ハイリヒトゥームは遂に聞きそびれてしまった

文字数 15,226文字

 1 [猫のハイリヒトゥーム]
 「形式は単なる形式に過ぎなくて、問題はその中に何が入っているかだろ?」
 猫のハイリヒトゥームが、パラディにそう語りかける。彼ら猫たちにとっては容器よりも、その中に入っている餌の方が大切だということが明白だからだ。彼らは本質的な本質主義者なのだ。彼らは基本的に細めた目で静かに本質を見抜いて、見抜いた後も押し黙っている。ハイリヒトゥームは、他の猫より少しだけおしゃべりだから、様々なことをパラディに教えてくれるけれど。
 「死のうとするなんて、愚かなことだよ。死ぬ位なら、寝ていた方が良いじゃないか。なぜわざわざ腹の空くことをするんだ?」
 ハイリヒトゥームは泣きながら手首に傷をつけるパラディに、その小さな頭を擦り付けて質問をする。パラディはわからない。何故自分が死のうとしているのかなんて、パラディにだって答えられないのだ。
 パラディの目から涙が落ちる。雨に濡れた森に生える美しい木の枝先のような、彼女の長い睫毛にぶらさがった涙が。彼女は自分を醜いと思っていて、それ故に他人と距離を置いている。だから彼女は自分の美しさに気付けないままでいる。美しさも醜さも観測者の視点があって、はじめて発生する価値観だから、誰とも関わらない人間には自分の美醜の判別がつかないのだ。
 ハイリヒトゥームは呆れながら、彼女の近くをうろうろとする。
 「君が死んだら僕の餌はどうなるんだい?」

 2 [ミッターナハトのもごもご寝言]
 ハイリヒトゥームの愚痴を、ミッターナハトは面白そうに聞いている。猫は面白い。彼らは時間を点ではなく、俯瞰で見ることが出来る。だから悪あがきもしなければ、死ぬ時には自分が死ぬ時にいるべき場所に向かうのだ。
 「全く彼女には辟易するよ。僕を愛していると撫で回した次の瞬間には、さっさとあの世に行こうとするんだからな。あの世には僕は居なくて、現実の目の前に僕がいるっていうのに、それでもあの世に行きたがるんだからさ」
 「矛盾には美しいものと、そうじゃないものがある。古代の人々には、その差が何かなんてわからないのさ。それにしても昔の地球人には時間管理局員の脅し方やすかし方もわからないのだから、そう責めてやるものではないよ」
 ミッターナハトがくすくすと笑って、ハイリヒトゥームの顎をくすぐると彼は首をぐいいと伸ばして気持ち良さそうに目をつむった。
 ミスター・『口調がメガネ』に飼われていた猫のアデオダトゥス一世が、尻尾をぴんと立てて時間と空間の隙間の細い道をすいすいと歩いてくる。みんながミッターナハトの近くに来るのは、彼を抱いているのが夏だからだ。夏の中には獲物が沢山いて、食うに困らない。逆にみんなが苦手なのは真冬だ。真冬は寒いし、獲物もいない。真冬は擬似的な死だ。静けさの象徴、愚かな人々に余計な蓄えをさせる遠因のひとつだ。
 猫たちが口々に真冬の悪口を言う時に、ミッターナハトはげらげらと笑う。獣はしょせん獣だな、と。
 「そんなに彼女の悪口を言うなよ。彼女がいるから夏もいてくれるのだからさ。疑似的な死とは言え、本当に死ぬわけじゃあるまい。猫も人も、春にも夏にも秋にも冬にも死ぬし、そして同じようにどの季節にも生まれて来て生き延びるんだ」
 そう言うミッターナハトの言葉を聞いたアデオダトゥス一世が、ごろごろと喉を鳴らして夏にもたれかかりながら彼に厭味を言う。
 「未来の宇宙人たるミッターナハト様は、何もかもわかっているってわけだ」
 ミッターナハトはそんな安い挑発には乗らず、アデオダトゥス一世のブラックジョークにげらげらと笑った。
 「僕の崇拝するブルーノムナーリ氏はこう言った。『今日、我々は過渡期にある(ところで、過渡期ではない時ってあったっけ)』と。僕もこの言葉に賛同するね」
 夏がミッターナハトの身体を、ゆらゆらと揺らす。
 いつだって過渡期なのだ。いつだって新しくなっていく。変わらないものなど無い。何ひとつとしてない。だからそんなに恐れなくていいんだ、僕たちは変わっていくのだから。
 そんなミッターナハトのもごもご寝言を、黙って聞いていたのは夏だけだった。ハイリヒトゥームもアデオダトゥス一世も、ふわふわとした睡気に誘われて意識と象形の世界へと既に旅立ってしまっていたから。

 3 [恐怖症と曲線]
 「もし、食べ物もなくなって、死ぬしかないってなったらどうする?」
 小さくてまるっこい、可愛い車の助手席から気弱そうな男の子が、隣の女の子に向かって質問をする。
 パラディは猫のハイリヒトゥーム探しの旅に出ていた。ハイリヒトゥームがいなくなってしまってから、ひとつきほどが経っていた。当初パラディは彼の名前を呼びながら近所を捜索したが、彼は出て来てはくれなかった。だから彼女はハイリヒトゥームがよく話してくれていた、ミッターナハトと夏の居場所を求めて旅に出たのだった。もしかしたらハイリヒトゥームはそこにいるのかもしれない、といった希望をボストンバッグに詰めて。
