ルール・ザ・タイフーンⅠ

文字数 4,064文字

ほーい、ふたりとも
きゃらのなまえ、かんがえて~
うーん
うーんうーん
きまったかな~
……うん、おれ、てる・びえろ!
あたしー、ぽっぽこてんきねずみー!
……
あー、でも、あうとざーぎ、もいいなぁ
ぽっぽこー! ぽっぽこー!
……きょうこは、たいようのけんし
きみは、ほしのまじゅつし
へ?
へ?
けってい~!
もう、へんこう、できません~
いやだよ、なんだよ、ほしって!
ひとのなまえじゃないし!
ぽっぽこ、ぽっぽこ
ぽっぽこてんきねずみー!
あーあー、きこえなーい、きこえない~
やだやだやだやだー! やだー!
つらいときは~、くちぶえふくのだ~
ぴーひょろろー
うわーんわんわんわん
うわーんわんわんわん
ちらっ
ぴーひょろろー、ぴーひょろろー
うわーんわんわんわん
うわーんわんわんわん
じごくだ
そのゲームは——月に一度か二度、恭子の家の食卓において、スナック菓子やデリバリーピザ、ソフトドリンクなどと共に供された。


そのゲームは——強まる上昇気流によって発達した積乱雲が熱帯低気圧へと成長するかの如く、上り詰めたおじさんの情熱が大きな渦となって、ありとあらゆるものを巻き込むかのように催された。


そのゲームは——主にダイス……サイコロと、おじさんの想像力によって世界が構築され、人々は息づき、妖精は踊り狂い、夜の世界を魔が闊歩した。


おじさんは——そのゲームにおける神……万物の理を体現した、世界唯一の、絶対的支配者であった……。

なあなあ、おじさん
げーむますたあ
え?
せっしょんちゅうは、げーむますたあ
と、よびなさい~
いいじゃん、べつに
げーむますたあ
えー
げーむますたあ
……げーむますたあ
なんでしょう~、ほしのまじゅつし~
……あたまいたい
【たいようのけんし、ほしのまじゅつし】。


俺と恭子はおじさんが主催するゲームをそう呼びあっていた。


だがその呼称はあくまでも俺と恭子、それとおじさんを始めとした家族のあいだでのみ通じる一種のニックネームのようなもので、そのゲームが本当はいったい何という名前のゲームなのか、どんなジャンルに属するゲームなのか、そもそも市販されていたゲームなのか、そうではないのか、そういったことすら当時から判然としていなかった。


そのため、俺が【たいようのけんし、ほしのまじゅつし】について語れるのは、おじさんからの伝聞により知り得た話と、俺たちが実際に遊んだ小学一、二年生当時の情景、それら二種類の情報についての断片的な記憶のみとなる。


それでよければ可能な限り、ここに記してみようと思う。

としおいた、のうふが
はなしかけてきました~
「おまえさんがた」
「どこにいきなされるのかね」
いずみで、どりんくどりんくー!
えーと
このさきのいずみにいく、といいます
……
たいようのけんしは
「しばし、いずみへ」
ほしのまじゅつしは
「ようでもあるのか、ごろうたい」
やりなおし、ぷりーず~
えー、なんでー? しばしってなにー?
おじさん、そんなのどうでもいいから
どうでもよくないっ! よくないの~!
やりなおすまで、ずーっと
いちじていし~
……
……



のうふの、ちゅうこくを、むしして~
うすぐらい、もりのなかを
あるいていると~
あたりから、ざわめくような
わらいごえが、きこえてきたよ~
いやー! なにー?
けんを、ぬいて、あたりを、みまわします
だいすを、ふって~
かんかくち、ごばい、でぃーひゃくろーる
ころころ……はちじゅうさん
どこから、わらいごえが
きこえてくるのか
きみには、わからない~
わらいごえは、しだいに、おおきく
なってくる~
わらいごえは、どんどん
ふえてくる~
やだー! やだー!
たいようのけんし、けんをぬけ!
ふたりのけんに、まじゅつをかける
なんの、まじゅつ?
ゆるされざるしゅくじょのなげき
だいすを、ふって~
じゅもん、えいしょう、でぃーひゃくろーる
ころころ……よんじゅうなな
ふたりのけんに、しびれぞくせいが
つけられたよ~
ほしのまじゅつしは、せいしんち、から
まいなす、はち、してね~
ふえーん、ほしのまじゅつしー……
けんをぬけってば、きょう……
たいようのけんし!
う、うんー、けんをぬくー
もう、あたりは、わらいごえだらけ~
あまりにも、おおきなこえで
わらっているので~
わらいごえ、いがいの、おとが
きこえません~
ふえーん……
もりのきが、うごきました~!
そっちを、みる!
ちいさな、おにが、もりのきから
さかさまに、ぶらさがっているよ~
おに……?
すすけた、はいいろで
にやにや、わらっている
きみのわるい、おに、だよ~
もりのきが、うごきました~!
そっちも、みる!
ちいさな、おにが、もりのきから
さかさまに、ぶらさがっているよ~
ほ、ほしのまじゅつしー……
もりのきが、うごきました~!
そっちも、みる!
ちいさな、おにが、もりのきから
さかさまに、ぶらさがっているよ~
なんびき、いるんだよ……?
ほ、ほしの……き、き、き
きりかかるー!
ま、まて、たいようのけんし!
もりのきが、うごきました~!
もりのきが、うごきました~!
もりのきが、うごきました~!
もりのきが、うごきました~!
もりのきが、うごきました~!
おおぜいの、こおにが、もりのきから
さかさまに、ぶらさがっているよ~
おおぜいの、こおにが
たいようのけんしに
おそいかかって、きたよ~!
やだ、やだやだやだやだ、やだー!
たいようの……きょうこー!



