出会いは突然に。

文字数 4,610文字

「ある程度歩き回ってはみたものの……」
「本当に瓦礫しかないな。なんだか嫌な想像ばかり頭に浮かぶ」
「人の死体も見当たらないから、まだ幾分か気は楽だが……逆に不気味さを感じる」
「俺が本来いた世界とは全く異なる異世界に飛んだ、とか……本当にそうならせめて可愛い女の子のいる世界がよかったな」
「誰もいないせいで不安になってきたせいか独り言も増えている気がするし……せめて話し相手の一人や二人欲しいよ」
「――あ、そうだ。そういえばスマホは持ってきていたんだったな。電波が通っているかは分からないけど、音楽を聞けば気も紛らわせるかもしれない」
「……ん? なんだかおかしいな。ボタンを押しても反応が無い。タップしてもスワイプしても反応する様子が無い。……壊れちゃったのか、もしかして?」
――突然明滅を始める画面――
「うわっ、と……何だ? これは本当に壊れてるっぽいな……けど、とりあえず電源は付くんだな。もしかしたら初期設定をしているだけかもしれないし、もう少し待ってみるか」
――黒い背景の画面に、白い文字が浮かび上がる――

「010010000110010101101100011011000110111100101100

001000000101011101101111011100100110110001100100」

「うわ、0と1だ、すごくコンピュータっぽい……って、何だよこの表示。バグってるのか?」
「'S' 'y' 's' 't' 'e' 'm' ' ' 'L' 'o' 'a' 'd' 'i' 'n' 'g' '.' '.' '.'」
「お、今度は何か読める文字が出てきた。……システムローディング、ねぇ。とりあえずスマホをもう一度起動し直してるって感じなのかな。前の再起動の時とはだいぶ違う気がするけど」
「あれ、文字が消えた。これでいつもの画面に戻ってくれれば幸いなんだが」
「……お! いつものパスコード入力画面だ」
「……ん? あれ、見慣れないアプリがインストールされてる」
「普段ならまず間違いなく即削除になるんだが……非常時みたいなもんだしな。電波もどうやら圏外みたいだし。起動してみるか?」
「……いや、やめておこう。ウィルスだったら怖いし……」
「あれ、通知だ」
「ない?」
「……何だ、この通知」
「これは、通知」
「? さっきから変な通知ばっかり来るな……ま、まさか!?」

「既にウィルスに感染してる……!? 一体、いつ感染したんだ!?」

「あのDVDか……? いや、しかし、インストールされたのはパソコンだ。このスマホじゃない。……そもそもアレは俺が注文したゲームの最新作――」
「まさか、違ったのか……? もしかして、今俺がこんなことになっているのも、あのDVDのせいなのか……!? あの黒い箱に入ってた物のせいで……?」
「……いやいや、さすがにこの規模のことが起きるのはあり得ないだろう。……ただ、このスマホがおかしくなってる原因は、そのDVDのせいって可能性はあるよな」
「起きるは、ない。可能性は、ある」
「さっきから何なんだよこの通知は……っていうか、今喋ったことを反復してないか? ……音声認識機能で反復させる機能?」
「普通ならこんなウィルスに感染した時点で絶望なんだが……外の環境がそれ以上に絶望的なせいか、あまり悲しくはないな」

「普通なら悲しくはないはない」

「……逆に面白くなってきたな。なんだか人工知能みたいに、言葉を聞きながら学んでいるみたいだ。そんな高性能なウィルスがあるなんて聞いたこともないけど……もう少しすれば話し相手にもなってくれそうだな」
「話し相手、なる?」

「! マジかよ……いくらなんでも学習が早すぎないか? ……まぁ今は深く考える必要もないか。よし、じゃあお前の名前を教えてくれ」

「名前……」

「……よくよく考えてみたら、ウィルスに名前なんてあるわけないか。うーん……何か自分のことを示す何かはないか?」(いくらか漠然とした質問だが、この謎の通知の学習能力なら、それぐらいできそうな気がするぞ)

