミはハンカチで目元を吹いていると、軽やかな音色のチャイムが流れてきた。アナウンスは東京と告げている。
 アザミは深く息を吐き、
「さ、いきましょ」
 と目に浮かぶ涙を手で拭いた。

 エゴ・インクの本社まで行くのに、電車を二本乗り継ぎ、だいたい十五分歩いた。
 何人、何十人もの人々が私たちとすれ違ったが、歩き方といい、持ち物といい、髪型といい、声といい、すべて同じ人物のように思えた。まるで大量生産されたロボットみたいだ。
 ビル風が酷く、いつプリーツスカードがめくれるか不安でいっぱいで、また、私は金魚の糞のようにアザミの後ろをついていくので精一杯だった。ついてきてマズかったかなあ、アザミの迷惑になっていないかなあと後悔し始めていた。
「ついたわ」
 アザミの視線の先を私も見た。
 そこには高い、地元では一切見たことがないぐらい高いビルがあった。見上げすぎて首が痛い。
 そこを真っ黒なスーツを着た同じような男女が忙しなく出入りしている。
 アザミは無言でビルの中に入っていった。私もその後を追う。
 だだっ広い一階には、社員と思われるサラリーマンたちが何人もいたのにも関わらず、セーラー服の私たちを一切いないかのように振る舞っていた。
 アザミは他のOLと少し服装が違うだけの二人の受付嬢に、
「社長とアズサ……エスに会わせて。会わせなさない」
 と今までに見たことのない鬼の形相で睨み付ける。
 一人の受付嬢は、アザミのその表情を無視し、無機質な笑顔で、
「わかりました。少々お待ちください」
 と電話をかけ始めた。その間にも量産されたサラリーマンがうろうろと歩いている。異様で不気味な光景に外気の寒さ以外で背筋を凍る。
 早く上へ上がりたい……手をさすりながら、私は丁度電話を置いた受付嬢を見る。
 受付嬢は、下手なアンドロイドよりも表情が見えない微笑みで、
「奥のエレベーターで最上階にあがってください」
 と冷たく頭を下げた。
 
 エレベーターで、アザミは最上階のボタンを押す。
 ドアは閉まる。もの凄い早さで上に表示されている階数が増えていく。そして私の耳からキーンとした耳鳴りと自分自身の心拍音だけが聞こえる。
 アザミはうつむきながら、口を一文字にしていた。

 軽やかな電子音と共に、エレベーターのドアが開いた。
 目の前には、顔ににかかるほどの赤くパーマのかかった長髪に、瑠璃色のネコ目、色素が薄い肌を持った少年が立っていた。前と違って、ダークスーツを着ている。
「やあ、アザミ」
 少年は何を考えているか分からない笑顔で、手を振る。
 エレベーターを降りたアザミは彼の姿を見た途端、平手打ちをダークスーツの彼に仕掛けた。しかし、頬には当たらなかった。っていうのも、彼はアザミの手を摑んだからだ。
「流石にアザミも予備動作なしでは人は殴れないよね」
「アズサ」
 アザミは少年の手を振り払うと、彼の名前を静かに呼ぶ。
「アザミ。今のボクは『エス』だ」
 アズサは子供に絵本を読ませるような落ち着いた口ぶりで微笑む。
「いいや、あんたはアズサよ。あたしのたった一人の弟のアズサよ! あたしを探しに来たのは、アズサ。本当はあたしに助けを求めていたからなんでしょ!」
 アザミの悲痛な叫びを聞いたアズサは、私たちを蔑むような目で、
「キミがそう思うのなら、そうしておいてよ。とにかく、ボクはもう『アズサ』という名前じゃない。ボクは生まれ変わったんだ」
 と突き飛ばすことを言い切った。
 アズサ……こと、エスは私たちに背を向け、
「さ、父様が呼んでる」
 と振り向いた。

