俺はダークヒーロー・サラリーマン

文字数 1,471文字

 ダークヒーローとは――アンチヒーローやダーティーヒーローとも呼ばれ、一般的な社会的正義や倫理観を持つ正統派ヒーローとは異なるものの、独自の信念と正義の元でヒーロー活動を行う者のことである。
※ヒーローと敵対関係になり倒されて終わるか、改心してヒーローと仲間になることがほとんどである。

 そして俺はダークヒーロー・サラリーマンである。

 普段はスーツの似合うしがないサラリーマン。最近は頭が禿げ上がり、ビール腹も膨らんできてきた――何処にでもいるような、ただのおじさん。

 しかし俺は今、ヒーローと戦っている。

 バシッ

 俺の右手は、顔面目掛けて飛んできたレッドの拳を捕まえた。そして彼のその細い腕をガッシと掴み、

 エイ!

 背負い投げをした。レッドがガッハッと肺から息を吐きだした。これでしばらく動けないだろう。

「おい、サラリーマン。いいかげん改心しろ!」

 グリーンが俺に叫んで、バズーカを構えている。

 ドーン

 アイツ……俺の返事なんか聞かずに打ちこみやがった。迫りくるロケット型の弾丸がスローモーションで近づいてくる。否、スローモーションではなく俺の処理速度が上がっているのだ。俺は最小限の動きでそれを躱した。地面に着弾したそれは、もうもうと土煙を一帯に立ち上がらせる。

「っく……やったか?」

 グリーンの声が聞こえる。ヤったかじゃない、環境破壊をヤメロ。

 「油断しないで」

 落ち着いた女性の声、これはピンクだ。土煙のせいで視界が悪いが、声が近くに聞こえた気がした。俺は警戒する。

 気配!

 俺は咄嗟に半身になる、と、

 ビュンーー

 俺の顔面の横を何かが風を切って通り過ぎて行った。ピンクが高速で手刀を繰り出しているのだ。俺は繰り出されえるピンクの手刀を気配だけで躱し続ける。そして――捕まえた!
 グイっとピンクを引き寄せると、

「キャーーーーーーーーーーー」

 突然に大音量の悲鳴が俺の耳をつんざいた。ピンクの悲鳴だ。耳を押さえてその場に俺は倒れこんでしまう。

「この……セクハラおやじ!」

 ピンクの罵りが頭上から浴びせられる。そして近くから、

「パワハラ、おやじ……」

 レッドのよわよわしい声が小さく聞こえた。どうやらまだその辺で倒れているようだ。

「観念したか、ダークヒーロー・サラリーマン」

 倒れこんだ俺をブルーが地面に取り押さえた。俺は身動きできない。

「サビ残をもうしないと、誓え!」

 こう言われた。

「仕事が……おわら、ない……」

 俺は何とか声を絞り出した。なんでこんなことになってしまったんだろう。こんなはずじゃなかった――

「俺だって、俺だってなぁ……」

 俺の行き場のない気持ちが溢れ出す。

「俺だってサビ残なんてやりたくないんだよおおおおおお」

 俺の叫びは虚空に寂しくこだまし、

「でも仕事はっ――! 残業時間の上限を超えてしまったとしても、誰かがやらなくちゃいけないんだ。いけないんだよぉ……」

 俺の鼻水のすする音だけが、暫くの間辺りに響いた。

 ダークヒーローとは――アンチヒーローやダーティーヒーローとも呼ばれ、一般的な社会的正義や倫理観を持つ正統派ヒーローとは異なるものの、独自の信念と正義の元でヒーロー活動を行う者のことである。
※ヒーローと敵対関係になり倒されて終わるか、改心してヒーローと仲間になることがほとんどである。

 この後どうなったのか――それは読者の想像に任せるとしよう。
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