 車を運転しているカリカリに痩せた女の子が「莫迦らしいことを聞かないで」と冷たく言い放った。
 「死ぬしかないってなったらどうする? って、それ選択肢ないじゃない。死ぬしかないのに、どうやって生きるのよ」
 「それでも食べ物を探したりして、足掻く? ってこと」
 男の子が、女の子の揚げ足取りに小さな声で反論する。
 「食べ物を探す体力や余地があるなら、死ぬしかなくないわ」
 パラディが自分の住む街から何時間もバスに乗って辿り着いた、名前も知らない街の片隅で地図を前に呆然としていると、彼女たちの車が止まってパラディに声をかけてきたのだ。
 「あんた、どこにいくの?」
 パラディは首をぶんぶんと振って、「一人でいけますから」と相手がまだ申し出てもいない申し出を大急ぎで断った。すると彼女がその痩せた指で、パラディの地図を指差した。
 「あんたの見てるそれ、世界地図だけど」
 そういうわけで、パラディは彼らの車に大人しく乗せてもらうことにしたのだった。
 「あたしはウール。こっちはニット。よろしく」
 パラディも自己紹介をし、ウールが頷いた。ニットは「パラディ」と小さく呟いた。
 「私、猫を探しているの。ハイリヒトゥームって名前で、鍵尻尾で目つきの悪い白猫なんだけど……あなたたちの目的地は?」
 「目的地なんてないわ。あたしもニットも、居場所がないから移動しているだけ。お化けみたいなものなのよ。どこにも存在出来ないから、どこにでも存在しちゃう。排気ガスを撒き散らして、ありとあらゆるところに存在し続けているだけ」
 だから猫探しに付き合ってあげられるよ、とニットが小さい声で言った。
 「探すったって、世界中探す氣じゃないわよね?」とウールには手元の世界地図を指差されながら、釘もついでに刺されたが。
 「ミッターナハトと夏の居場所を探しているの。そこにハイリヒトゥームがいるかも知れないから」
 パラディがそう言うと、ニットは「ミッターナハト」とまた小さい声で呟いた。ウールは、そんな奴知らない、と言った。
 ニットが煙草に火をつけて、じりじりと草が燃える音と燻された畳のような匂いがしてくる。パラディの喉は少しだけいがいがしたが、それはあまり嫌いな匂いではなかった。

 4 [ブラックホール放射の理論には二十九年かかったよ]
 「マルチェロを見ませんでしたか?」
 彼女はそう言った。私はマルチェロなんて人物は知らないし、それ故に見かけたとしてもどれがマルチェロ氏なのかを判別できない、と言った。彼女は「そうですか、困ったわ」と言って自分の右掌を右の頬に当てた。
 「マルチェロ氏はいつ、どこでいなくなられたんですか?」
 私がそう訊ねると、彼女は奇妙なことを言った。
 「私のプレゼントしたセーターの縫い目に落っこちて、それ以来、私は彼と逢えていないんです」
 「セーターの縫い目に落っこちた男ですって! そんな話は、全く聞いたことがない!」
 彼女は項垂れて、がっくりと肩を落として何処かへ去っていった。

 ノバス・セスジの著作、『小さなポーチやトートバッグの使い道など、当時の私は知らなかった』の中の一節を、ニットは小さな声でウールとパラディに読み上げてくれた。
 「そのへんてこな話が一体なんだっていうの?」
 ウールがニットに聞くと、ニットは「マルチェロ」と小さな声で反復してから、ウールとパラディに自分の思いの説明をした。
 「彼女はこの後、マルチェロとは再会出来るのかな? セーターの縫い目は世界に繫がっているんだと思う? それとも、この世界がセーターの縫い目の中にあるんだと思う?」
 「あんたの言っていること、ちっともわかんないわ」
 ウールがそうばっさり切り捨てると、ウールは背中を丸めて煙草から中毒性の高い煙を吸い込んだ。
 「でも、なんだかよくわかんないことって沢山あるし、私にはなんだか少しはわかる氣がする」
 パラディはフォローしたつもりだったが、ウールは苦笑いをするだけだった。しかしニットが小さな声で「ありがとう」と言ってくれたので、パラディはそれでよしとすることにした。
 同じ本を、時間管理局のトウ―ジュール局長も読んでいた。彼は時間というものの額縁の外で読んでいたので、それがウールたちのいる時点と較べて、どのくらい過去なのか未来なのかは誰にもわからなかったが。
 彼は局員のクアルケ・ジョルノから、報告を受けたのだった。ノバス・セスジが時間整列法を犯している可能性があり、これらの本がその証拠であると。