 エスの後ろを追いかけるだけなのに、エスの足取りはかなり速く、ついていくだけで精一杯だった。
 アザミは……あのアザミはなんと息が上がっていた。
 私はエスにバレないように、こっそり、
「アザミ?」
 と耳打ちする。
「大丈夫よ。ちゃんと生きているから」
 全然大丈夫そうに見えないけど、一応安心したフリをした。

「ついたよ」
 エスはそう言うと、「社長室」と書かれた金のプレートがあるドアにノックした。
「どうぞ」
 ドアの向こうからバリトンボイスが聞こえてきた。エスはドアを開ける。
 一瞬宇宙に来たのかと思った。すぐにその正体が一面のガラス越しの夜景と分かったのだけど、ここまで大きいガラスなんてこの世に存在していることに驚かされる。こんなに広いのはなんのためにあるのか、と思うぐらい広い。
 そして、今頃家は私がいないことでひっくり返っていることだろうな、帰ったらどう弁解しようか、そもそも帰りのお金があるかとかを思いを巡らせ、心がキュッと冷たくなる。
 私はそれどころじゃない事に気がつき、慌ててアザミを目で探す。
 アザミは社長席の机の前に立ってた。社長席には細身のさわやかな中年男性が座っている。
「あんたがアズサの今のお父さんで、ここの社長ね?」
 アザミは阿修羅王もびっくりするぐらい怖い形相で睨んでいた。
 ポマードで固めた真っ黒な七三分けに、漆黒の背広を着た細身の男性は立ち上がると、
「ええ。社長はわたしです。このエスは息子ですが?」
 と言って、エスに手招きをする。エスは社長の横につく。
 アザミは一瞬顔を伏せ、ため息をつくと、顔を上げ、
「アズサをエスとしておくわ。で、社長さんにエス。あなたたちは何がしたいの? なりたい自分になった結果、みんな同じになっちゃったじゃない!」
 アザミの声は社長室全体に反響する。
「みんな一緒って素晴らしいことでしょ?」
 エスの笑みで悪寒が走る。
「みんなが一緒ってそんなにいいことなの?」
 アザミは顎に右手を持ってきて、首をかしげる。
「ああ。そうだよ。みんなと同じだったら、差別や偏見はないからね。もちろんいじめもない」
 エスはそう言いながらアザミの真横に来ると、アザミの顔をのぞき込み、目を見開く。アザミはエスを突き飛ばすと、その場から少し離れる。
「社長。そしてエス。じゃあ、もう一つ聞くわ。あなたたちもわたしと同じでレプリケートしていないようだけど、それで幸せなわけ?」
 アザミは人差し指で二人を勢いよく指す。
 社長とエスはお互いの顔を見合わせる。それから、爆笑する。
「な……なにがおかしいのよ?」
 アザミの威勢はちょっと弱まる。
「だって、ボクたちは特別だもの」
 エスは口に手を当てながら言う。
「何がトクベツって言うの?」
 アザミは威勢を取り戻す。
「だって、こんな機械に頼らなくても、自分があるんだもの。確固たる自分がね。正直、こんな機械を頼る人たちなんて、同一化していいんだよ。所詮その程度の人間なんだよ。だから」
 エスは肩をすくませ、
「アザミも、杏村さんだったっけ。キミらも選ばれているんだよ。レプリケートしていないんだから」
 このエスの言葉にアザミは、刃のように鋭い口調で、
「選ばれる筋合いなんてないわ! 言っていることが無茶苦茶よ!」
 と叫ぶ。一方のエスは、
「ぼくからしたら、アザミの方があべこべだよ」
「どういうこと?」
 アザミは食ってかかる。
「ぼくと離れてから、ずっといじめを受けてたんでしょ? 赤い髪、深い青い目、明らかに容姿からして型にはまった日本人じゃあないってことでさ」
 私はアザミを一瞥する。アザミの顔は青白くなっていた。
「アザミだってレプリケートすれば、みんなと同一化できた。あの黒髪が欲しい、あの茶色い目が欲しいってすれば、手に入った。でも、しなかった」
 エスの言葉を社長が続ける。
「そもそも、大人がコンプレックス持っているんだよ、アザミくん。みんな同じじゃないと不安になるというコンプレックスがね。そのコンプレックスの起因となる欠点が自分の子供にも現れたら、自分のことじゃないのに、子供の問題なのに、親が子供のコンプレックスを抱く」
 社長は大きくふかふかの革の椅子に座る。
「そのコンプレックスのせいで親は子供を愛せない。昔は愛せる人も多かったようだけど、今じゃほぼ皆無。それで、だ。愛せる子供を作るには、どうするか。そういうことで、開発したのがこの『レプリケーションES2』なんだよ」
 社長はガラスが割れると思うほどの高笑いをした。
「作って、売ってみたらわかったよ。コンプレックスの原因は自分が特別だということ。つまり、みんな自分がトクベツじゃない事を求めているんだ。いじめとか偏見が起きるのは、その人がトクベツだから。だから、わたしもエスも當山さんも杏村さんも特別なんだよ。だからこその孤独がある」
