02

文字数 1,580文字

あっ、お気づきになりましたか?
 目を覚ますと大きな瞳が、俺を覗き込んでいた。
ここは……?

 もうろうとした意識のまま身体を起こすと、額に載せられていたタオルがずり落ちる。


 見覚えのない和室に布団が敷かれていて、俺はそこに寝かされていた。

大丈夫ですか? 境内で倒れてたんですよ

 座布団に正座をした女の子がそう教えてくれた。


 黒髪を肩にそって揃え、巫女服を着ている。神社の関係者なのかな。


 落ち着いた口調だけど、小柄で膨らみのない身体つきは中学生か、あるいはまだ小学生かも。

そうか俺は……

 階段を登りきったところで発作を起こしたのか。


 状況から察するに、倒れたところを発見されて神社の人に助けられたみたいだ。

(死に損なったかな)

 制服の上から手をあて鼓動を確かめる。

 当たり前だけどちゃんと心臓は動いてた。


 死にたかった訳じゃないけど、迷惑をかけるのは申し訳ない。

 それもこんな小さな子に手間をかけさせて。

 これからはもっと気をつけないとな。

ごめん、迷惑をかけちゃって
いえ、お気になさらずに

 ちゃんとしつけられているのか、幼い見た目と裏腹にしっかりとした受け答えができている。

 小学生だとしたら、えらくしっかりした子だ。


 そんな俺の感心を余所に女の子はぽつりと呟く。

これも所有者の義務ですから
ん?
薬を煎じたものです。少し苦いですが温まりますよ
どうも

 急須から入れたお茶を受け取ると、心地よい温もりが手に伝わる。

落ち着いたようですね
おかげさまで
 お茶の苦みに眉をひそめる俺に、女の子が話を切り出す。
 挨拶が後回しになりました。

 私、夜口(やぐち)魅木(みこ)と申します

 あっ、ども。

 日野道(ひのみち)影史(かげふみ)です

影史ですか。良い名ですね
丁寧なわりに、いきなり呼び捨てなんだな。ちょっと意外だ。
ところで、夜口ってことは魅木はやっぱり……
 名前を呼びつけにされたので、同じように名前を呼び返す。

 こちらだけちゃんとか付けると、小学生にへりくだっているようでなんだか嫌だ。


 まぁ、呼びつけ同士だと対等って感じで、それもあまり好ましくないが、恩人相手に贅沢は言うまい。

はい、この神社の巫女をしております
 登ってきた階段の先には夜口神社があり、俺はそこでお詣りするつもりだった。


 どうやら魅木はその夜口神社の娘らしいが、魅木が巫女をしているというのは、覚えやすくもややこしい。

あの、影史。突然なんですが……お願いがあるんです。よろしいでしょうか?
 いいよ、俺で魅木の役に立てるならだけど。

 ああ、先に断っておくけど、力仕事は無理だから。

 唐突な切り出しにやや面を喰らったが、迷惑を迷惑をかけた以上、礼なり詫びなりは必要だろう。

 俺は正座のまま真剣な眼差しの巫女に答えた。

それでは私を大人にしてください
ん?
私とHをしてください!
 投げつけられたダイレクトな言葉に、口に含んだお茶を吹き出す。
ゲホゲホッ、いきなりなんてことを言うんだ
だから『突然なんですが』って断ったじゃないですか
断れば良いってもんじゃない
 じゃ、もう一度ゆっくり言い直しますから。

 今度はちゃんと心の準備をしておいてくださいね。

いやいやいやいや、そういう問題じゃないから
わーたーしーとー、せーぇー……
しない!
彼女の言葉を遮り、きっぱりと断る。
ダメですか?
ダメだ
どうしてもですか?
どうしてもだ

 上目遣いで涙を潤ませるの魅木は卑怯なほどかわいい。

 巫女服と合わさって二割…いや五割増しの破壊力だ。


 だが、だからといって、出会ったばかりの女の子相手にそういう行為に踏み込めるほど、俺の道徳観念は歪んじゃいない。

 まして中学生相手なんて論外だ。

そうですか……なら諦めます

 しょんぼりする魅木に、俺はホッと胸をなでおろす。


 しかし、彼女は油断した俺に予想外の選択を告げた。

合意は諦めて、力尽くでやらせてもらいます。

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