 ノバス・セスジは祖父の代からミッターナハトと昵懇の仲であり、ミッターナハトが時間管理局員を唆して様々な時代や空間に同時に存在していることは最早尻尾が掴めている。
 だから、ノバス・セスジがミッターナハトの協力を得て、時空旅行、もしくは頭の固い学者たちの思い込みや先入観が生み出した世界の殻から飛び出した可能性は大いにあるとトウ―ジュール局長は睨んでいる。なにしろ彼は当時の人間にしては、生きた時間に対して書いたとされている本の数があまりに多すぎるからだ。
 ミッターナハトは夏の腕の中にいて、検挙や手出しが出来ない状況にある。なぜなら夏は太陽や恋と縁が深いからで、太陽や恋は時間管理局にも、管理局員たちの生活にも深く関係しているのだ。
 しかし、ノバス・セスジを検挙することが出来れば、彼を囮にしてもしかしたら慌てたミッターナハトを夏から引き離す事が出来るかもしれない。
 「このマルチェロという男と、それを探していた女は見つけられたのか?」
 トウ―ジュール局長が言うと、クアルケ・ジョルノは敬礼をして、現在までの調査報告を滑らかに口にした。その口調はあまりに滑らかで、冷たい冷蔵庫で固められたゼラチンのお菓子のようにとっかかりがなかった為、局長には気に入られなかったけれど。とっかかりのないヒントや情報など、何の役に立つというんだ? というのがいつものトウジュール局長の言い分だった。
 「マルチェロという男の足取りは未だ掴めていませんが、マルチェロを探していた女と接触された、ミスター・ホーキング博士をお連れしました」
 トウ―ジュールの前に、ミスター・ホーキングが連れてこられる。彼の手には手綱が引かれていて、その先には宇宙という名の犬が大きく開けたその口からダークマターをだらだらと垂らして、クアルケ・ジョルノを美味しそうに見つめている。クアルケは少しだけ身体を引いて、無表情な視線の奥に一抹の恐怖を覗かせた。いつかのどこかで手酷く噛まれて以来、彼は犬が苦手なのだ。それがいつのどこだったかは、時間管理局の事務室へ言って然るべき手続きをとれば、はっきりとするだろう。だが、今は物語にあまり関係がないので、割愛させていただこう。
 「博士、お忙しいところ大変恐縮です。マルチェロという男を探している女について、ご存知とのことで」
 ホーキング博士はじっくりと考えて、それから珈琲を一杯だけ所望した。それから宇宙が飲む為の常温の水も。
 「博士、何でもいいのです。何かお話しいただけませんかね?」
 トウジュールが少し苛々しながら、訊ねるとミスター・ホーキングはにっこりと笑った。
 「行き詰った時に怒ることはいいことではない。私はその問題を考えながら、ほかのことに取り組むよ。正解が導き出されるまで何年もかかる場合もあるけどね。ブラックホール放射の理論には二十九年かかったよ」
 凡人トウジュールが溜め息をつくのと、天才の飼い犬がクアルケのお尻を楽しげに齧ったのはほぼ同時だった。

 5 [大気圏で燃え尽きてジ・エンド]
  クアルケ・ジョルノの尻に宇宙の壮大なる歯形がついた事実を知った時の、ミッターナハトの大笑いときたら! 親愛なる読者諸君にも、文章ではなく映像で実際に見せてあげたかった位だ。
 「よし。今度は夏の向日葵を何本か貰って、すり潰して発酵させて犬に噛まれた時の特効薬を作ってあげよう。そしてそれをあげると言ったら、堅物のクアルケ・ジョルノ時間管理局不正時空使用捜査一課課長殿は、一体どんな楽しい時代を垣間みさせてくれることだろうか?」
 ミッターナハトの大きな独り言で目を覚ましたハイリヒトゥームは、億劫そうに片目だけを開けて欠伸をした。
 「この世界にそこまでして見るべきものなんて、あるのかね」
 「君たち猫みたいに、一生のほとんどを寝るか食うかして過ごす生き物にはわからないのだよ。僕らは時間を俯瞰では見られないしね。なんなら君の飼い主が、君がこうして家出している間に何をしているか、覗いてやろうか」
 ハイリヒトゥームはその鍵尻尾をぱたぱたと揺らして、そんなものは必要ないと彼に意思表示をした。
 夏の空は、炭酸水のように気泡が沢山浮かんでいて、水彩画のようにうっすらぼやけている。その空を夏の胸越しにハイリヒトゥームはじいっと見つめる。そこにパラディの乗っていた小さくて可愛いまるっこい車が見え始めたのだ。
 車は今ではとある家の前に駐車されていた。そこはウールとニットの友人の家で、彼は『会話の苦手なディリ』と呼ばれていた。ディリの家の前について、ウールは車を止めて、パラディを振り向いた。
 「ディリなら何か知っているかも。あの人、沢山のことを知っているから」
 彼女の身につけている子供の心と黒いプリーツスカートを、パラディはとても可愛いと思う。そう思ってじっと見つめていると、ニットが「ウールのスカートと子供の心、可愛いでしょう。ドライブの時はいつも身につけてくれるんだ」と小さな声で誇らしげに言った。そしてその一言もパラディはとても気に入った。
