梅雨

文字数 592文字

誰もいない教室の窓から、水を欲している朝顔を眺める。
梅雨の晴れ間に運悪く開花した朝顔は、悲壮感に包まれた面持ちでこちらを見つめている。
おそらく管理人の人がつけたであろうエアコンは、室内を青く染めていた。
朝誰よりも早くに登校し、教室の中で吸う空気は普段とは違う匂いがする。
他の人とは違う空気を吸っている、その優越感に浸りながら時間を過ごす。

人が溢れかえり、緊張感と怠惰、そして少しの焦燥がごった返す教室の中では、まるで自動車の排気ガスで汚染されたような空気が充満する。だから私はこうして新鮮な空気を補充しているのだ。

夏が嫌いだ。アインシュタインの言う通り、暑いというだけでこの時間が延々と続くような気がして、耐えられたものじゃない。テンポの早い蝉の鳴き声も、そういった感情を増幅させる。

梅雨が好きだ。多分私は雨と似ているから。誰かに言われたわけではなく、直感的にそう確信している。相似的な部分があるからこそ、その空間に溶け込めるような気がする。
夏になりかけながらも、雨が降り続けるせいで湿度の高い、生ぬるい風が肌に当たるのが心地良い。

まだ新鮮な空気を肺の中に取り込み、大切に吐き出す。数十分という私のアドバンテージは一瞬で過ぎ去り、他の人と同じ空気を吸い始める。
昨日、おとといと降っていた雨の気配すら感じられないような快晴に、嫌気がさす。
少し疎外感を感じた私は、また雨が訪れるのを待つ。
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