ルール・ザ・タイフーンⅡ

文字数 3,852文字

「こころなされよ」
「これよりさきは、たそがれのみち」
「ようせいや、こおにの、ばっこする」
「うちすてられた、ふるきみち」
「くらいゆうわくに、まけてはならぬ」
「さらに、そのさきは、どくろのもり」
「しりょうや、むくろが、さまよう」
「さいあくの、ふきだまり」
「ふういんは、そのおくに」
「ふういんは、そのおくに」
……
……
んん~? どうしたの~?
……まちに、かえるー……
……おれも、かえる……
え、え、え~? かえっちゃうの~?
……
……
で、でもでも、たそがれのみち、いかないと
ふういん、とけないよ~?
……
……
……こわいの~?
こわくないー
こわくない
じゃあ、いこうよ~
……
……
ふういん、といてあげなよ~
といてあげないと、このおじいさん
ずーっと、ひとりぼっちだよ~?
きみたちが、といてあげるまで
ずーっと、ひとりぼっちだよ~?
……
……ひとりぼっちは、さびしいー……
……わかったよ、いくよ……
ほしのまじゅつし
「しんぱいめさるな、まかされよ」
……「しんぱいめさるなまかされよ」
「おお、ありがとうござりまする」
「ゆうかんな、たびびとたちどの」
ろうじんは、なんども、あたまをさげて
まちはずれへと、かえっていきました
……
……
……たそがれのみちを、みてみる……
……みてみるー……
こけむした、きぎや
したばえに、おおわれた
くらいみち、です
みどりの、てんじょうから
ときおり、ひかりが
こぼれています
……
……かえるー……
え、ええ~?
……やっぱり、かえるー
やっぱり、かえるー!
……きょ……たいようのけんし……
かえるっ、かえるー!
こわい、こわいのー、こわいのー!
……
……げーむますたあ
おれたち、やっぱり、かえるよ
ほしのまじゅつしー……
だいじょうぶ、だいじょうぶだから
だいじょうぶ、たいようのけんし
……
とつぜん、もりが
ゆがみはじめました~!
ほ、ほしのまじゅつしー!
まってよ! げーむますたあ!
おれたち、かえるから!
……ゆがんだ、もりは、きたみちを
ふさいでしまいました~
えっ、えっ、や、やだ、やだー!
か、かえるって、いってるだろー!
もう、まえにいくみちしか
のこされていません~
やだー! やだー! えーんえーん!
きけよ、げーむますたあ、おれたち……
あたりから、ざわめくような
わらいごえが
きこえてきたよ~
ひっ!
……おいおい……
もりのきが、うごきました~!
ぎゃー!
もりのきが、うごきました~!
ああ……あ……
もりのきが、もりのきが
もりのきが、もりのきがー!
もともと個人的な趣味を他人とわかちあう気がなく、シミュレーションゲームにしろ誰かと対戦するよりかは、単独(ソロプレイ)で史実上の戦争を検証することに至上の悦びを覚えていたというおじさん。


確かにボードゲームの盤面をひとり眺めては日本酒をチビチビやっていた姿が記憶に残っているが……それはともかく、この新しく出会ったファンタジーを題材とした海外ゲームについては、当初から仲間を集めて普通に遊ぼうとしたのだそうだ。


【たいようのけんし、ほしのまじゅつし】タイプのゲームを一人でプレイするのは困難を極める……どころか、いくつかの例外を除けば不可能に近いから、というのがその理由らしいのだが、ゲーム友だちなどいるはずもなかったおじさんは、自分でもまだ遊んだことの無いゲームにもかかわらず、絶対、ぜーったい、面白いの~! などとうそぶいては、親しいクラスメイトたちを熱心に誘って回ったのだとか。


だが残念なことに、そのうちの誰一人として語られたゲームの概念も魅力も理解できず、というか、そもそも俺たちってこの時期、世間一般では受験生と呼ばれてもおかしくない身なんですが、それについてのコメントをお聞かせ願えますでしょうか? 夏休み? 寝ぼけていらっしゃるのかしら? こちとら夏期講習の予定が詰まっておりますのよ? といった、至極真っ当な反応を返されたそうで……まあ、それはそうだろう。