 ディリは快活に笑う、歯の白い中背の男の人だった。『会話の苦手なディリ』と言われているから、パラディはもっと奥手そうな、ニットのような男性を想像していたのだけれど。
 彼はイリスという美しい女性と、一緒に暮らしていた。イリスは細身のジーンズと、彼女が笑う度にさらさらと揺れるショートカットを従えた、それはそれは美しい女性だった。
 「彼女と一緒の時だけ、ディリはお酒を飲まないんだ」とニットが耳打ちして教えてくれた。
 「さて、今日はどうしたのかな」
 ウールがパラディの名前と彼女の猫のハイリヒトゥームの失踪、そしてそれに関与しているであろうミッターナハトと夏の居場所を探していることを簡潔にディリに伝えた。
 ディリは少しの間、口許に人差し指を当てて考えていたけれど、「ミッターナハト……」と呟いて奥の部屋へ消えた。彼が消えるのと入れ替わりで、イリスが人数分のお茶とお茶菓子を持ってリビングへ入って来た。
 イリスとパラディ一行が談笑していると、奥の部屋から黒縁眼鏡をかけたディリが何冊かの本を脇に挟み、一冊の分厚い本の頁を捲りながら出て来た。
 「これはノバス・セスジという人の書いた本なのだけれど、この中に確かミッターナハトという未来から来た宇宙人の話が載っていたと思うんだ……僕は、すっかりセスジ氏の創作だと思っていたんだけれどね」
 その本の背表紙には、金色の文字で『透明ワニと歌わない鍵盤』というタイトルが書いてある。
 「セスジ氏には、マゲル・セスジという祖父がいて、その祖父が死の直前に口にしたのがミッターナハトという名前だったと思うんだ。ああ、此処かな。『「あ、それからな、言い忘れたが、遺産はほとんど慈善団体に寄付したし、お前達には家だけ残してあるぞ。ノバスにはわしの蔵書とノートをあげよう。これが鍵だ。それからミッターナハトによろしく。がくり」
 マゲルは言い忘れたことを言いに蘇生し、全てを言ってから大袈裟に死んだ』だって」
 「そのミッターナハトは何処にいるの!」
 パラディが大きな声を出すと、ディリは目を丸くして慌てた。彼は大きな声に慣れていないようだった。
 「え、と、ミッターナハトの居場所に関しては…、ああこの本に書いてあった筈だ。『ポラリスは積乱雲の中に突入していく』。これだね。ここには『宇宙の内側にある宇宙の外側にミッターナハトは住んでいる。真の宇宙の外側には、何ひとつ存在しない。存在というもの自体が宇宙であり、宇宙は存在そのものであるからだ』と書いてあるね」
 「宇宙の内側にある宇宙の外側? 意味わかんない」
 ウールが不機嫌そうにそう言うと、ディリは「これは飽くまでフィクションとして発表された本だからね」と言って、苦笑いをした。ニットが煙草に火をつける。イリスはその全ての様子を楽しげに見つめている。
 ディリは奥の部屋から地球儀を持って来て、みんなの座っている机の上にどんと置く。そしてそれをくるくると廻して、彼らの視点に世界旅行をさせた。自分たちがその中のミクロの点だと仮定すると、パラディにとって世界は途方に暮れそうなほどに広かった。
 「地球でこんなに広いんじゃ、宇宙なんて探せっこない」
 パラディが泣きそうな声で言うと、「まして私たちのおんぼろ車じゃ探すどころか、大気圏で燃え尽きてジ・エンドね」とウールが追い打ちをかけた。
 静まり返る部屋の中で、ニットが煙草の煙をふうと吹き上げて、にこにこと笑った。
 「でも、探し始めなきゃ見つからないよ。真実も、生き方も、猫も、未来人もさ。所詮は、猫の足で行ける場所なんだろうしね」
 ニットのその言葉を合図にして、ウールとパラディは立ちあがった。そうだ。こんなところで泣いている場合じゃない。私は探しにいくと決めたのだ。
 どんなに小さな一歩でも、立ち止まって泣いているよりはマシな筈だ。
 
 6 [神は見えないところに、さいころを投げる]
 クアルケ・ジョルノは忌々しげに、自分の尻を撫でている。あのいかれた博士の飼い犬に噛まれた箇所が、座る度にずきずきと痛むのだ。
 それもこれも、憎きミッターナハトとノバス・セスジの所為なのだ。結局、あの博士からは有益な情報は引き出せなかった。わけのわからないことばかりをにこにこと話して、「珈琲をご馳走様」と言って帰っていった。そして彼は帰り際に、クアルケとトウジュールを振り向いてこう言ったのだった。
 「アインシュタインが『神はさいころを振らない』と言ったとき、彼は二重に間違っていた。神はさいころを振るどころか、見えないところに投げて我々を混乱させることまでする」
 神の振ったさいころは、何処に転がって、どんな目が出ているというのだろう? なぜ私は犬どもに二度も三度も噛まれなければいけないのだ?
