05
文字数 1,857文字
はじめて倒れたのは中学の終わりの頃だった。
生まれて初めて乗った救急車の記憶はない。
覚えてるのは病院で目覚めたとき真っ青になった親の顔ぐらいだ。
とりあえず医者から告知はされているが、漢字ばかりがならんだその病名を俺は覚えてない。
ただ、俺の心臓は俺の身体を動かすのに出力が足りないということだけ覚えさせられた。
故にもう全力で走ることも跳ぶことも許さない。
それを行えば自らの命で対価を払うことになるから。
実際、神社の石段を登ったくらいで死にかけたのだから反省しないわけにはいかない。
俺の心臓は思っていた以上に脆弱だったようだ。
運動を取り上げられた人生に未練は少ない。女の子と仲良くなってもそこまで。
もう俺の人生に楽しいことなんて残ってないのかも。
だからといって、それを簡単に捨てるなんてことはしないけど。
それを聞いた魅木は「なるほど」と顎に手をあて、何やら考えている。
途中でどうでもよくなったけど。
人の役にたつものが神で、害をなすものが鬼もしくは妖怪と呼び方を分けた程度のものですから。
こだわりなんてありませんよ。
それに神が善でそれ以外は悪であり、全て滅ぼせとか言いだしたら争いの元にしかなりません
難しいことはよくわからん。
言いかけた俺を前に、魅木は立ち上がると巫女服の帯をすっと解いた。
起伏のすくない艶やかな肌が俺の前に晒される。
そして俺は魅木の白い身体から目が離せなくなった。
彼女の腹部は縦に大きく裂けており、それはまるで人間の口のようになっていた。
その異貌の口を見て、今度こそ心臓が止まるかと思った。
粘液を帯びた舌が伸びてくるが、俺は金縛りにあったかのように動けない。
魅木は手で器用に俺のシャツのボタンを外して胸をはだけさせた。
そして長い舌を心臓のあたりまで伸し、そこをひと舐めする。
生暖かいヌルッとした感触が這う。
すると、そこから八本足の影が這い出した。
蜘蛛は天敵に見つかったがごとくその場から逃げだそうとする。
しかし魅木の舌はなんなくそれを捕まえると、そのまま大きな口まで運び咀嚼してから飲み込んでしまった。
幼くも妖艶に微笑む彼女に俺は言葉を失った。
その後、俺は必死に言い訳をして自らの貞操を守った。
そのためにいくつかの約束を魅木としたのだけど、それはまた別の話だ。