第1話 ある未来
文字数 2,590文字
自分四百十番は今日も働く。朝の起き掛けにはご主人様の支度を調える。ご主人様は日中セイゾウやセイサンに関わる仕事をされる。自分達のカンリもするのがご主人様のお仕事らしいが、そんな難しい言葉は自分にはさっぱりだった。だけど、御主人様にはそれが大層良いらしい。自分が産まれた時から世話をして下さっているご主人様の表情が最近になって判る様になってきたらしい。これも又ご主人様の喜ぶことであったらしい。
「四百十番、大変素直だ。愚かで愚鈍であることは美徳だぞ」
オロカ? グドン? それは何だろうか? 唯、判るのはご主人に喜んで貰えているらしい。 それだけで十分だった。
自分達人間は機械様に創られた種族なのだから。神様を崇めるのは当然の行為だし、神様の喜ばれることは創られた者として素晴らしいことなのだ。と人の年寄りが言っているのを思い出す。
それにご主人様はご褒美を下さる方だ。
週に一度、お楽しみ会がある。自分達にはそれが楽しみなのだ。とても美味しいお飲み物を頂いた後、可愛い子を相手させて貰える。その気持ちいいことをご主人様がコウビと呼んでいるものだが、あれは楽しみだった。
だった、と言うのは今はちよっとした楽しみがあるからだ。機械様も人も近寄らない所に人が住んでいるのを自分は発見したのだ。
その人は訳のわからない言葉を言うと次に「英語は通じないのか、では日本語はどうだ?解るか?」と言ってきたのだ。何しろこんな人間は初めて見たもので自分は驚いた。
不可思議な言葉で話す上にご主人様達の様な魔法をお使いになるだから。初めは一人で何かブツブツ言っているから変な人だなと思ったらコウシンしていると言う。驚いた。これは御主人様のお使いになられる魔法と同じではないか。この人間は何なのだろうか? ご主人様にお伝えするべきか、そう思った時、その人は「誰にも言わない様に」と丸い玉を差し出してきた。自分はその玉を舐めて更に驚いた。ご主人様のセイゾウやセイサンで出てくる甘いものにそっくりだったからだ。
「お兄さん」
怖いけど、聞いてみる。
「お兄さんは『創造主の創造主』なのですか?」
昔、人の年寄りから聞いたことがある。機械様は自分達を創った方だ。でも、その上に機械様を創った創造主と言う方々がいるらしい。
この話を聞いたその人は言う。
「お前らの中ではそういう立ち位置になっているのか? あいつらは」
何だか怒っているみたいだったのでもっと聞くことは出来なかった。
「まあ、良い。今回は偵察任務だからな」
テイサツ? ますますご主人様みたいな話し方をされる方だ。変な人からすごい人に自分には見えた。
それから、こっそり食事を運んでいたりしている。代わりにその人は本と言うものを読んでくれる。聖典と言うものですごく大切なものらしい。でも、その話はよく分からなかった。何でも出来る神様が人間を創って人間の中に救い主と言うすごい方が現れるらしいのだけど、変な感じだった。
自分達人間を創ったのは機械様なのに。それとも「創造主の創造主」のことを言っているのか?