「自分を、示す何かなら、『PUSLF-R-235』」
「……何て読むんだ、コレ……パスルフ、アール、にーさんご? にひゃくさんじゅうご?」
「にーさんご……呼びにくいな。にさご……ニサゴ……ニサコでいいや。ニサコ、お前はこの状況について何か知っているのか?」
「この状況について、知っていること、は、ない」
「そうか……まぁ、お前はただのウィルスだもんな。 ニサコと外の状況に関しては無関係、と……あ、そうだ。このアプリについては、何か分かるか?」
「アプリ『PUSLF-R-235』の起動を、確認。データファイルの閲覧を、開始」
「あっ、しまった! 指差すつもりがタップしちまった……そもそも指差してもこいつには見えてるかどうか分からないか……頼むからデータを破壊したりはしないでくれよ……?」
「カメラにより得た輪郭の情報と画像フォルダから、頻出する画像の中でカメラに識別される人物に似た人物をモンタージュします」

「うわ、一気に流暢な通知が飛んできたぞ。何をする気なんだこのウィルス……カメラに識別……ってこいつ、完全に俺のスマホを乗っ取ってるぞ……で、識別される人物に似た人物をモンタージュ……目的は分からないが、とりあえずウィルス自身の姿を画像を編集して表そうとしているんだな」

「本当に話し相手になろうとしている? ……まぁ、話し相手というからには人間同士で話すってことを俺は考えていたが……ウィルスがそこまで考えるのか? こいつの学習能力はものすごいが、なんていうかそういうところにまで考えがいたるのか……?」
「……って、ちょっと待て! さっきこいつ、『頻出する画像の中で』っつったよな!? 俺がスマホの中に保存してる画像って言ったら、基本的にゲームに出てくる女の子の画像ぐらいしか……まさか!」
「モンタージュ完了。数秒後に右上の画面に画像を表示します」

「う……なんだろう、期待と不安が半々だ……大丈夫だよな? なんか変に組み合わさってモンスターみたいな画像になったりしてないよな?」

「画像の表示を確認。続いて音声データの作成を開始します」
「お……おぉう。おぅ。なんだろう。普通に好みな見た目なだけに、気恥ずかしさを感じてしまう。周りに人がいないか確認してしまう。少し前は誰かいないか探そうとしてたのに、何だコレ」
「しかし、音声データ、か……こいつ、実際に声を出して話すつもりなんだな。うーん、音声データなんてあったっけ……? スマホに標準搭載されている音声ぐらいしかないよな……?」
「って、なんで俺はさりげなくウィルスに手を貸すようなことを考えてるんだ!? 普通に考えたら、今俺のスマホはウィルスによって滅茶苦茶にされてるんじゃないか……まぁ、今の俺にはどうすることもできないんだけどさ」

「ん? 画面が固まってるな」

「画像が表示されたまま動かないな。いつの間にか立ち止まってた分、今のうちに歩くか」
――二時間後――
「喉が……乾いた……くそっ、まるで無限ループしてるみたいだ」
「どこまで行っても瓦礫、瓦礫、瓦礫……他に目につく建物はないのかよ」

「――音声データの作成が完了しました。数秒後にテスト音声を再生します」

「おっと、まだスマホが振動してきた……ああ、やっと終わったのか。意外と音声データの完成を楽しみにしてる俺がいるんだ。どんな音声なのか、聞かせて欲しい所だな」
「テスト音声、テスト音声。あえいうえおあお、かけきくけこかこ――」

「!? え、ちょ、なんだそのすごく……ゴホン、ゴホン。って別に他の人なんていないから遠慮する必要はないのか。すごく、可愛い声だな……無機質な喋り方が勿体ないくらい……」


「――わえいうえをわを。これで音声テストを終了します。次に、テキストデータを読み取り、会話文から適切な会話が出来るようになるための学習を開始します――」

「聞いてるだけで大分幸せになれる声だったな。通知で表示される文字を読み上げているだけのようだが、それだけでも十分だよな。……次は何を学んでくるのか……ま、今はそんなことより水や食料か……」

