「……あー、強盗とか、盗賊とか、そういう感じなら、やめたほうがいいと思いますよ。俺、ロクな物もってないですから、ね?」
「何言ってんだ? 俺は別にそういうのを目的としてる訳じゃねえんだぜ?」
(大分若い声だな……変声期の途中みたいな……中学生? いや、もしかしたら声変わり後も声の高い奴かもしれない)
(ただ、ドスの聞いた声じゃないってのはいくらか幸いだな。ああいう声に凄まれるとビビってつい言うとおりにしちまうからな、俺……)
「お前……さっき誰かと話してたよな? 近くにいるのか? 出てこいよ」
「いや……出てきたくも出てこれないというか……『誰か』ではないと思いますよ……ハイ」
(コイツ……触れてる刃が全く震えてねえ……既に何人か手にかけてる感じがする……まずいな)
「トオルー、大丈夫なのだー? 急に暗くなったからニサコは心配なのだー」
「……良く分かんねえが、とりあえずお前はコレと話してたって訳か」
「……ふぅん。てっきり見えない所で無線か何かで会話してるもんかと思ってたが……興冷めだぜ」
(刃物が離れた……?)「ど、どういうことだ……?」
「どっかから隠れて俺を狙ってんじゃねえかってお前を人質に取ってみたが……変な喋る機械とお話ししてただけみたいだな。別にお前みたいな弱そうな奴には敵意はねえよ、安心しろ」
「弱そ……いや、それは置いといて。まあ、敵意がないなら、その……助かる」
「ニサコは喋る機械じゃないのだ! ニサコはニサコなのだー!」
「それにしても、コレ……ゲームか? それにしちゃ薄いし俺の言葉に反応するし……面白えな」
「え? まぁ……その。なんだかよく分からないコンピュータウィルスに感染したんだ」
「こんぴゅーたうぃるす? へぇ……ふーん。そうか。まぁ、いいんじゃねえの? まぁ俺病気には強いし平気だけどな」
(……さては知らないな、コンピュータウィルス。だが、彼については色々と気になる所がある。まずはさっきまで首筋に当てられていた刃物。……どこにも見当たらない)
(次に、さっきの弱そうな奴『には』敵意はねえよってセリフ。逆を返せば、強そうな奴なら間違いなく斬りかかっていたってことだよな。俺の見た目が弱そうってのは癪だが、運が良かったな)
「オイオイ、まさかこんな荒野のど真ん中にいきなり現れた訳じゃないだろ? お前はどこかから歩いてきたに違いないって訳だ。ってことは、道中遭遇した筈だぜ、妙な奴等に」
「……妙な奴等なら、まずこのウィルスと、お前に遭遇したわけだが」
「あ、売ってないですごめんなさい。……けれど、他には誰とも会ってないですよ」
「は? 嘘言ってんじゃねーよ。ここに来るまで俺は腐るほど大量の奴等をぶった切ってきたんだぜ。お前が一体とも会ってないなんてこと、あるもんかよ」
「そんなこと言われても……そもそも、その『奴等』って一体――」
――上から聞こえる声。見上げると赤い何かが落下してきている――
――それは地面に落下する。衝撃が地面を伝わり、床が割れた――
(なんだ……? 落ちてきたのは……赤い、髪の……少女……?)
「もう! キリヤ君、知らない人に喧嘩売っちゃ駄目だって言ってるでしょ! 必ず誤解を生むんだから……あ、ごめんなさい。彼、悪気はないの、許してあげて、ね?」
「え? あ、はい……えっと、きりや君? その……妙な奴等っていうのは……」
「……いや、コイツじゃない。まぁ、確かにコイツはどこかおかしいけどな」
「コイツって、私にはちゃんと雨野翡翠[あまの ひすい]って名前があるんだから! もう! 人のことはちゃんと名前で呼ばないと駄目だよ!」
「なぁ……ちょっと黙っててくれないか? 今ちょっと大事な話の途中だったんだよ、なぁ……?」
「え……? あ、あぁ……うん……ソウダネ」(その視線は駄目だろ……間違いなく否定したら斬られるやつだろソレェ……)
――と言いつつ、どこからともなく現れた剣で天野翡翠と名乗る少女を斬る彼――
――しかし、彼女に傷はなく、彼の持っていた剣の方が折れていた――
(剣が当たる一瞬だけ、彼女の皮膚の色が変化したような……何か関係があるのか?)
「まずは笑顔で自己紹介! ほら、ちゃんとしなさい!」
「苦笑いで人殺しって言うやつは初めて見たぞ……なんか、ごめん」
「彼の人殺しって言葉も気にしないでね。キリヤ君、人なんて殺したこと一回もないんだから」
「キリヤ君、私を何回も殺そうとして失敗してるもん。だから、キリヤ君の言葉を言いかえるなら、人を殺せない人殺しさんって感じかな?」
――再びどこからか剣が現れ、翡翠に向かって斬りつけ、その刃が折れる――
「おぅ……その機械、真っ二つにしてもいいか、オイ?」
――言葉の途中でキリヤの回し蹴りが透の側頭部に炸裂する――
「あーもう! 話の本題に進めねえだろうが! いい加減にしろ!」
「下らないボケは置いといて、『奴等』のことだよ。お前、本当に何もしらないのか?」
「……あぁ、俺か。確かに、何も知らない。会ったこともない。あと一応、俺は永道透だ。で、こっちのウィルスがニサコ」
「その機械に名前付けてんのかよ、意味分かんねえな……しかし、会ったこともないっつーのはおかしな話だな。事実、さっきから『奴等』がやって来ない。この辺りにはいないってことなのか?」
――透が振り返ると、そこには一つの歪な物体が立っていた――
――鉄パイプや鉄筋が無造作に組み合わされ、人のような形を成す――
――形容するなら、その姿はまるで『化物』であった――