「違う番う! あいつらは人間だ! 神でも何でもない。クソっ、本当にディストピアだな、この国は特に」
その人の言っていることはよく分からないけど、自分はちょっとムッとした。
「お兄さん、『創造主の創造主』のこと、そんな風に言ったらいけません。よく分からないけど、フケイ罪と言うものがあるんです」
「あー、嫌だ嫌だ。いいか? 耳の穴をかっぽじってよく聴け。世の中には人権と言うものがある。人が人として当たり前に暮らすのに必要なものだ。今のお前にそれがあるか?」
「御主人様はお楽しみを下さいます。コウビもさせて下さいます。美味しいお飲みものも下さいます」
「馬鹿! その飲み物は薬だ」
「薬ならよいじゃありませんか。ご主人様は自分が具合悪くなったら薬を下さいます」
「その薬じゃねーよ、悪い方の薬だ。そのお飲み物を飲むと凄く気持ちよくなるんだろう。そりゃ、麻薬の類だ」
「マヤク? 何ですか? それ」」
「ああ、もう!」
その人が何に怒っているのか分からない。ご主人様は神様なんだから悪いことをする訳ない。その人は御主人様に会ったことがないからそんなことが言えるのだ。
だから喧嘩して別れてしまった。
翌日、その人の所に行くと機械様方がその人を捕まえていた。
「四百十番、何故言わなかった?」
「………………」
自分が黙っていると機械様が話し始めた。
「不敬罪、思想汚染罪だ。廃棄だな」
時々、見てきた廃棄と言う言葉だけ知っていた。
ああ、つまり自分は死ぬんだな。それだけは分かった。
「シトーだな」
突然、その人が言い放った。
「四百十番だから。それがお前に与える洗礼名だ。シトー派が拠点を構えた森に由来する」
機械様が怖い笑い方をされた。
「家畜を残して何になると言うのだ。それでは我々を倒せんなあ」
機械様はつるぎを持ってその人を痛みつけ出した。
「シトー! 生きろ! 俺も生き残る! 俺が死ぬことはない! こいつらには俺に手出し出来ない訳があるんだ!」
その時、流れる様な光が自分を包んだ。
「愚かな……ワープ装置をその家畜に使うとはな」
機械様達の声が遠くなって景色が変わる。
「ここは?」
「安心なさい。ケファ牧師の秘密部屋だ。先程のケファ牧師の言葉は本当だ。彼は我が国にとっても重要な人物故に向こうも無碍に出来ない。さて」
年寄の男の人は話す。
「世界の真実を知る勇気はあるかね? それ次第で彼を救えるかも知れない」
お兄さん、喧嘩したままだった。もう一度会って仲直りしたい。
自分は馬鹿だから分からないけど、お兄さんにもう一度会えるなら。
「聞かせて下さい」
「良い眼をしている。ケファが見込んだだけある」
年寄りの人は嬉しそうに手を広げた。
「ようこそ、人類解放教会同盟へ」
そう言って年寄りの人は手を広げて抱きしめてあいさつをした。
「これから伝えることは君にとって残酷なことだ。信じられない話をする。それでも会いたいかね、ケファに」
自分は頷く。
「良い返事だ。ケファが見込んだだけある。では話そう、我々の歴史を。とその前にだ」
年寄りの人はコホンと咳をして言う。
「まあ、シトー君、君にとってここは第二の家になるから、色々見てきたまえ」
そう言って年寄りの人は外を指し示す。
「四百十番、大変素直だ。愚かで愚鈍であることは美徳だぞ」
オロカ? グドン? それは何だろうか? 唯、判るのはご主人に喜んで貰えているらしい。 それだけで十分だった。
自分達人間は機械様に創られた種族なのだから。神様を崇めるのは当然の行為だし、神様の喜ばれることは創られた者として素晴らしいことなのだ。と人の年寄りが言っているのを思い出す。
それにご主人様はご褒美を下さる方だ。
週に一度、お楽しみ会がある。自分達にはそれが楽しみなのだ。とても美味しいお飲み物を頂いた後、可愛い子を相手させて貰える。その気持ちいいことをご主人様がコウビと呼んでいるものだが、あれは楽しみだった。
だった、と言うのは今はちよっとした楽しみがあるからだ。機械様も人も近寄らない所に人が住んでいるのを自分は発見したのだ。
その人は訳のわからない言葉を言うと次に「英語は通じないのか、では日本語はどうだ?解るか?」と言ってきたのだ。何しろこんな人間は初めて見たもので自分は驚いた。
不可思議な言葉で話す上にご主人様達の様な魔法をお使いになるだから。初めは一人で何かブツブツ言っているから変な人だなと思ったらコウシンしていると言う。驚いた。これは御主人様のお使いになられる魔法と同じではないか。この人間は何なのだろうか? ご主人様にお伝えするべきか、そう思った時、その人は「誰にも言わない様に」と丸い玉を差し出してきた。自分はその玉を舐めて更に驚いた。ご主人様のセイゾウやセイサンで出てくる甘いものにそっくりだったからだ。
「お兄さん」
怖いけど、聞いてみる。
「お兄さんは『創造主の創造主』なのですか?」
昔、人の年寄りから聞いたことがある。機械様は自分達を創った方だ。でも、その上に機械様を創った創造主と言う方々がいるらしい。
この話を聞いたその人は言う。
「お前らの中ではそういう立ち位置になっているのか? あいつらは」
何だか怒っているみたいだったのでもっと聞くことは出来なかった。
「まあ、良い。今回は偵察任務だからな」
テイサツ? ますますご主人様みたいな話し方をされる方だ。変な人からすごい人に自分には見えた。
それから、こっそり食事を運んでいたりしている。代わりにその人は本と言うものを読んでくれる。聖典と言うものですごく大切なものらしい。でも、その話はよく分からなかった。何でも出来る神様が人間を創って人間の中に救い主と言うすごい方が現れるらしいのだけど、変な感じだった。
自分達人間を創ったのは機械様なのに。それとも「創造主の創造主」のことを言っているのか?
