瓦礫の道中にて。

文字数 3,807文字

「……もう一度聞くけど、お前は何なんだよ?」
「お前じゃない! ニサコ!」
「……じゃあニサコは何者なんだよ?」
「ニサコはー、えっとー……ニサコなのだ!」
「駄目だ……コイツアップデートのせいで馬鹿になってる……」
「馬鹿じゃないもん! ニサコだもん!」
「……正直お前のおかげで俺は今の状況がなんだかそこまで大変じゃない気がしてきたよ」

「そうなの? ニサコすごい!」

「逆なんだけどなぁ……っていうか、スマホのバッテリーとか大丈夫なのか? 結構電池とか消耗しそうなんだが」

「だいじょーぶ! ニサコは電池とか消耗しない! ばっちりなのだ!」
「そうなのか……そもそも電池の消耗を理解しているかどうかなんだが……」
「それぐらいニサコにだって分かるのだ! 電池さんが元気じゃなくなることなのだ!」
「なんだろう、回答が幼稚だ……」
「えへん!」

「いや褒めてねえよ?」

「褒められてない! えへん!」
「……なんか、悪かったよ。ごめん」

「謝られちゃった! ニサコもショック!」

「まぁ……そんなことより、スマホの電波はもう圏外じゃなくなってるのか?」

「んー? 電波はー、圏外! ……でも、なんでそんなこと聞くのだ?」
「お前のその画像で電波状況の表示が見えないんだよ」
「お前じゃない! ニーサーコ!」
「そこにこだわるのか、ニサコよ……」
「ニサコこだわりポイントその一なのだ」
「じゃあ、その二は?」

「今後追加予定なのだ」

「うわぁ、フリーダム」
「フリーダム・ニサコなのだ……ニサコはフリーダム……」
「……はぁ。ニサコは無視しておくとして、この辺り、草木や鳥さえいないってのはやっぱり不気味だよな。普通ならもう少し植物が生えててもいいんだが……」
「鳥って何なのだー?」
「あぁ、知らないのか……鳥っていうのは、羽があって、空を飛ぶ生き物だよ」
「羽?」
「そこから……? えっと、何だろう……パタパタと動かせるやつ?」
「ほえー……ニサコにも羽はあるのだ?」
「いや、無いよ」
「うーん……じゃあニサコも羽欲しいのだ!」
「え? 生やせるの?」
「生やせる! ……多分!」

(これ多分生やせないな……)「まぁ、頑張れ。……ん? 今何か影が差したような……」

「ニサコの心に影が差す! ダーティ・ニサコ!」
「なんで羽は知らないのにそういう無駄な言葉は知ってるんだよ……」
「そうじゃなくてさ、今空を何かが飛んで行ったような……まぁ、何も見えないし気のせいだと思うけど」
「ニサコも空飛びたいー!」
「あぁ……もう飛べよ。お前……ニサコなら飛べるって」
「よし、今から空を飛ぶのだ……ニサコ、トランス・フォーム!」
「え? ちょ、待てお前、スマホが変形してるんだけど!」
「ニサコ・空を飛ぶモード! 空を飛ぶのだ!」
「ゴーゴーニサコ! それゆけニサコ!」
(……飛べてねえよ……跳ねてるだけだよ……)
「しかし……スマホが二足歩行のロボットっぽくなるとは……なんだか怖いな」
「怖いのだー?」
「元々変形するはずのないスマホが変形するっていうのはな……どう改造したんだよ……」
「んー……なんかこう、ニサコパワーなのだ?」
「ニサコパワー……」(馬鹿っぽいが……本来のウィルス的な性能は失われてないのかもな……)
「しかし、ずっと歩きっぱなしで疲れたな……どこかに柔らかい地面の休憩できる場所があればいいんだが……」
「柔らかい方がいいのだ?」
「まぁ、昨日は固い地面で寝たせいで疲れがほとんど取れてないからな。ベッドぐらいに柔らかい地面が欲しい……」

「よーし……もう一度、ニサコ・トランスフォォーム!」

「その掛け声は必要なのか……?」
「柔らかくなってみたのだ!」
「本当か? 形を変えるだけならともかく――いや形が変わるだけで大分おかしいんだが――ほぼ金属でできあがってるスマホが柔らかくなるなんて……」
「触ってみればすべてが分かるのだ!」
「それもそうか……なんだか一人でこんなことをしてると思うと、悲しくなってくるよ」
「えー? ニサコといっしょにいるのに?」
「お前はウィルスだろうが……それと、全然柔らかくなってないぞ。叩けば音が鳴るレベルの硬さだ」
「あれー?」
「はぁ……無駄に労力を使った気がする。歩くのも面倒だが、何もないこの一帯から一刻も早く抜け出さなきゃいけないってのが……」
「ここから抜け出したいのだー?」

「そりゃそうだろ。このままここにいたら水とか食料とかが無くて死ぬだろうし」

「死ぬ……?」
「……あー。まぁウィルスには分からないか。とりあえずすごく悪い状態になるってことだよ。そうならないようにするのが普通で、一番大事ってことだ」
「そうなのだー……?」
「別に俺はそういう話をしたいんじゃないんだ、これ以上俺は何も言わないぞ。とにかく、俺は瓦礫だらけのこの地帯から抜け出すんだ」
「分かったのだー。……瓦礫だらけのこの地帯……『瓦礫いっぱい地帯』と、ニサコは名づけるのだ!」
「お前、のんきだな……あとそれなら『瓦礫地帯』の方がマシだと思うぞ」
「そうなのだー?」
「そうなのだ……っておい、お前がさっきからのだのだ言ってるせいでちょっとうつったぞ」
「そんなこと言われても、ニサコが学習したのはこの喋り方だけなのだ」
「つまり俺のスマホとパソコンにそういう喋り方の文章しかなかったと……つまり俺のゲームの好みが問題だと……?」

