第52話
文字数 1,633文字
サンデルスは
ああ……と、ラッピンは頷いた。
一度振り返って入口の扉となっていた
左の壁の方が、若干、右側よりも隙間が広くなっていた。それでも
回り終えると、左の側――先にサンデルスの消えた側――に空間が続いていて、少しかびの臭いがした。
――
そのまま身体を滑り込ませた。2メートルくらいで行く手が塞がった。
「……後ろです。そのまま
そのサンデルスの声に従って後退ると、右肩の後ろが壁の角に当たりはしたものの、下がることができた。
「――いいですよ。こっちを向いてください」
その場で踵を返すと、携帯電話の液晶画面の淡い光に照らされたサンデルスの顔が視界に現れた。
サンデルスが手にする携帯画面の燐光に照らされた空間は、幅は
「行きましょう」
そう頷いてサンデルスが身体の向きを変え、歩き始める。背中越しの15メートルほど先に、うっすらと光が見えた。
「……上着は脱いだ方がいいです」
先を行くサンデルスがそう言ったのにラッピンは怪訝となって、少し間を置いて理由を訊いた。
「なぜ?」
「〝良い服〟でしょう? サンデルスの邸の周辺でそれは、いかにも
ああ、とラッピンは得心した。
前準州知事を訪ねるのに〝一番
ラッピンは狭い抜け道の中で羽織っていた上着を脱ぎ、うなじの上で纏めていたソバージュの髪を解いた。サンデルスは、わざわざ振り見やるようなことはしなかったが、気配で察したようである。
そうしてほどなく出口に辿り着くと、そこも裏手の
10分の後には、サンデルスの車は
「
車を高速に乗せたサンデルスが、助手席のラッピンに告げた。アビレーからトアイトンまで、車で4時間ほどである。今からだと到着は夜になる計算だ。
「今日はあなたが居てくれて助かった」
「まさかおじいちゃんが
サングラスの下に苦笑を浮かべたサンデルスに、ラッピンは言った。
「素敵なお
「〝
そんな耳当たりのよい彼の声音に、
「〝地球から帰ってきたときの言葉〟って(……なに)?」 何気のないふうを装ってラッピンは訊いた。
「――…〝想いは今も変わらない〟って」
「…………」
答えが返ってくるには、少しの間があった。
「――…〝僕はフェルタ人〟」
「え?」
「〝僕はフェルタ人だ〟。そう言ったんです」
サンデルスの家に生まれたラフは学生時代を地球で過ごし、そこで教育を受けた。
フェルタで最も栄えている邦アイブリーでも有数の名家に生まれたラフは、〝地球人の様に〟振る舞えば、そこで受け入れてもらえることを知った。
だが、そうして地球人の中に居ようとも、決して溶け込むことの出来ない自分を知ったのだった。