おじさんの影響でボードゲーム好きになった俺でもそう思うのだから、彼らからすれば何をか言わんや、である。


そんなわけで、受験が終わるまでは~、高校生になるまでは~、身を切るような思いでお別れしたのしたの~! と熱く語られた記憶もよみがえってきた次第でございます。


うん、ちょっと大げさというか、誰とどこで生き別れたんでしょうか? というか、おじさんのダメ人間エピソードがまた1ページ。

ほじのまじゅつじー
ほら、もう、なくな……
はな、かめ、はな、な?
ぢーん、ぢーん、ずずっ
いやぁ~、せんとう、おつかれさん~
これで、たそがれのみちへ
すすめるね~
……
……
ん? どうしたの~?
つーん
つーん
あれあれ~?
つーん
つーん
……
ぴーひょろろー、ぴーひょろろー
……
それでは、さきほどの~
びっくりどっきり、けいけんち~
だいはっぴょう~、ぱふぱふ~
……
……
……
ぴーひょろろー、ぴーひょろろー
……
じゃらららららら~ん
……ぐすっ
……
じゃん!
……
いちまんてーん
え?
は?
いちまんてーん
……いち、まん? いちまん、って?
いちまんてーん
……いつもの、じゅう……
ひゃくばいだ……
ひゃひゃひゃひゃひゃ、ひゃく、ばい?
ひゃく、ひゃく……ひゃくばいだ……
いちまんてーん
こわくても、にげずに
こんなんに、たちむかった、おふたりに~
ぼーなすで、いちまんてーん!
ぱふぱふ~
……
……
ぱふぱふ~
……ぱふぱふー
……はっ?
……ごそごそ、かりかりかりかり……
ははっ? ……わわわ!
……ほしのまじゅつしー?
やった、やったぞ、きょうこ!
おれたち、おれたち、れべるあっぷだ!
……え?
いっきに、いっきに、ふたつも
れべるあっぷだ!
……ふたつ……ふたつー!
すげー! いっきにふたつ、すげー!
やた、やた、やったー! やったー!
すげー! すげー!
やったー! やったー!
ははは、はははっ!
あははー、あははー!
……
いま、ないたからすが、もうわらう~
……
あかごのてをひねる~
……
こんかいは、ごういんすぎたかな~
……
はんせい、はんせい~
……
ぶい~
さて、我慢したかいもあってか、第一志望校の合格を無事に果たしたおじさん。


入学早々、今度こそ仲間を集めてゲームを、と意気込んでみたものの、やはりクラスの誰にも取りあってはもらえず、校内にわずかなりとも棲息していた筋金入りのウォー・ゲーム愛好者たちからも相手にされなかったのだそうだ。


ちなみにオフクロとクラスメイトだったのは二年次以降の話らしいのだが、それはさておき。


こうなるとさすがのおじさんも意気消沈……かと思いきや、なんのその~! と一念発起したらしく、シミュレーションゲーム関連の雑誌に載っていたゲームイベント情報を吟味した結果、都内の公共施設の一室を借りて催されていた小規模な集会にまで足を運んだのだそうだ。


お目当てはもちろん念願のゲームプレイ。


だがここにきておじさんは、思ってもみなかった驚愕の事実に直面することになる。


その驚愕の事実とは。


ズバリ、一言でお願いします。

いざ、遊んでみたら、つまらなかったのだ~
以上、おわり。
なあなあ、げーむますたあ
なんでしょう~、ほしのまじゅつし~
おじ……げーむますたあ、は、さ
いつから、このげーむ、やってるの?
ちゅうがくせいのころからだよ~だよ~
ふーん……ともだちと?
ひとりで~
ひとり? ひとり?
ひとというじは、ささえあわなくても
ひとなのひとなの~
ひとりで、どうやってあそぶんだよ
てんちそうぞう~
てんち……そうぞう?
でんちぎれ、そろそろ~
は?
きょーこも、でんちきれたー
じゅんこさーん
ぴざの、ほきゅうでん
たのまれておくれやす~
ちなみにいまのは、ほきゅう、と
でんきの、きゅうでん、の
がったい~
へんしんー
ゆうき、と~
あい、がー
らららら~
らららー
……おーい、おいてかないで……

参加者の皆さんは初心者であるおじさんを暖かく迎え入れ、スリルと興奮に満ちた冒険の旅へと誘ってくれたらしい。


そのことには深く感謝しながらも、どうしても心の底からゲームを楽しむことができなかったのだそうだ。


失望を味わった一日の終り。


黄昏時の家路を急ぎながら、プレイヤーとしては二度と遊ぶまい、心にそう誓ったおじさん。


またそれは同時に、とある野望の種が蒔かれた瞬間でもあった。

ますたあはさあ、ぷれいやー、じゃなくて
ますたあ、だったのよ~
それ、あたりまえだろ?
ちがうのちがうの~
ますたあはさあ、ますたあ、だったのよ~
どういうことだよ
ますたあは、せかいに、いきる
ひとじゃなくて
つくる、ひとだったの~
ますたあは、すばらしい、せかいを
つくるの~
ますたあは、たいせつな、いのちを
うみだすの~
ますたあは、そこで、みんなに
たのしくいきて、ほしいの~
……
へい、ますたー、みるくおくれー
ままのおっぱいでもすってな、こぞー
ごめん、かんどうして、そんしたきぶん
皆が遊べる場を、素晴らしい世界を、提供したい。


そんな野望に向かって最初の一歩を踏み出したおじさんは、自らが創りあげる世界にふさわしいゲームシステムを選定すべく、国内外のゲームを取り寄せては比較検討を続けるうちに、ある一つの結論へと至ったらしい。

すべての、るーるは
せかいの、ことわりの、そうぞうを
めざしている~
つまるところは
かみの、そうぞうである~
ならば、ここに、わたしという
りそうにもえる、かみが、いるのだから~
わたしいがいの、るーるなんて
いらないよね~
だいじょぶだいじょぶ~
みせかけのすうちと、あどりぶで
なんとでもなるから~
……と、まあ
そういうけつろんに、たどりついたのさ~
……じゅんこねーちゃん
おじさんが、こんどは
かみさまに、なっちゃった……
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