第10話

文字数 1,585文字


 アビレーの中心街から少し離れた、一見して何の変哲もない住宅街区の中に、その家はあった。
 バンデーラはサングラスとウインドシールド(フロントグラス)越しに、下階がベースメント(半地下)になっている2階建ての住宅を見て、外からドアを開けて助手席に滑り込んできたマニャーニに質した。

「あれが彼女の家?」

 シートに落ち着いたマニャーニは、頷いて応じると、状況を説明し出した。

「外の車に2人、家の中には少なくとも3人。それに…――」
 家の前の道を大型犬種のリードを引いて横切って行った〝マッチョな男〟(スポーツマンタイプ)を目で追いながら続ける。
「――あの犬を連れた男、1時間前から周囲を回り続けてます」

「じゃあ、こちらの動きは察知されてるわね……」
「……でしょうね」

 バンデーラの懸念にマニャーニは慎重に肯いて返した。
 が、それで決断が見送られるということはなかった。

「いいわ、やりましょう」

 腹を括ると、バンデーラは無線で各配置に確認を飛ばしていく。

「1組、準備はいい?」 ――1組はトゥイガーの率いる3人。『……1組、準備よし』
「2組?」 ――2組はフランセンが率いている。『……よし』
「3組は?」 ――サンデルスとベアタ、そしてパウラ。『……3組、よし』

 マニャーニの監視組とバンデーラの直率する組を含め、全部で5組――合計13名が、〝突入〟の合図待ちとなった。


「よし。かかれ――」

 バンデーラの号令一下、待機していた各組の車両は急発進して住宅を囲んだ。
 チームは一匹の獣となって、正確に迅速に、適切な行動をしてみせた。

 2組が犬を()く〝マッチョな男〟のすぐ脇に車を付け、ドアを開け()()、銃を突きつけて叫ぶ。「PSIだ! 両手を上げろ!」 抵抗はなかった。
 1組と3組の各車は、玄関正面の車道に置かれていた車を挟み込むように停車、素早く車外に出たサンデルスが暴動鎮圧銃(ライアットガン)を向けて動きを封じる。「――手は頭の後ろ! 手を頭の後ろに組め!」

 1組の車から暴動鎮圧銃(ライアットガン)を手にしたトゥイガーと打撃衝角(バタリングラム)を抱えたもう一人が、玄関への階段を駆け上がっていく。
 暴動鎮圧銃(ライアットガン)を車窓に向けたサンデルスが、ベアタにチラと視線を遣り、トゥイガーらの方へ顎をしゃくって〝支援〟(バックアップ)に行けと合図する。ベアタは階段へと駆けた。

 打撃衝角(バタリングラム)が玄関ドアに叩きつけられる。住宅用のちゃちな錠前は基部ごと吹き飛び、ドアは内開きに大きく弾け飛んだ。
 トゥイガーが暴動鎮圧銃(ライアットガン)を胸元に引き上げつつドアへと滑り込んでいき、ベアタとパウラがそのすぐ後ろに続く。

 生活感の感じられないリビングのソファには、青いドレスシャツ(Yシャツ)の脇の下にホルスターを吊るした男が2人いた。

「やあ、諸君――」 トゥイガーが二人に銃口を向けてニヤリと笑う。「()()()()()よくやるよな?」

 2人は、ドアが蹴破られた瞬間には、もう両の手のひらを正面に向けて動きを止めていた。
 ベアタとパウラが、2人から銃を取り上げる。

 混乱なくリビングの無力化がなされたので、バンデーラはベースメント(半地下)へと下る階段があると思しきドアを開け、一人で降りていった。この期に及んで抵抗……ましてや発砲沙汰はないと踏んでいるのだろう。
 パウラに顎をしゃくられ、パウラは奪った銃を〝元の持ち主〟から遠い位置の床に置いて後を追った。


 雑多に物の置かれた下階は、明かり採りの窓こそあるものの、控えめに言って物置のような状態だった。
 奥に明かりが灯っていて、バンデーラは真っ直ぐそちらへと向かっている。

「そこで止まれ」

 声がして人影が動いたので、ベアタは銃を構えるべく、バンデーラの脇から前へと出た。

 銃口の先にはダイニングセットの置かれた空間があって人影が3人ある。
 1人は男で、テーブルの脇に立ち、構えた銃口をゆっくりと下ろし始めている。
 テーブルには2人。一人はルカ・レーリオで、その(はす)向かいに座る暗い肌色の美女は、ジーン・ラッピンだった。
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