文字数 1,627文字

オムライスできたよー

お絵かきヨロシク!
はーいっ!

ではアネゴ、いきましょうー!

はにがお手本を見せてあげますからねっ!
わー、かわいいー!
見事だ。
次はアネゴの番ですよ。

あちらのお嬢様が、オムライスを注文されましたので~
(あっ、また来た!)
僭越(せんえつ)ながら、わたくしがお勤めを果たさせて頂きます。
よ、よろしくお願いします……
……あれ、ケチャップが出てこないわね
はに、さっき渡した新しいケチャップだけど、フタの中のシールは剥がした?
……あ。

剥がしてなかったかも、にゃ……?
(入口が詰まっているのか……??)
あっ、そんなに強く押しちゃ――!!
……。
あちゃー……

ケチャップまみれ……
というかこれ、どうみても……
全員(返り血にしか見えないっ!!)
……大変失礼をいたしました。

服は汚れませんでしたか、お嬢様。
あ、はい、私は大丈夫です……。
アネゴ、いったんキッチンに戻りましょう。

はやくケチャップを拭き取らないと。
ああ……

ふたりとも、お嬢様のことを頼む。

(とぼとぼ……)
……あんなに小さな背中のアネゴは、初めてみたわ……。
どうしよー、はにのせいでー……
ふえーん。

アネゴ、ごめんなさーい……
いや、お前のせいじゃない。俺が不注意だっただけだ。

……そもそも、「一日だけ手伝いたい」と考えた俺が浅はかだったのだろう。
お前たちは人間に恩返しをするために、色々な勉強や訓練を積んできている。
だからこそ、お客さんを笑顔にするサービスが出来ているのだ。

それを無視して、一日だけならと舐めてかかった俺に、きちんと働けるわけもない。
気にすることはありませんよ、アネゴ。

最初は誰だって、上手く出来ないものですからっ
そうですよ、アネゴ。

はになんて、
転んでお客さんに水をぶっかけるわ、
ケチャップでお絵かきしながらヨダレを垂らしてしまうわ、

そりゃもう大変だったんですから。
えっへん!
褒めてねーよ!!
でも、ひかりの言う通りですよ、アネゴ。

最初から上手くできる猫なんていませんし、恩返しをしたいという気持ちさえあれば、ここで働くことが出来るんですから。

少しずつ覚えていきましょう!!
…………。

俺は生まれてこの方、誰にも頼らずに一匹で生きてきた。

人間なぞに興味はなかったし、お前たちのように人間に媚を売る同族を、心の中でバカにしていたりもした。
……。
……冬のことだ。
縄張りを散歩していると、カラスどもに悪戯をされている人間の子どもを見つけた。

別に助けようと思ったわけじゃない。
何となく暴れたい気分だったから、カラスどもに喧嘩をふっかけてやった。

奴らに遅れを取る俺ではないが、人間の子どもが余計なタイミングで飛び出してきてな。
気を取られた俺は、奴らのくちばしに脇腹をぐっさりやられてしまったってわけだ。
騒ぎに人間たちが集まってきたことで、難を逃れることができた。
致命傷とまではいかなかったが、その場を走って離れることは出来なかった。

もう一度襲われたら、ひとたまりもないだろう。
死を覚悟したとき、俺の体がすっと持ち上げられた。

俺の喧嘩の邪魔をした、人間の女の子だった。
人間たちの手で応急処置を受けた俺は、傷が癒えるまでの間、女の子の家の世話になっていたのだ。
アネゴにそんなことが……知らなかったです。
もっとも、飼い猫など性にあわんからな。
傷が癒えたら、すぐに家から逃げ出してきた。

……礼のひとつでも言おうかと思ったが、それは叶わないことだ。
それで、絶対領域のことを知って……
ああ……
女の子に会えるとは思っていなかったが、人間に借りを作ったことに我慢が出来なくてな。

だが、今日やってみてわかった。
俺はお前たちとは違う。
人間に恩返しをしたかったのではなく、単に自分のワガママを通したかっただけなのだ。

俺にここで働く資格はない。
迷惑をかけてすまなかった。
そんなことはありませんよ、アネゴ!

あんなに一生懸命に働いていたじゃないですか!
あっ……

2名様、ご入域でーす! 

いらっしゃいませー!
 
~♪
っ!?

あの子は……!!
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