「瓦礫の下とかに、何かないかな……比較的どかしやすい瓦礫をどかしていくか」
――一時間後――
「ふぅ。飲み物なら何個か確保できたぞ。食べ物は見つからなかったが、とりあえずこれで今日はしのげるな。……すっかりサバイバル生活っぽくなっちまったな」
「日も傾いてる……筈だよな。空がずっと曇ってるから分からないけど」
「会話サンプルを用いた言語学習を一時的に終了します。これよりアップデートを開始します――」
「お、そうなのか……うん、声が聞こえるっていうのはいいな。大分印象も変わるし。最初は不気味な印象が強かったが、今はだいぶフレンドリーな感じがする。声と見た目が変わるだけでここまで印象が違うなんてな」
「とりあえず雨風をしのげる場所は作っておくか……瓦礫の下にスペースを造れば、即席で何か作れそうだし」
「……少し力仕事になるが、やるしかないか」
――二時間後――
「まずい……もう暗くなってしまった。半身がギリギリ入るぐらいのスペースしか出来てないのに……んで、ニサコの方のアップデートはまだか……ウィルスのアップデートを待つっていうのはなんだか斬新だな」
「……ん、ここ、少し空洞があるな。このコンクリート岩をどかせば、人一人分くらいなら入れそうかもしれない……よし、どかそう」
「これで、今日はなんとか……安眠はできないが今日はここで夜を過ごそう」
「……人間、結構どうしようもない状況になると、行動できるもんだな……」
「とにかく、睡眠だけはとっておかなくちゃな……目だけでも瞑って……」
――次の朝――
「……」
「……んー……うーん……」

「アップデートが完了しました。再起動します」

「……」

「……こほん」

「おっはよー、なのだー! 朝、気持ちのいい朝なのだー!! 起きて、起きて!!!」

「そばねッ!? ……え!? 誰!? ……え? ……え?」

「せーの、おっはよー、なのだー!」
「……えーと、何? 何が起きた? ちょっと待って寝起きだから……って何を言ってるんだ俺は」
「背中が痛い……あぁ、そうだ、俺はこの瓦礫の中で寝たんだ……さっき飛び跳ねて起きたせいで少し頭も痛いな……それで、何だ今の快活な声は」
「あれー? お返事が聞こえないのだー? せーの、おっはよー! なのだー!」
「そう、それだ……何だ、それは?」
「朝の挨拶なのだ!」
「そうじゃなくて……一体何があったんだ……俺が寝てる間に……」
「アップデートってやつか? ……逆に性能下がってそうなんだけど……この雰囲気的に……」
「そんなことないのだ! ニサコは頭いいのだ!」

(すげえ頭悪そう)

「……ニサコって名前でいいのか?」

「うん! ……えーっと……」
「……俺の名前か?」
「なのだ」
(なのだって……)「……永道 透だよ」
「なが……る……?」
「……透でいいよ」(本当に頭悪くなってるよな……アップデートで頭悪くなるウィルス……意味分からん)
「トオル! そう! トオルがニサコって名付けてくれた!」
「あ、そうなの……」
「ニサコはニサコ! よろしくなのだー!」
「あぁ……よろしく」

(想定外に変な話相手ができちまったぞ……どうすんだ、コレ……)

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登場人物紹介

[No Image]
特にイメージの決まっていない奴用のもの。
主にモブに使われる。

[永道 透(ながみち とおる)]
ひきこもり系人間。趣味はゲーム。
運がいいことが取り柄。

[ニサコ(にさこ)]
すごいコンピュータウィルス。元気いっぱい。
外見、声、話し方のベースはトオルの持っていたギャルゲーが元。

[キリヤ(きりや)]

基本的に調子に乗ってる人。中二病がちょっと入っている。

感情の波で発言がコロコロ変わる。

[雨野 翡翠(あまの ひすい)]

おせっかい焼きさん。好きな食べ物は苺。

(物理)が一番似合いそう。

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