 社長は見るからに高そうな……ヒノキ製と思われる大きなデスクに肘をつくと、
「でも、この孤独は実にいい。自分は選ばれし人間なワケなのだから」
「選ばれし……?」
 アザミはか細い声を出す。それから、アザミは震えながらも拳を握り、
「だったら、社長。聞くわ。あなたはア……いや。エスのことを、その『特別な』エスのことを愛しているの?」
 勢いを取り戻したアザミはしたり顔で社長に聞く。
「え……っ……」
 エスから笑みが消えた。社長は忍び笑いをすると、当然のように、
「下手な絵を画かなくなってから、いい子になったよ」
 と静かに冷ややかに笑う。
 アザミの顔も真っ青になっていた。
「ちょっと。アズサから絵をとったってわけ?」
 アザミの身体は小刻みに震えている。社長は答える。
「跡取りで男の子を、と思って二年前に引き取ったんだけど、その実、ここまで我が儘だったガキをわたしの子供『エス』として矯正するのは大変だった。いっそレプリケートさせれば良かったと思ったよ」
「ふっざけんな!」
 アザミはデスクを飛び越え、社長に飛びかかった。革の椅子は音を立てて倒れる。アザミは社長にマウントポジションをかけると、胸ぐらを摑み、
「あたしたちにとって、絵は大事な、大事な、コミュニケーションツールなんだよ! それをアズサから奪ったあげく、あいつを思い通りに洗脳して。ふざけないで!」
 アザミの声は枯れ始め、また、涙声になっていた。
「ううむ。今思えば、女の子の方を引き取って、レディとして躾けた方が良かったかな」
 社長はそう言うと、涙で顔がくしゃくしゃのアザミの首を摑む。アザミは苦しそうな顔をする。私は慌ててアザミに駆け寄り、社長とアザミを引き離そうと頑張った。頑張った甲斐があって、二人は無事離れた。しかし、アザミの首には赤い手の痕が残っている。
「アザミ!」
 私はこの声の主、エスを見る。エスもボロボロに泣いていた。
「アザミ。ぼく……ぼく……」
 エスは床に座っているアザミの横にしゃがみ込む。
「アザミ、ごめんなさい……。ごめんなさい……。ぼくは……ぼくは『トクベツ』になれば、父様に愛されると思っていたんだ。でも……でも!」
 アザミはアズサの身体をキツく抱きしめると、
「大丈夫。大丈夫」
 そうアズサにもアザミ自身にも言い聞かせるように呟く。
「ぼくはただ愛されたかっただけなんだ……。ただそれだけのために、ぼくはなんて酷いことを……!」
「大丈夫。大丈夫だから。あたしがいる。あたしがいるわ。一緒にこんなところぶっ潰せばいいのよ」
 アズサはアザミの目を見た。そして再び大泣きした。
 私は立ち上がり、ふと社長はどうしたのかしら、と首を振り、部屋中を見回す。社長はいない。
「あれ? 社長が消えたわ!」
 私は素っ頓狂な裏声を出す。
 次の瞬間、心臓の奥から響く重低音が聞こえてきた。あまりの低い音に気分が悪くなる。「まさか!」
 アズサはアザミの腕の中でうろたえ始めた。
「アズサ、しっかりして。これは何の音?」
 アザミはガタガタと震え始めるアズサの身体をしっかりと支える。
 再び高笑いが聞こえてきた。こんなところで笑えるのは社長しかいない。
「この研究をしていて、本当に良かった!」
 社長の腕には赤いスイッチが握られていた。
「何が起きるっていうの? アズサ、なにか知っているの?」
 アザミはアズサの青ざめた顔を見る。
「時間だ……」
「ん? 時間?」
 アズサの言葉にアザミは鋭くオウム返しする。
「こいつは、時間の研究してたんだ……。いわゆるタイムトラベルの研究だ! 別の時間にいくつもりなんじゃあ……!」
 アズサはそう叫ぶと、社長に飛びかかり、スイッチをとろうとする。
「このクソガキ!」
 社長はスイッチを持つ手を高く上げ、アズサの届かないようにする。
 アズサは一瞬振り返えり、アザミの目を見る。アザミもアズサの目を見た。
 次の瞬間、アザミは遠吠えのごとく叫び、アズサごと社長を押し倒した。
「アザミ!」
 私は驚いて、アザミとアズサに駆け寄る。
 アザミとアズサは息を荒らげながらも、社長のスイッチを持った手を押さえていた。
「真弓! こいつから、スイッチをとって!」
 アザミの切羽詰まった声に押されながらも、私は社長の手から赤いスイッチをとった。
 私がスイッチをとったのを確かめたアザミは、一度深呼吸をすると、立ち上がった。それから涙で顔がボロボロのアズサの手を握り、立たせた。
 アズサはごめん……みんな、ごめんなさい……とただひたすら泣いていた。
「んじゃ、帰ろっか。こんなところにいても仕方がないんだし」
 同じように涙でボロボロのアザミの言葉に、アズサはうん、と頷いた。
 二人の様子を見て、私はほっとした。