 クアルケ・ジョルノは時間警察の警官二人と、ある時代の地球に来ていた。
 兎に角、ノバス・セスジはミッターナハトとの接触も、マルチェロを探している女との接触も文章に残している。それを証拠として、先に彼を検挙してしまえばいいのだ。少々手荒いやり方にはなるが、仕方あるまい。
 あの博士先生曰く、神は見えないところに、さいころを投げるのだそうだからな。人間には運命は操作できないのだ。
 彼はノバス・セスジの家のチャイムを鳴らす。中から出て来たのは、酷く痩せた女と煙草を吸う気弱そうな男、そして手首に傷のある何かを探している目つきの女の三人組だった。
 「なんだお前ら。ノバス・セスジはどこだ」
 クアルケ・ジョルノがそう言うと、痩せた女が不機嫌そうに言った。
 「あんたらこそ何よ。人に訊ねる前にまず自分から言いな」
 「私は、クアルケ・ジョルノ。ノバス・セスジに用がある」
 「あら、そう。あたしはウール。あたしらもその、なんとかって作家先生に聞きたいことがあんのよ」
 「何をわけのわからないことを。貴様ら、まさか逃亡幇助するつもりか?」
 クアルケ・ジョルノが合図をすると、警官二人がウールを押しのけて部屋の中に土足で立ち入った。ニットが倒れるウールを支えて、大丈夫? と聞く。ウールは怒りで顔を真っ赤にしている。
 「駄目ですね、いません。逃亡した後のようです」
 そう警官に報告されたクアルケはウールとニットに向かって、怒鳴り声をあげる。
 「貴様らぁ! ノバス・セスジを何処にやった!」
 「あたしたちが聞きたい位よ! 聞きたいことがあって、此処まできたのに、家はもぬけの殻、挙げ句にあんたみたいな乱暴者までやってきてさ」
 クアルケがウールとニットに詰め寄って、彼女の胸ぐらを掴もうとした瞬間に、バチン! という大きな音と衝撃が彼の下腹部に走った。
 「乱暴しないで」
 パラディがノバス・セスジの書いた分厚い本で、クアルケの尻を思い切り叩いたのだ。本来であれば、女性に本で叩かれた位では怯まないクアルケ・ジョルノであったが、天才の飼い犬のお陰で今は少し事情が違った。
 彼はあまりの痛さに金切り声をあげて、自分の尻を抑えて部屋から飛び出した。あまりのスピードに足下が楕円形の車輪に見えた者までいたほどだ。
 警官二人も、クアルケを追いかけて出て行った。
 部屋の中には静寂が戻り、そうしてまたすぐに騒がしさが戻って来た。次にやってきた騒音は、激しい笑い声だった。
 息が出来ないほどに笑う若い美男子と、その後ろからうんざりした顔の老人が出て来たのだ。
 「はははは! 見たかい、あのクアルケの走り方を! お嬢さん、あなたは最高だ、最高に愉快な人だよ……」
 「あんた、だれ?」
 ウールが二人を訝しげに睨む。また乱暴されたのではたまらない。
 「ああ、これは、失礼。ははは。いやあ、実に面白い。僕はミッターナハト。そしてこちらにいらっしゃるのが、ノバス・セスジ先生さ」
 ウールの叫び声と、パラディがハイリヒトゥームの居場所を聞くのと、ニットがノバス・セスジにサインを求める声がぴったりと重なった。ミッターナハトはそれを聞いてから、笑い過ぎによって彼の美しい睫毛の先で揺れていた涙の粒を、そっと指で拭って微笑んだ。
 「面白いものを見せてくれたお礼に、君たちの希望を叶えよう」

 7 [早死にロンジェヴィタ]
 そこは不思議な場所だった。何かをしたいという気持ちと睡気の間で揺れる日曜日の朝や、人生を変えてくれそうな本のクリーム色の行間によく似ていた。なんでもあるけれど、何もなかった。
 ついておいでよ、と言うミッターナハトの後について、ノバス・セスジの机の引き出しからパラディ一行は此処へ来たのだった。
 「本当に引き出しから繫がっていたんだ! 先生の書いていらしたことは本当だったんですね!」
 ニットが目を輝かせてノバス・セスジに言うと、「全く迷惑な話だがね」と稀代の皮肉屋でもある伝説の作家はそう掃き捨てるように言った。
 ミッターナハトは嬉しそうに振り向いて、眩しげに目を細めてノバス・セスジを見た。
 「どうしたんだ、パラディ! こんなところにきて!」
 一行が顔を前に向けると、前から鍵尻尾の白猫がてててと歩いてくる。パラディはハイリヒトゥーム! と叫んで、白猫を抱き上げた。それから涙と鼻水と恨み言を彼の美しい毛皮にしきりになすりつけはじめた。
