「それにしても、まだ届かないのかな。俺が楽しみにしているゲームの最新作」
「時間は……正午過ぎか。配達に時間がかかっているのかな?」
「いつもご苦労様です……」(あれ? この人が抱えているダンボール箱……真っ黒だぞ。焦がしたわけではないだろうし、何かのキャンペーンだろうか?)
「はいはい、サインですね……永道 透[ながみち とおる]、と……」
「……箱に対するコメントもなく普通に帰っちまったぞ……」
「うーん、サイズ的には俺の注文してきたものと大差ないし、変に疑うのも良くない気はするが……偶然いつもの茶色いダンボール箱が無かったからこの黒い箱に変えただけか?」
「いや、もしかしたらこの荷物は間違いで俺の所に届いてしまったものかもしれない。少し待って本当の俺のゲームが届くかどうか確認しよう」
「……ハッ! ネットサーフィンをしていたらいつの間にか長い時間が経っていた……しかし配達の人が来る気配はないな。とすると、あの荷物がやはり……?」
「……まぁ、箱の色が違うくらいでビビってても仕方ないか。それより半年以上楽しみに待ってたゲームが出来るんだ、勇気を出さなきゃな」
「……やっぱり杞憂だったか。パッケージも、俺が注文したものと同じ。何かの偶然でこんな変な色の箱で送られてきたんだろうな。全く、二時間もプレイするのが遅れたじゃないか」
「嘘だろオイ……俺の三か月分の貯蓄を無駄にしないでくれよ……?」
「いや、大丈夫だ。俺は焦っているだけ……深呼吸だ。落ち着けば問題は時間が解決してくれる」
「飛行機でも墜落したのか? いや、すぐ爆音が発生したってことは、爆発事故が起こったんだ。キッチンで何かやらかした人がいるのか――っていうか! こんな大きな音がするってことは、すぐ近くで起きてるじゃないか!」
「まずいぞ……ゲームなんてしてる場合じゃない。下手すればここに爆発の影響で起きた火事の火がやってくるかもしれない。まずはDVDを抜い――あぁぁあ!?」
「俺のパソコンが……壊れている……。さっき大分揺れたせいで、床に落ちたんだ」
「かろうじて、スマホは無事か。DVDの方は……あ、駄目だ。真っ二つになってて、使い物にならない」
「最優先は身の安全……お金は机の引き出しの中だ。とりあえずスマホとお金さえあれば当面は大丈夫だろうか」
「よし、とにかく外に出るぞ! 考えるのはそれからだ!」
「ッ!? ドアが開かない……くそっ! 何かがつっかえてるのか?」
「仕方ない、窓から出るか……いつもはカーテンを閉め切っているせいで時折窓の存在を忘れるが、今回ばかりは窓があることに感謝するしかないな」
「ここは二階だけど、飛び降りても大きな怪我につながりはしないだろう。ねんざするのがいいとこだ。よし、カーテンを開け……て……」
「な、なんだ……これは? 俺は、夢でも見てるのか……?」
――視界に広がるのは、コンクリートや木材などが混ぜ合わさった、瓦礫の山――
――まるで全ての建物がダイナマイトで解体されたかのようだ――
「幻覚、かな? まぁ、昨日ちょっと夜更かししたし、さっきまでパソコンの前に居座ってたしな……」
「と、とりあえず外に出ればいいかな……? そうだよな、外の空気を吸うのがいいよな」
「二階から飛び降りるっていうのは、なんだか童心に帰るような雰囲気が……別にそこまで歳をとっている訳ではないが……よっ……と」
「うわぁ……本当に、瓦礫しか見えない……さっきの爆発音で何が起きたんだ? ……そもそも、これだけの衝撃によく俺のとこのボロアパートが耐えられたな。奇跡としか言いようがない」
「せっかくだし、ボロアパートの勇姿ってやつを――」
――振り返った途端、ガラガラと崩れる音。二階建てのアパートは、他と同じ惨めな瓦礫へと姿を変えた――
「なんつーか、予想外の自体が起き過ぎると、一周回って冷静になってしまうってのは本当みたいだな。……どうしようもなくて唖然としてしまうって方が正しいか」
「まさか、今の一瞬で世界が滅んで、この世界には俺しかいません、みたいな感じじゃないよな? 俺みたいなひきこもりな人間が生き残っても、ろくなことないぞ……?」
「……さすがに考えすぎか。しかし、辺りを見渡しても、同じような廃墟ばかり……」