 しかし、まだ終わっていなかった。
 社長の高笑いがまた響く。私は振り返る。
「エスに嬢ちゃんふたり! まさか、リモコンがとられるとは思わなかったけど、本体さえ無事だったら、痛いことはないさ!」
 ニンマリと笑った中年男の顔に背筋が凍る。
「今からこの世界は過去に戻る。次は男の子じゃなくて、その女の子を引き取ることにするよ」
 社長は銀色のハコの前に立っていた。社長の狂気に満ちた笑顔に私は恐れおののく。
 今から時間が戻っちゃうの? そんなのってアリなの? 私は、どうしたらいいの?
 私の頭はパニックに陥っていた。でもその一方で妙な冷静さも残ってた。残ってたからっていったって、なにも方法は思いつかないんだけど。
 アザミは息を飲む。ポケットに手を突っ込むと、アズサの肩にそっと触れ、
「ね、アズサ。『レプリケーションES2』って、能力が存在すればどんな能力でも持てるの?」
 アザミの穏やかな顔を見たアズサは、
「ああ、そうだよ。でも、何故それを今?」
 アズサから完全に離れたアザミは、
「あたしたちもタイムスリップさせて!」
 と叫ぶと、「レプリケーションES2」を社長に向けて、光を発射した。

 その刹那、私は白い光に包まれた。前も後ろも上も下も果てしない真っ白。とうとう天国に行っちゃったのかしら? と思ってしまうほどだった。

 ふと気がつくと、私は「さざなみ公園」にいた。
 制服は泥まみれで、目の前には、なんと百合岡と不良三人。
 私の頭は混乱した。
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