「いやまて、おかしいぞ。確かに俺のよく遊ぶゲームのヒロインはそんな感じの喋り方だが、それと同じくらい主人公も喋っているはずだ。そっちは学習しなかったのか?」

「そっちは喋ってなかったから学習しなくていいと判断したのだ!」

「どうしてそうなる」

「トオルは喋る、ニサコも喋る、つまり喋る方が正しい!」
「……やっぱお前は馬鹿だわ」
「また馬鹿って言った! ニサコはニサコだもん!」
「はいはいそうですね」
(……まぁ、ここまで自然に会話できるのはすごいんだが……喋り方や声質に引っ張られてどうしてもこいつから馬鹿っぽいイメージが拭えないな)
「あ! ニサコいいこと思いついた!」

「何だよ」

「ニサコの内に秘められし奥義! 『ニサコギプス』!」
「何だそれ。っていうか、お前そういう無駄な単語だけは知識あるよな」
「むむむ……分かったのだ! 北の方にいーっぱい進んだところに、森みたいな場所があるのだ!」
「え? まじかそれ!?」
「『ニサコギプス』に嘘偽りはないのだ……これは絶対なのだ……」
「な、何か急に嘘くさくなったが……信じるぞ、いいな?」
「どーんとお任せ、なのだ!」
「よし、分かった……じゃあ、北はどっちだ?」
「こっち! なのだ!」
「左……?」
「違うのだー。こっち! なのだ!」
「左じゃねえか」
「そうじゃなくて! こっち! なのだ!」
「さっきから左しか指してねえよ! 同じ方向しか指差されてねえよ!」
「うむぐぐぐ……太陽さんが昇る方向の左なのだ……!」
「ああ、そうだな……太陽はこれっぽっちも見えねえけどな……!」
「綺麗に太陽が隠れてるせいで、影も曖昧だし……どうしたもんか……」
「方位磁石を見つけるのだ!」
「おう、じゃあスマホにある方位磁石のアプリ起動しろよ」
「そんなアプリが……!?」
「知らなかったのかよ!? お前が方位磁石って言葉を言ったからてっきり知ってるもんだと思ってたよ!」
「だってこのアプリ、『コンパス』って書いてあるのだ」
「嘘だろ……!? コンパスと方位磁石のニュアンスで分からないのか……!?」
「まあいいや……で、起動しないのか?」
「もう起動してるのだ」
「わー、ホントだー。背景の色が黒くなってるー。よしそこから退け。一度その立ち絵を削除しろ。お前のせいで方角が見えない」
「そんなこと言われても、ニサコには退く場所がないのだ」
「別に立ち絵を削除してもまた表示させればいいだろ」
「ハッ! ……それは盲点なのだ」
「分かったから早くしてくれないか。本気で疲れてきた」
「疲れてるのだー? じゃあニサコが元気になるニサコダンスを……」
「要らねえよ! その方角が見れれば元気になるよ! 早く退いてくれよ!」
「じゃあニサコダンスの後に、退場すれば、効果倍増……!?」
「あーハイ! もう元気! 元気いっぱいだよー!? ホラ退け、今退けすぐ退けェ!」
「了解! なのだー」
「……ハァ、ハァ……柄にもなく大声で怒鳴っちまった……」
「北は……こっちか。真逆じゃないだけまだマシって所かな。とりあえずそっちに向かって真っすぐ進めばいいんだな。瓦礫の積まれていない場所が真っ直ぐだから、迷うこともないだろう」
「見終わったのだー?」

「ああ、見終わったよ。……仮に見終わってなかったら、どうするつもりだったんだ?」

「え? うーんと……ニサコダンス?」

「推すなぁニサコダンス……一体どんなダンスなんだ?」
「えーと、こんな感じの……こんな感じのやつ!」
「あー深刻な立ち絵不足。ちょいちょい左を指す絵が挟まるのはどうにかならんのか」
「これが一番それっぽいポーズなのだ」
「どんなポーズだ……」
「あ、それと一つお知らせがあるのだ」

「あ? なんだよ」

「後ろから刃物を持った何者かが接近してるのだ」

「まじかよ。逃げないとまずいな。……距離はどのくらいだ?」

「一メートルくらいなのだ」

「……なぁニサコ、その人物はいつごろから見えてたんだ?」

「ニサコ・トランスフォームの辺りから」

「……早く言ってくれねえかな。俺、死ぬぜ……?」

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登場人物紹介

[No Image]
特にイメージの決まっていない奴用のもの。
主にモブに使われる。

[永道 透(ながみち とおる)]
ひきこもり系人間。趣味はゲーム。
運がいいことが取り柄。

[ニサコ(にさこ)]
すごいコンピュータウィルス。元気いっぱい。
外見、声、話し方のベースはトオルの持っていたギャルゲーが元。

[キリヤ(きりや)]

基本的に調子に乗ってる人。中二病がちょっと入っている。

感情の波で発言がコロコロ変わる。

[雨野 翡翠(あまの ひすい)]

おせっかい焼きさん。好きな食べ物は苺。

(物理)が一番似合いそう。

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