文字数 869文字

ぼくと同じくらいの歳かな、男の子だった。
身を屈めて時々手をそわそわと動かし、草をかき分け念入りに地面を見ている。
探し物だろうか。
「ねえ、何か探しているの?」
寝転んだまま声を掛けた。
彼はこちらに目もくれない。
無視された?いや、全然気付いていない、ずっと手元に意識が集中している。
病院のパジャマを着ているから、あの子も入院しているのか。
パジャマが汚れるのも気にせず、両膝をついて地面ばかり見ている。
他にも人はいるけど、どういうわけかその子が気になった。
ぼくは体を起こすと立ち上がり、動き出した。
木の陰を出て、日陰と日向の境界線をまたぐと、太陽の光で体がじんわりとしてきた。
飛ばしたスリッパを拾って、彼の視界にぼくの影が出来るほど近付き、もう一度声をかけた。
「何をしているの?」
無言で顔だけをこちらに向ける彼。
目が合ったとき、どきっとした。
なんだろう、見た目は子どもで、背丈はぼくとさほど変わらないのに、すごく大人に感じたんだ。
ちょっと眩しそうにぼくを見たあと、その子はまた地面に視線を戻した。
「一緒に探そうか」って話し掛けたら、「自分で見付けたいから」って言われた。
子どもの声だけど、どこか深い響きがある声だった。
風になびく彼の髪は太陽の光を浴びて茶色に光っている、きれいだな、こげ茶色の絵の具を水に溶いたみたい、さらさらって音まで聞こえてきそうだ。
ぼくはすぐに離れられず、どうしようかと迷って、そこにしゃがみこんだ。
その子はちらっと何処か遠くを見つめて、視線の端にぼくを確認すると、またそわそわと手を動かした。
彼と同じ体勢になって草をかき分けようとしたら、入院病棟の窓からぼくを呼ぶ声が聞こえてきた。
「こら、病室に戻りなさい!」
ぼくの病室を担当する看護師さんだ。
甲高い声から伝わってきたのは、ちょっと、というかすごく怒っているってこと。
理由は分かっている、ぼくが検査を放って抜け出したから。
慌てて立ち上がり一目散に逃げ出した、今度はぼくが視線の端に彼を確認する。
彼は顔だけをこちらに向けて、ぼくのことを目で追っているように見えた、気がした。
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