 「どうしていなくなったの、なんで私をひとりにしたの、私さみしくてどうしたらいいかわからなくて、ウールとニットがいなければ辿り着けなかったわ」
 ハイリヒトゥームは長いヒゲをふよふよと動かして、ごめんごめん、と言った後にウールとニットをその青い瞳で見つめた。
 「あなたたちがウールとニットか。パラディと一緒に旅をしてくれてありがとう。僕はとてもあなたたちに感謝してるんだよ」
 「ふん。魚臭い口で一丁前に感謝なんてしてないで、パラディの涙を止めることに従事しなさいよ」と、ウール。
 「僕はノバス・セスジ先生に会えたから、良いんだ!」とニット。
 感動の再会だね、感動の再会だ、と言ってミッターナハトがげらげらと腹を抱えて笑う。そこへ、随分とくたびれた顔の背中の丸まった男がやってきた。男は青い制服をくしゃくしゃと着て、途中まで地面を見ていたが、ミッターナハトの笑い声に顔をあげた。
 「あれ? 帰って来たんですか、ミッターナハト? あのね、いい加減に……、ええ! だ、誰ですか! その人たちは!」
 男は狼狽し、慌てふためき、恐れ戦き、顔色が赤くなり、それから青に変わり、最後は真っ白になったと思うとその場にひれ伏してわんわんと泣き始めた。
 「だめだぁ、もう終わりだぁ! 僕は長針と短針で串刺しにされて、時計のゼンマイの間ですり潰される運命なんだぁ! 早死にだ! 早死になんだ!」
 「なにこのひと? なんで泣いてんの?」
 ウールの質問に、ミッターナハトが答える。
 「彼は時間管理局局員のロンジェヴィタ。確か綴りは(longevità)だったかな? さきほど、君たちに撃退されたクアルケ・ジョルノの部下さ。口癖は『僕は早死になんだ』。僕は彼に賄賂を渡して、時空旅行をしている。そしてこんな時空の狭間に、あの時代の地球人が何人も這入り込むなんて、クアルケたちにバレたら彼は懲戒免職を通り越して死刑ものなのさ」
 会話の内容と裏腹なミッターナハトの軽卒な口調に、ロンジェヴィタは涙と鼻水でびしょ濡れの顔を恨みがましく持ち上げて、彼ら一行を睨みつけた。三回転宙返りをした三日月のような目で。
 「ロンジェヴィタ? だっけ? こんな莫迦につきまとわれてあんたも大変かもしれないけど、そんな悲観するものじゃないわよ。人生は前向きに生きなきゃ。あたしはウール。で、こいつがニットよ。ニットなんて母親から酷い虐待受けまくってさ、それでもこんなへらへら生きてんだから」
 「何を暢気なことを……。誰の所為で僕が死ぬことになると思っ……、え? ちょ、ちょっとまってください。さっき、お名前はなんて言いました?」
 また酷く狼狽するロンジェヴィタに、「あんたって忙しいわね」と呆れながらウールは自分の名前を告げた。するとロンジェヴィタは、ひっ、と小さな声をあげて後ずさった。何か恐ろしいことでも、聞いたみたいに。
 「ウ、ウールって、え、もしかして」
 そう、そのもしかしてさ、とその言葉を継いだのはミッターナハトだった。そして彼はロンジェヴィタに意地悪な耳打ちをした。彼が囁いた魔法の呪文は、ロンジェヴィタのエンジンをひっぱたいて彼に急発進を勧めた。ここにいてはいけない、早死にする前にとっとと逃げろと。
 金切り声をあげて走り去るロンジェヴィタを見て、げらげらと笑うミッターナハトにウールが訊ねた。
 「あんた何言ったのよ。あの人、すっかり怯えてたじゃない。可哀想に。それとも時間管理局員って、みんなが金切り声をあげて走り回るもんなの?」
 ミッターナハトはげらげらと更に大笑いをして、息が出来ない苦しみを味わいながら妖精を生み出し続けた。古典によると赤ん坊が初めて笑う時に、妖精は生まれるのだという。それは全くの正解であり、ミッターナハトはある意味では赤ん坊であり、そして全ての笑いはある意味に於いては、全てが初めての笑いと言えた。
 「ははは……はぁ、苦しい! 僕はね、彼にこう言ったんだ。『彼女の名前の綴りは、(heure)でウールと読むんだよ』ってね」
 意味わかんない、とウールは言ったが、ノバス・セスジだけは「全く悪趣味な奴だ」とミッターナハトを非難した。
 「ははは、兎に角、邪魔者は去った! これでようやく君たちとゆっくり話が出来るね」
