第10話

文字数 1,445文字

       10

「いまどこ?」
「蒲田」
「事務所ではないの?」
「いろいろあってな」
「あなた、浮気しているんでしょう」
「なんの話だ」
「最初の依頼は私よ」
 マカロンからの依頼がバレたのか?
「これにはいろいろと事情があってな」
「さっきお上にいわれたのよ。マカロンに気を配るようにと。そのときにあなたの名前が出たわ。あなた、マカロンのピンチヒッターなんですってね」
「やはり知っているのか?」
「ええ」
「では、マカロンが依頼した内容も?」
「もちろん知っているわ」
 エクレアはなんのために電話をかけてきたのか? 文句? 嫌がらせ? まさか激励? 頭のなかで疑問符が踊った。
「もしかしてこれは怒りの電話か」
「なんで?」
「マカロンに鞍替えしたからだよ」
「そこまでケチな料簡は持っていないわよ」
「それを聞いて安心した」
「で、どうなの状況は?」
「用件はそのことか?」
「そうよ」
「犯人はまだわからない。そもそも警察よりも先んじるなんてでけるわけがない」
「ずいぶん弱気じゃない」
「弱気にもなるさ。犯行を阻止するなんて荷が重いよ」
「あなたらしくもない」
「聞いているんだったら知っていると思うけど、田村瞳ちゃんを殺した犯人は、若い男だということしかわかっていないんだぜ」
「でも、あなたのことだからヒントはみつけたんでしょう」
「まあね」
「教えてよ」
「ついいましがた知ったばかりなんだが、犯行現場の公園で、事件があった三日ぐらい前に、若い男と小学生ぐらいの女の子ふたりが揉めていたという情報を得た」
「女の子ふたりのうちのひとりが田村瞳ちゃんだと思うわけね」
「その可能性があると思う」
「なかなか興味深いわね。それで、その事件とマカロンがどうつながるの?」
「うん?」
「だから、どうつながるのよ?」
「なんでそんなこと聞く?」
「知らないからよ」
「話がよくみえないな」
「だから、マカロンがどうかかわっているのか、ということよ」
「本当に知らないのか?」
「知らないわよ」
「もしかしてカマをかけたのか?」
「バレた?」
「クソ。やられた」
「実をいうと、あなたがピンチヒッターに選ばれたということしか聞いていないのよ」
「切るぞ」
「ちょっと待ってよ。そこまで話したのなら最後までいいなさいよ。それで、どうなの?」
「探偵には守秘義務がある」
「私はあなたの命を助けている——」
「二度だろう」
「そうよ」
「わかったよ。しようがないな……マカロンが被害者の田村瞳ちゃんを冥府に導く道すがらに彼女から懇願されたそうだ。同級生の真野亜美ちゃんを助けてほしいと。犯人が彼女を刺したとき、次はお前の友達の真野亜美を殺すといったそうだ」
「なるほど。それでマカロンがひと肌脱いだわけね」
「だが結局、こっちにお鉢がまわってきた」
「しかたがないわ。こっちには厳格なルールがあるからね。でも、マカロンは簡単には引かないと思うけど」
「さすがよくわかっているな。そうなんだ。お上の目を盗んで動いてくれている」
「たとえば?」
「犯行現場の公園で若い男と揉めたのは事実なのか、などいくつか本人に確認してもらっている」
「それはいま?」
「そうだ」
「わかった。私も手伝う。私はお上の気を逸らしてマカロンが動きやすいようにする」
「頼む」
 電話が終わった。用がすんだ携帯をポケットにしまい、あたりを見回した。公園にはだれもいなかった。沈黙の世界だった。
 だれもいない夜の公園は不気味だった。身震いがひとつ出た。寒さだけではなかった。
 急かされるように時間を確認したあと、人通りの多い駅に向かった。
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