【chapter15】夢と現実の狭間

文字数 733文字

その夜、久しぶりに夢を見た。

数年前から繰り返し見る景色と足あとの夢だ。

私は会えない王子を想い(ふみ)を待ちながら塔の窓から見える隣国のお城を眺めている。

そして、彼を想いながら客間で民に抱かれるのだ。

「!!!」

夢の中で私が何かに気づく。

王子は彼。塔は私の自宅。

民はサイトで会った男性たち。文はメール。客間はラブホテルだ。

私は、滅多なことでは自宅に人を招き入れないし泊まらせることはまずない。

ところが、彼だけは違った。

私は前世で彼と出逢っていたのだ。そして、今世再び巡り会った…。

夢の中で私が叫ぶ。

「王子を信じて!民とは交わらなくても大丈夫!」

「王子と愛語(あいかた)ることを願って!」

夢の中で私はイメージする。

私が真っ白なドレスを着て塔の窓辺に(たたず)んでいると白馬に乗った王子が城にやって来た。

ゲイトキーパーが重厚な扉を開けると、ほどなくして王子の足音が塔の石段を駆け上がってくる音がする。

部屋のドアがノックされた。

そっと扉を開けると、そこには愛おしい王子が立っている。

「姫、迎えに来たよ。」

そう言って王子は美しい宝石が煌めくティアラを私の頭の上に乗せた。

スゥー…。
自分の呼吸音で目が覚めた。

天井を見上げると見慣れた壁紙が目に入る。

(また、あの夢だ…。)

数年前から繰り返し見る景色と足あと。

私は夢と現実の狭間から意識を取り戻すために深く深呼吸をした。

仰向けの身体を横に向けると彼が目を覚ます。

腕を伸ばして私を抱きしめ

「姫、おはよう。」

そう言って私のおでこにキスをした。

彼が私を姫と呼んだのは、この時が初めてだ。

夢と現実の狭間で、真っ白なドレスが私の身体を包みこんだように感じた。

窓から差し込む朝陽が私の頭上に光の輪を創る。

それはまるでこれから起こる何かを告げるかのような(きら)めきだった。




〈了〉
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