 ミッターナハトが笑うと、ハイリヒトゥームはパラディの手から降りて、ふぅ、と一度だけ息を吐いた。

 8 [大きなお世話だよ、先生]
 ナンセンスな読み物を読み進めた先に、金言があったりするように、歩き続けた先にだけ見える光景がある。
 ハイリヒトゥームは、その小さな頭をごりごりとパラディの足に擦り付けた。
 「僕がいつだったか、形式は単なる形式に過ぎなくて、問題はその中に何が入っているかだって言ったのを、覚えてる?」
 パラディは頷く。
 「パラディはいつも、生きる意味や理由を探してたね。それが見つからないから、死んでも良いんだって。だから僕は旅に出たんだ。パラディの人生にパッケージを作り出す為に」
 そんなものは、やっぱり無意味なんだけどさ、とハイリヒトゥームは自虐的に笑った。長い髭をゆらゆらと揺らして。
 「パッケージ?」
 「そう、僕を探すっていう旅の形式、人生の仮の目的だ。僕を見つけて、パラディはその形式の蓋をあける。さぁ、そこには何が入っていたかな? 後ろを振り向いてごらん」
 彼女が振り向くと、そこにはウールとニットが立っている。ウールは不機嫌そうに、ニットははにかんで。
 「形式は飽くまで形式で、目的は所詮は目的だ。物事は最後になって蓋をあけた時にやっと、何が入っていたのかがわかる仕組みなんだよ」
 ハイリヒトゥームが鍵尻尾を揺らして話す。パラディがしゃがんで、彼女の手はハイリヒトゥームの細い背中をすいすいと撫でる。まるで白い波の上を泳ぐ、肌色の魚のように。
 「生涯、マルチェロって男を探し続けた女もいた。その女が見つけたのは、硝子玉の思い出だった」
 ノバス・セスジが懐かしそうに呟いた。「人生は小説より奇なり、だね、先生様」とミッターナハトが茶化す。ノバス・セスジはミッターナハトを睨んだが、ハイリヒトゥームはその言葉に頷いた。
 「そう。小説より奇妙な現実の結末は、誰にもわからないのさ。時間を俯瞰で見たりしない限りね。神様は君たち人間に、人生という最高の物語を楽しんでもらう為に、ネタバレ機能を最初から取っ払ったというわけだ」
 だから、パラディ。ハイリヒトゥームは話しながら、彼女の膝の上に飛び乗った。
 「物語の途中で本を閉じたりしては駄目だよ。旅の途中で車を降りることもね。物語には時には苦しい場面があり、旅には退屈な一本道もあるだろうけど。冬があるから、夏があるんだ。な、ミッターナハト」
 ハイリヒトゥームのウインクを受けて、ミッターナハトはおおいに満足そうに微笑んだ。
 「そうだ。『今日、我々は過渡期にある(ところで、過渡期ではない時ってあったっけ)』だ!」
 パラディの目から涙が零れ落ちる。それは再会の時のように溢れ出たりしなかったが、どの時よりもハイリヒトゥームの毛皮をしっとりと濡らした。そこにもし、ロンジェヴィタやトウジュール局長やクアルケ・ジョルノがいたとしても、宇宙の様々な時空や時間の中でも、かなり上位に来る悲しみの深いシーンだったと認めたことだろう。
 猫は俯瞰で時間を見る。そうして死ぬ時には自分が死ぬ時にいるべき場所に向かうのだ。
 「ウールとニットに、ひとつ、質問をしてもいいかい」
 ハイリヒトゥームは痩せた身体から絞り出した、小さな声でそう聞く。ウールとニットは頷いた。
 「パラディは、醜いかな?」
 二人はぶんぶんと首を振った。
 「とても綺麗な子よ。可愛らしい子。素敵だと思うわ」
 「僕はそういうのには疎いけど……、僕の基準からすれば魅力的だと思うな」
 ハイリヒトゥームがにっこりと微笑んで、パラディの膝から降りた。鍵尻尾をふりふりと揺らして、夏の足下へと歩を進める。彼の足下がふらふらと定まらないことに、ウールとニットはそこで初めて気がついた。
 「もう僕の餌の心配はいらないけど、死のうとしたりするんじゃないよ。途中で物語を閉じたら、蓋は開けられず終いで終わってしまうからね。最後まで生きて、人生の中にしまわれている贈り物を手にするんだよ。君が僕を愛してくれたように、僕も君を愛しているんだということを忘れないで」
 夏の足下でアデオダトゥス一世が、ハイリヒトゥームのことを待っている。
 「ウールとニット。向こうに戻ったら猫を一匹、パラディにプレゼントしてあげてくれないかな」
 「わかった、ハイリヒトゥーム。約束するよ」