ざんね~ん、たいようのけんしは
しんでしまいました~
うえ、うえ、うえーん
いやー、いやー!
ざんね~ん、はかのなか~
いやー! はかのなか
おそなえ、いやー!
また、あたらしい、きゃら、つくろうね~
やだやだやだやだー!
……ふっかつ、させてくれよ
そんな、きせき、このげーむには、ないの~
うえーん、うえーん
たのむ、たのむ、げーむますたあ
……そんなにいうなら~
あ、ありがとう、げーむますたあ
あ、ありが、ありが、げーむますたあー
じゃあ、きょうはこれで、おしま~い
つぎ、あそぶときは~
きょうの、さいしょのところからに
なるよ~
だいじょぶ
ちゃんと、やりなおしさせてあげるから~
え?
え~?
ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ
えーと……
だからあ~、きょう、あそんだぶんは
ぜんぶ、けして~、なかったことに~
おれがたおした、あくとくしょうにんの
けいけんちも?
うん~
げっとした、ごきんせいの
おくすりも?
うん~
しぬまえの、むらから、またはじめるで
いいじゃん
でた~、ごつごうしゅぎ~
でた~、いや~ん
……もう、ろくじかんも、あそんだのに?
そのぶん、にどめは、うまくやれるさ~
いよぅ~、ますたあの、ふとっぱら~
……
……たいようのけんし、しぼうでいいよ
ぎゃー! ぎゃーぎゃーぎゃー!
おお~、たいようのけんしが
ぞんび、になっ、いてててて~
おじさんによると【たいようのけんし、ほしのまじゅつし】のようなゲームに関わった経緯を話すには、昭和五十九年……西暦で言うと1984年にまで遡る必要があるのだそうだ。


その当時十四才、中学二年生だったおじさんは、数年前から戦争を題材としたボードゲーム……いわゆるシミュレーションゲーム……ウォー・ゲーム、ウォー・シミュレーションゲームなどとも呼ばれるホビーにハマっていたのだが、秋もそろそろ終わりかといった休日にフラリと立ち寄ったショッピングセンターのおもちゃ売り場で偶然見つけたソレ……SFスペースオペラを題材とした【たいようのけんし、ほしのまじゅつし】タイプの海外ゲームを欲望のおもむくままに衝動買いしたのが、本人いわく、人生を変える運命の出会いとなったの~、だとか、ならなかったの~、だとか、あれあれ~? どっちなの~? ってな感じだったようだ。


……なんだよ、それ?


SF心をくすぐるこのゲーム~、多少毛色が違うようだけれど~、ウォー・ゲームと並べて売られていたからには~、どこかしら似たようなものに違いないの~。


さっさとルールを覚えてしまって~、ドキドキワクワクな未来宇宙の冒険旅行とやらを楽しませてもらおうじゃないの~。


予備知識も無く購入したというのに、そんな調子で高を括っていたおじさん。


ところが、いざ遊ぼうとルールブックに目を通したは良いものの、案に相違して一向に歯が立たなかったため、慌てて行きつけのホビーショップに駆け込んで、シミュレーションゲーム関連の雑誌を最新号からバックナンバーまでありったけ買い込んで、関連する特集記事やゲームプレイの再現記事などを読み漁ることによって、ようやっとのこと、そのゲームが提示している新たな概念を理解することができたのだそうだ。


思わぬかたちで未知との遭遇を果たしたおじさんは、興奮のあまり同種の国産ゲームを次々と購入してはルールブックを読み込み、そこから発展させた空想の世界に浸っては一人悦に入る日々を送っていたのだとか。


そうこうするうち三年生へと進級し、梅雨時を迎えたある日のこと。


いつものホビーショップに足を運んで、入荷されたばかりの、ファンタジーを題材とした【たいようのけんし、ほしのまじゅつし】タイプの海外ゲームを購入したおじさんは、それを機に一度は自分でもゲームをプレイしてみようと思い立ったらしいのだが……。

ごっこあそびに、るーるがある~!
……
それが、たいようのけんし
ほしのまじゅつし~!
ねー、ねー、へんしんごっこ、しよー
……じゃあ
るーるに、ごっこあそびがあると?
それも、たいようのけんし
ほしのまじゅつし~!
ねー、へんしんごっこー
……おれときょうこの、へんしんごっこに
るーるがあると?
たいようのけんし
ほしのまじゅつし~!
へんしんひーろー、へん~
ちーがーうーのー!
ち~が~わ~な~い~の~!
ぐるるるー!
ぐるるる~!
あー……じゃあ
ぽーかーげーむに
ごっこあそびがあると?
たいようのけんし
ほしのまじゅつし~!
こうやの、かうぼーい、ぎゃんぶる、へん~
……わーてるろーのげーむに
ごっこあそびがあると?
わがはいの、じしょにも
ふかのうの、もじが、あったのだー、へん~
きもだめしに、ごっこあそびがあると?
おばけになった、ふりをして~
すきな、おとこのこに
うふふふふう~、へん~
きもだめし、いいかもー……じーっ
なんだよ、やらないぞ、おれのぽてち
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