第4話

文字数 1,075文字

       4

 途中のコンビニで買ったおにぎりとサンドウィッチをデスクの上に広げた。マカロンを尾行して歩かされたおかげで、胃のムカムカはおさまっていた。私はいつものようにコーヒーを淹れることにした。
 淹れたてのコーヒーを入れたマグカップを持ってデスクに戻り、コーヒーをひとくち飲んだ。事務所での最初のルーチンだ。次にパソコンの電源を入れた。
 朝倉からのメールはなかった。
 警察庁の官房参事官の朝倉は、不可思議な現象によって引き起こされる事件を扱う裏の顔を持っている。その手先が私だった。
 携帯が鳴った。エクレアからだった。
「いまどこ?」
 電車の音が聞こえる。どうやら駅でかけているようだ。
「事務所だ」
「戻ってきたの?」
「ああ」
「どうだった?」
「言われた通り東口を見張った。五分もしないうちに現れたよ。わからないようにつけたさ。マカロンはすぐに左に曲がり、大きな通りを直進した。五分ほど歩いたかな。小さな川にぶつかった。そこの橋を渡り、さらに直進した。さきに交差点のない十字路にぶつかった。その角にコンビニがあって、そこで立ち止まった。こんな説明でわかるか?」
「わかるわ。続けて」
「右側に小学校がある。ちょうど下校時間だった。マカロンはひとりの小学生をつけた」
「待って。本当に小学生をつけたの?」
「間違いない。四年生か五年生ぐらいの少女だ。マカロンはその少女が自宅に入るまでつけた。表札をみたら真野とあった。心あたりはあるか?」
「真野?……ないわ」
「あんたの言う通りマカロンの様子は変だ」
「そうでしょう……それで、そのあとは?」
「ちょっと油断した隙に見失った」
「もしかしたらバレたのかもね」
「そうかも知れない」
「まあ、いいわ」
「このあとどうすればいい?」
「明日もお願い。同じ時間に東口に現れるはずだから」
「わかった。乗りかかった船だ」
「頼もしいわ。じゃあお願いね。あ、そうだ。いうことがあったわ」
「なんだ?」
「さきほど気になることがあったのよ。マカロンがね、お上とコソコソと話をしていたのよ。仕事の話ではないわね」
「なんでわかる?」
「仕事の話だったら、私にも話がくるもの」
「それは気になるな……」
「時間は、ちょうどあなたがマカロンを見失ったあとぐらいになるかしらね」
「まさか、マカロンはお上からの密命を帯びて動いているってことはないだろうな?」
「たぶんそれはないと思うけど……」
「まあ、考えてもしようがない。ではまた明日」
 携帯をデスクの上に置いてマグカップを手に取った。興味が出てきたことだけは間違いない。さて、どうなるか。思わずひとりごとが出た。
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