「違う番う! あいつらは人間だ! 神でも何でもない。クソっ、本当にディストピアだな、この国は特に」
その人の言っていることはよく分からないけど、自分はちょっとムッとした。
「お兄さん、『創造主の創造主』のこと、そんな風に言ったらいけません。よく分からないけど、フケイ罪と言うものがあるんです」
「あー、嫌だ嫌だ。いいか? 耳の穴をかっぽじってよく聴け。世の中には人権と言うものがある。人が人として当たり前に暮らすのに必要なものだ。今のお前にそれがあるか?」
「御主人様はお楽しみを下さいます。コウビもさせて下さいます。美味しいお飲みものも下さいます」
「馬鹿! その飲み物は薬だ」
「薬ならよいじゃありませんか。ご主人様は自分が具合悪くなったら薬を下さいます」
「その薬じゃねーよ、悪い方の薬だ。そのお飲み物を飲むと凄く気持ちよくなるんだろう。そりゃ、麻薬の類だ」
「マヤク? 何ですか? それ」」
「ああ、もう!」
その人が何に怒っているのか分からない。ご主人様は神様なんだから悪いことをする訳ない。その人は御主人様に会ったことがないからそんなことが言えるのだ。
だから喧嘩して別れてしまった。
翌日、その人の所に行くと機械様方がその人を捕まえていた。
「四百十番、何故言わなかった?」
「………………」
自分が黙っていると機械様が話し始めた。
「不敬罪、思想汚染罪だ。廃棄だな」
時々、見てきた廃棄と言う言葉だけ知っていた。
ああ、つまり自分は死ぬんだな。それだけは分かった。
「シトーだな」
突然、その人が言い放った。
「四百十番だから。それがお前に与える洗礼名だ。シトー派が拠点を構えた森に由来する」
機械様が怖い笑い方をされた。
「家畜を残して何になると言うのだ。それでは我々を倒せんなあ」
機械様はつるぎを持ってその人を痛みつけ出した。
「シトー! 生きろ! 俺も生き残る! 俺が死ぬことはない! こいつらには俺に手出し出来ない訳があるんだ!」
その時、流れる様な光が自分を包んだ。
「愚かな……ワープ装置をその家畜に使うとはな」
機械様達の声が遠くなって景色が変わる。
「ここは?」
「安心なさい。ケファ牧師の秘密部屋だ。先程のケファ牧師の言葉は本当だ。彼は我が国にとっても重要な人物故に向こうも無碍に出来ない。さて」
年寄の男の人は話す。
「世界の真実を知る勇気はあるかね? それ次第で彼を救えるかも知れない」
お兄さん、喧嘩したままだった。もう一度会って仲直りしたい。
自分は馬鹿だから分からないけど、お兄さんにもう一度会えるなら。
「聞かせて下さい」
「良い眼をしている。ケファが見込んだだけある」
年寄りの人は嬉しそうに手を広げた。
「ようこそ、人類解放教会同盟へ」
そう言って年寄りの人は手を広げて抱きしめてあいさつをした。
「これから伝えることは君にとって残酷なことだ。信じられない話をする。それでも会いたいかね、ケファに」
自分は頷く。
「良い返事だ。ケファが見込んだだけある。では話そう、我々の歴史を。とその前にだ」
年寄りの人はコホンと咳をして言う。
「まあ、シトー君、君にとってここは第二の家になるから、色々見てきたまえ」
そう言って年寄りの人は外を指し示す。