最終話 和解

文字数 913文字

 アンナとの結婚も無事終えて一安心かと思いきや、すぐさまアンナが妊娠してしまった。
「おめでとうございます。男の子と女の子の二人ですよ」
 双子だった。産まれた男の子にレイ、女の子にルーシーと名付けた。暗い道を歩まない様に、と願いを籠めた名前だ。
 『始祖』が目覚めたと聴いた。子供達を連れてアンナと一緒に病院に行った。
 『彼女』はクラックさんと談笑していた。昔みたいな嗤いはそこにはなかった。微笑ましい笑顔だった。クラックさんと何かあったのだろうか? 
「ほら、見たまえ。あなたの孫達だ」
 『始祖』はこちらをジッと見て感想を漏らす。
「本当に大きくなったわね。坊や」
「『婦人よ、御覧なさい。あなたの子です』」
 クラックさんは『始祖』にそう言い、僕を見て言う。
「『見なさい、あなたの母です』」
「クラック、あなたのそういうところが相変わらずね」
「君程ではないさ。孫を抱きしめたまえ。望んでいたことだったのだろう」
 アンナと僕が子供達を寄せてそれぞれ抱っこさせると『彼女』は涙を一筋流して言った。
「良かった。これで思い残すことはないわ。ねえ、クラック?」
「そうだな。次の世代に紡ごう」
 それから五十日後、二人は静かに天に召された。
「結局、真相は謎のままかな」
 『彼女』は僕を母として愛していたのだろうか? クラックさんも父として僕を見守っていたのだろうか?
「親の愛は神秘かなあ」
 全ての親がそうである訳ではないが、子を想う気持ちはあるということだろう。
「安らかに」
 十字架の前でそう祈った。
 長い長い歩みが終わってようやく安息の日がきたのだ。野暮な真似はやめよう。
 二人の棺を前に多くの人々が涙している。
 時代の一つが終わったのだ。
 二人の意志を継ぐ。それが残された者達の役割だ。
「シトー君、寂しい?」
「ううん、今の僕にはアンナもいますからね。レイもルーシーもいるから」
 死は避けられない。だからこそその日まで人は人を愛するのだ。

 僕達は独りではない。僕達は神の世界に生きている。神は全てのものを創られ、今もその業を続けられる。

 紡ごう。二人が紡いだ歴史を今度は僕達が。

 それが残された者の使命だ。


                  ―了―
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登場人物紹介

シトー・クオリア……機械文明に住んでいた少年。ケファとの出会いを機に神聖文明に行ってしまう。機械文明での呼称は四百十番。シトーとは四百十番をもじってケファが名付けた名前。クオリアという姓は機械文明のある人物に与えられたもの。


アンナ・カレーニア……神聖文明の奇跡使い。若くして屈指の実力者でもある。神聖文明に来たシトーを放っておけずなんだかんだ世話をみる。

クラック・クローム……通称・議長。神聖文明の最高指導者でもある。『始祖』との因縁を持つ。唯一、グランドプロフェッサーの称号を持つ奇跡使い。

ケファ……神聖文明屈指の奇跡使い。とある事情にて機械文明で潜入捜査をしてシトーと出会う。シトーの名付け親。称号はプロフェッサーであり、歴代の中でも最高峰の奇跡使いに分類される。


ペテロ……神聖文明屈指の奇跡使い。ケファの親友。機械文明との交渉に赴き、行方不明になった。

アルファ……最初の機械。歴史上、人類に反旗を翻したと言われている。

『始祖』……最初の奇跡使い。精確には奇跡使いの呼称を創り出した人物。

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