 アデオダトゥス一世とハイリヒトゥームが、眩い光の中に吸い込まれていく。彼の鍵尻尾がゆらゆらと、さようならを言うように揺れて、そうしてふわりと消えた。
 ミッターナハトは笑わなかった。そして泣きもしなかった。
 「僕の崇拝するブルーノムナーリはこうも言った。『地球のこちらがわで、夕やけがきれいだなとおもっていると、むこうがわでは、ああ、すばらしい日の出だとおもって、だれかが空をみている』と」
 「君にしては珍しく氣の利いた引用だな、ミッターナハト」
 ノバス・セスジの皮肉に、パラディが笑って、それからウールとニットも笑った。ミッターナハトも困ったように、照れくさそうに笑った。
 「さて、皮肉屋の作家先生を、ご自宅までお送りすることにしよう。クアルケを撃退したお嬢さんもね……、君たち二人はどうする? 向こうに居場所がないなら、此処にいてもいいけど。『居場所がないから、排気ガスを撒き散らして、ありとあらゆるところに存在し続けているだけ』だっけ?」
 ウールとニットは顔を見合わせたが、やがて同時に首を振った。
 「有り難いお誘いだけど、帰るわ。向こうにはディリとイリスもいるし、なによりパラディもいるしね」
 「僕たちも僕たちの人生の蓋を、開けてみなきゃいけないし」
 それを聞いたミッターナハトはげらげらと大笑いをした。
 「いいなあ、古代の地球人ってやつは。猫なんかに諭されて、前向きになってしまうんだから。単純で羨ましいよ」
 むっとするウールとニットの後ろから、ノバス・セスジがミッターナハトに訊ねた。
 「君の人生の中には、何が入っているんだろうな? 我々のことばかり観察していないで、自分の人生を生き抜いて蓋を開けてみたいと思わないのかい?」
 ミッターナハトは珍しくシリアスな表情になってノバス・セスジを見つめて、けれどまたすぐににこにこ笑いを取り戻した。
 「大きなお世話だよ、先生。その言葉はそっくりそのまま、お返しする」
 こうして、一行は宇宙の内側にある宇宙の外側から、ノバス・セスジの書斎へと戻ったのだった。
 
 9 [どの憎まれ口のことか、憎まれ口を叩き過ぎて特定出来そうもない]
 そしてまた、夏の抱擁の中。
 うとうととしているアデオダトゥス一世が、片目をあけて世界を見ている。ハイリヒトゥームがミッターナハトに話しかける。
 「君はまたあんな憎まれ口を叩いて。素直じゃないんだな」
 「何がだい? どの憎まれ口のことか、憎まれ口を叩き過ぎて特定出来そうもないよ」
 ハイリヒトゥームはふっと笑って、そのなだらかな首をふわふわの手の上に乗せた。彼の背中の美しい曲線は、今では夏の蜃気楼の向こうに見える白く美しい山々の尾根として、地球人には認識されている。
 ハイリヒトゥームの鼻先では、ディリとイリスの家で、ウールとニットと一緒に食事を楽しむパラディの笑顔が見えるし、彼の鍵尻尾の先端では、ウールもニットもパラディもディリもイリスもノバス・セスジもとっくに土に還った後の世界が広がっている。
 夏の足下で、ロンジェヴィタが困り果てて、また文句を言っている。
 「ミッターナハト! 今度こそ僕は処刑される! 君の所為で僕は早死にするんだ! まさしく僕は早死になんだ!」
 ミッターナハトはその光景を、愛おしく思う。
 「あいつは自分の名前の意味を、検索でもしてみたらいいのになぁ」
 ミッターナハトの冗談に、ハイリヒトゥームが笑う。
 「君が死んだら僕の餌はどうなるんだい?」
 猫にまでからかわれたロンジェヴィタが、顔を真っ赤にして叫び返す。
 「君の餌なんて知るものか! 僕の仕事は時間の管理なんだ! 時間はきちんと順序良く並べなければ。情報は順番通りに開示されるからこそ、意味があるんだから!」
 パラディはあれから、その人生の蓋を開けるまで、一度も手首に傷をつけることはなかった。
 「良かったなぁ」
 ミッターナハトが、笑いながらハイリヒトゥームに言った。
 それが彼女がもう二度と死のうとしなかったことに対してなのか、それとも彼女の人生の中に思いがけないほど沢山の贈り物があったことを彼女が最後に発見出来たことに関してなのか、ハイリヒトゥームは遂に聞きそびれてしまった。
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